<第三十六話> 姉 妹
「ううん、そんな顔はしていないよね。お姉ちゃん、どうしたの?」
遥が優しく聞いてきた。
「ごめんね、遥。せっかく幸せ一杯な話を聞かせてくれていたのに。
…何だか勝手に、涙が出てきちゃったんだよ、本当にごめん。
遥がさ、誠二さんと付き合い始めてすぐに私が家を出ちゃったから、そういう話をゆっくり聞くのって、初めてだったね。
誠二さんは、お家にも気軽に訪ねて来てくれたりして、すごいね。
明は、そういうのって重たく考えているみたいで、すごく苦手だからって来てくれないんだよね。」
「気軽に考えている訳ではないと思うよ。身支度してから来る位だから。
でも、そうだね、来てくれたね。」
「そっか、そうだね、ごめん。
…そういう誠二さんの話を聞いたからこそ、涙が出てきちゃったのかもしれないね。
私さ、今日明とケンカしちゃったんだよね。
ケンカって言うのかな?なんだか揉めちゃったの…。
彼ね、最近私と会う回数が少なくなってきている理由を、勝手に浮気だと思っていたんだよ。
ひどいよね、そんな事有る訳無いのに…。
でもさ、なんでそんな風に誤解されちゃったのかな?って考えながら帰って来ても、よく理由も分からなくって、すっかり落ち込んでいたんだよね。
…ごめん!こんな暗い話なんかしちゃって。今日の私の頭の中、まだ全然整理が出来ていないみたい…。」
私は、遥のせっかくの幸せ一杯な話の最中に、こんな暗くなる話をしてしまった事を後悔して、すっかり慌ててしまった。
「全然大丈夫だよ。
私の方こそ、そんな大変な時に帰って来てもらっちゃってごめんね。
一緒に居て、ちゃんと納得するまで話合ってきた方が良かったんじゃない?」
遥が申し訳なさそうに言ってきた。
「それは大丈夫。
誤解だって話したら、納得してくれたみたいだったし。
それに、その事を反省して急に落ち込んじゃったから、もうどうしてそんな風に考えたのかを聞ける雰囲気でも無くなっていたんだよね。
だからむしろ、あのタイミングで連絡をくれて、助かったのかもしれない。」
私は、あの時遥から連絡が来て、あの場から離れられると思った自分に気が付きながら、答えていた。
「そうなんだ。
でもさ、やっぱりちゃんと納得したいよね。
お姉ちゃんは、明さんが納得するまでちゃんと話をするのに、明さんってあまりそうしてくれないイメージがあるんだよね。まあ、実際に会った事がないから、あくまでイメージなんだけれどね。
でもさ、ちょっと長くなっちゃうかもしれないけれど、今の浮気疑惑の話を聞いて、どうしても話したい事があるんだよね。
お姉ちゃん、聞いてくれる?」
そう言いながらも、絶対聞いてねという勢いで、顔を近づけて来た遥だった。




