<第三十一話> 疑 惑
「どうしたの?急に変な事言ってきて。
この間っていつの事を言っているの?
部屋に帰って来なかったって言うなら、きっと家に帰っていた日の事だと思うけれど…。
『帰って来なかった』って、そんな遅い時間まで部屋にいたの?」
「何をそんなに驚いているんだよ。
気まずそうにもして、聞かれたくない事を聞かれたからか?」
「そんなことないよ。驚いているだけだよ。
連絡もしないで突然来ていたって事にまず驚いたし…。
それに、明はいつも終電近くには家に帰っているのに、どうしたんだろうとも思って…。」
私にとって、今話している明の行動は、謎だらけだった。
「そんなに驚く事ないだろ?
やましい事がなければ、突然彼氏が訪ねて来るのは、単に嬉しい事のはずだろ。」
明がまだ疑いの目を向けながら聞いてきた。
「ねぇ明、どうしてそんな風に誤解しているの?」
私は、明に落ち着いてもらおうと、ゆっくりと話しかけた。
「誤解?静こそ何を言っているんだ。
誤解なんかしていない。
そもそも最近の静が、僕に距離を取るようになったからだろ。
そうだな、おかしくなってきたのは、部屋を飛び出した後位からだな。
あの日も事故に遭ったなんて言っていたけれど、ちょっと後に会った時、全然ピンピンしていたじゃないか。
変な電話も掛けて来たし…。そう言えば、あの日も僕が帰るまで帰って来なかったっけ。
それに変な男が助けてくれたって、やけにアピールしていたよな。」
明はすっかり興奮していた。
「明、落ち着いて聞いて。
事故はちゃんとあったよ。検査だけだったからすぐに退院したけれど、入院もしたよ。
事故の事を疑っていたなんてビックリしたよ。
そうだ、領収書を見せようか?」
明の誤解を解こうと私は領収書を探した。
「ごめん、お母さんが払ってくれたから、実家にあるんだった。今度帰ったら借りてくるよ。」
「それで、次は持って帰って来るのを忘れたって言うのかい?」
明が意地悪そうに言う。
「そんな事無いよ。すぐに持って帰って来るよ。
明、いい加減にしてくれないと私だって怒るよ。どうして私が明に嘘をつく必要があるの?」
明のあまりの物言いに反論した。
「ああ、分かったよ。じゃあ領収書を見たら、ちゃあんと謝るよ。」




