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<第三十九話>平日のお泊り

 仕事の忙しさに逃れるように、明とは会わず、残業をして過ごす日々が多くなっていた。


「今日、部屋に行くよ。」

明からの連絡が入った。


「ごめん。今日も残業が終電近くまであるから、早く帰るのは難しいな。」

 最近この断り方が多いなと思いながら、返事をしていた。


 「今晩、静の部屋に泊まる。だから今日は部屋に行くよ。」

 いつもならさっきの私の連絡で途絶えるはずの返事が、明から送られて来た。

 

 明が平日に泊まりに来るのは、初めてだった。


 泊まってくれるからといって、さすがに本当にいつも通り終電近くまで仕事をして帰るのは悪いと思い、出来るだけ早めに仕事を終えるようにして、部屋に帰った。


 「ただいま。」

 挨拶をしながら、明かりの付いた部屋に入ってきた。

 すると、玄関脇にスーツケースが立てかけてあった。


 「あれ?スーツケースを持ってきたの?」

 私が意外そうに明に声を掛けた。


 「ああ。今日は駅のコインロッカーが空いてなかったんだ。」

 明が答えた。


 (駅のコインロッカー!?そう言えば、出張先からそのまま出社する時は、スーツケースを持っているのがカッコ悪いから、駅のコインロッカーを利用しているって話をしていた事があったな。)


 「なんだか出張に来たみたいだね。」


 「そうだな。親にも出張だって言っているしな。」


 (そうなの!?そっか、彼女の部屋に泊まるなんて一人息子が言って出掛けたら、お母さん倒れちゃうか。…そっか、そりゃあそうだね…。)


 「ねぇ、でも駅のコインロッカーに入れていたら、着替えが無くて大変だったんじゃない?」


 「そりゃあ、トイレに決まっているでしょ。ワイシャツと下着位なら、そこで簡単に着替えられるだろ。」

 明が当然のように答えた。


 (あれ、トイレで着替えているの?)

 「そっか、いつもそうしているから、もう慣れているんだね。」

 私が聞いてみた。


 「そうだよ。もう社会人になって何年経っていると思っているんだよ。」


 「そうなんだ。明はトイレで着替える事が、そんなに何回もあるんだね。」

 私は、明の目を見つめながら質問をしていた。



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