<第三十五話> 誠 二
「ねぇ、今日の誠二さんの訪問って、何かあったから来たの?」
家に彼が訪ねて来るという事をすごい事だと思っていた私は、思わず聞いてしまった。
「あった、あった。聞いてくれる?」
遥が面白い話をするように話し始めた。
「この間、二人で鎌倉に遊びに行ったの。
その帰り道の電車って、家の駅を通るじゃない。だから、誠二に『今から家に寄ってく?お母さんの入れたお茶美味しいんだよ。』って軽く聞いたの。
そしたらさ、結構彼が慌てて『そんな、いいよ』って断ってきたんだよ。
だから、『そっか、そっか』って明るく答えたけれど、そんなに焦らなくってもって結構内心傷ついていたんだよね。
でもね、その次の週末が近づいてきた時に、あいつから『近いうちに遥の家にお茶を飲みに行きたいな』って言ってきたんだよ。
だから私、『この間はあんなに嫌がっていたのに、どうしたの?』って聞いたらさ…。」
遥がその時の事を思い出して笑いだした。
「誠二がさ『実は、この間は寝坊して、髪もボサボサだったし、服も一番上にあった服をとりあえず着ていたんだ。だって遥は、待ち合わせに遅れたら怒るだろ…。
でも、今週中に床屋も言ったし服も新調したから、それを着ていく』って真面目な顔で言ってくれて…。
でも私が、嫌がっていたんだとばかり思っていたから、その誠二の答えを聞いて嬉しかったんだけれど、真面目な顔もなんだかおかしくなってきちゃって、笑い出しちゃったの。
そうしたら、誠二が、『えっ、この髪型、変だった?』って聞くから『そうじゃない』って謝って、誤解していた話をしたら、『そんな事ないよ。そんな見た目の時に、いきなり初対面のご両親のいる家に訪ねてなんて行けないでしょ。だってそんなことで印象悪くしたくないからね。』なんて言ったの。
もうおかしいでしょ。」
遥は楽しそうに話してくれた。
「それは、誠二さん楽しい…。」
私は、笑顔で答えた…。
でも、右目から勝手に涙が出て来てしまった。
「えっ、ヤダお姉ちゃん!?
そんな涙が出る位、面白かった?」
遥が私の涙を見つけてビックリしていた。




