<第四話>二人の軌跡・Ⅰ
付き合い始めた頃、つまり二人が大学生の間は、お互いに自由な時間が沢山あって、一緒に過ごせる時間に困る事なんて無かった。
昼食は、いつもサークルの人が集まってランチを取る場所で、彼と一緒に食べていた。
サークル活動中に一緒なのはもちろんのことだったし、その後に二人だけで帰ったりもしていた。
活動の無い日は、映画を観たり、美術館に行ったりと色々なデートをして楽しんでいた。会っている時には、ささいな事でも笑い合い、家に帰る時間なんて来なければいいのにと思いながら、その日の別れを惜しんで、終電近くまで一緒に過ごしていた。
付き合ってから二年近く経った頃だった。
二人の過ごす時間に、少し変化が起き始めていた。
四年生になる彼の就職活動の影響で、会う時間が、減ってきていたのだ。
活動が思うように進んでいない明は、私に愚痴を言う機会が増えてきていた。
「なんで就職が決まらないんだろう。僕の良さって面接官には伝わらないのかな?」
明が久しぶりに会って、お店で食事をしていても、暗い顔でこう話しかけてくる。
「そんなこと無いと思うよ。明の良さは、ちゃんと面接官の人にも伝わっていると思うよ。だから、きっと採用されるよ。」
自分の気持ちを話した後は、食事の方に視線を落としてしまい、彼は黙々と食べていた。すっかり落ち込んでしまっていたので、その耳に私の励ましが届いているのかもわからない状況だった。でも、その時出来た精一杯の言葉で励まし続けていた。
まだ就職活動未経験の私には、上手く励ます言葉がなかなか見つけることが出来なくて、どうすれば彼を元気づけてあげられるのかと、当時よく悩んだものだった。
そして明の就職が決まり、ようやく楽しい時間をまた過ごせるようになると思っていた矢先に、今度は卒論という次の強敵が現れたのだった。
「今までデートでサボっていたつけだな。いやぁ、毎日大変だよ。」
そう言うと、明は卒論に掛かりっきりになってしまった。
デートでサボっていたと言われてしまうと、私のせいで卒論が出来ていなかった気になってしまった。そして、これ以上の迷惑を掛けないようにと、大人しく彼の卒論が終わるのを待っていた。
明の卒論が終わってからは、しばらく楽しい時間が戻って来た。
また色々な場所にデートで出かける機会が増えた。
サークルの活動をしていた週末も、この頃には、すっかりデートの時間に変わっていた。
明の代がサークルを引退したので、週末はもっぱら二人で過ごすようになったのだ。
年末には、彼と一緒に卒業旅行にも出かける事になった。
さすがに両親に彼氏と二人で旅行に行くと言う事が出来なかった私は、サークルの女子友達と一緒に、旅行に行くことになったと説明した。
「静と一緒に旅行に来て良かった。本当に楽しいな。」
そう言って笑ってくれている明と過ごす時間は、とても大切な時間だと思った。思い切って卒業旅行に一緒に行くことにして、良かったと思った。