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<第二十七話>入院費用

 東山さんが帰った後、病室は静かになった。

 

 私達は、昼食を食べながら珍しく言葉少なめに話をしていた。


 「慌ただしく帰ってしまったわね…。


  ごめんね、静…。後ろ姿だったし、そもそも明さんは写真で見ただけだから…。


  病室まで来てくれるような方だから、てっきり明さんなのかな?と思っちゃって、声を掛けたの。」

  母が申し訳なさそうに言ってきた。



 「えっ!?お母さん、人違いで声を掛けていたの?」

 私は驚いて聞いた。


 「…そうだったの。

 そっか、昨日助けて下さった方だったのね…。東山さんは、優しい方のようね。」

 そう言うと、母は少し遠くを見るような顔になり、また言葉少なに食事をしていた。



 昼食を終えて少しすると、母が話しかけて来た。

「そうだ、お父さんから伝言があったんだ。

 静、今回の入院費用は、お父さんが出してくれるって。」

 いつも通りの明るい母の声だった。


 「そんな大丈夫だよ。もう働いているんだから。」


 「でも、まだ社会人になったばかりだし、家を出てお金も随分使っているんじゃない?

 無理をしちゃ駄目よ。

 それとも、誰かが助けてくれているから、実はそんなに困っていないの?」

 

 「ううん。会社の補助は、自宅から通えるのに家を出た場合は、対象外なんだって。

 確かに引っ越しで随分お金は使っちゃったかな。


 そう言われてみると、自宅から通っていた時と違って、とても貯金できるような状況じゃあないわ。」

 私は、母の言葉で最近の財政事情が厳しくなっていた事に改めて気が付いた。


 「あらら、やっぱり。

 そんな事じゃあ、デートも明さんに奢ってもらったりしないとやっていけないわね。」


 「そんなことないよ。ちゃんと自分の分は自分で払っているよ。と言っても、忙しいから最近あまり出かけていないのか。

 

 まずいね。これで出かける回数が増えたら財政破綻を起こしちゃうね。」

 私は、危機感を強めて言った。


 「あらあら、大変。


 でも自分一人で決めた一人暮らしじゃないんでしょ。

 それに明さんは社会人として先輩な上に自宅通勤なんだから、ちゃんと相談して、少しくらいやりくりしてもらったら?」


 (お母さんって、さらりと自分が思う解決法を言うなぁ。それが簡単に出来るんだったら、苦労しないよ。

 それに、やっぱり一人暮らしを始める事を明と決めた事も分かっていたんだな…。)


 「うん、そうだね。」


 「ほら、また抱え込む!

 『言えないなぁ』って顔に書いてあるよ。

 ごめんごめん、意地悪な事を言ったりして。


 とりあえず、じゃあ入院費用はちゃんと出すからね。ちゃんと受け取ってよ。」

 そう言い終えると母の話は、最近の父や遥の事に変わっていった。



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