<第二十六話>ほんの一時
「お礼なんて…。
ゆっくりお話ししたい気持ちはあるのですが、昼休みに会社を抜けて様子を見に来ているだけなので、もうこの辺で失礼します。
実はこの後にすぐ打ち合わせが入ってしまっていて…。」
東山さんは、名残惜しそうだったが、もう部屋を出ようとした。
「あっ、そうだったんですね。お忙しい所にお時間を作って来て下さって、どうもありがとうございました。
あのう、まだ入院しているのは、今日の夕方に念の為に頭部の検査をするんです。
後、私の意識が無かったのは、頭部を打った所為ではなく、恐怖で失神していた可能性が高いと昨日先生に言われています。
ですから、私きっと大丈夫です。
本当に東山さんは、もう気になさらないで下さいね。
今日は来て下さって、どうもありがとうございました。」
私は、もう帰ろうとしていた東山さんに、慌てて意識が無かった理由の報告をした。
「西谷さんは、几帳面で優しい方ですね。
元気そうなお顔を見ることが出来ましたし、怪我が軽そうなお話も聞けて安心しました。
これからは、道路の横断に気を付けて下さいね。それでは。」
東山さんは笑顔でそう言うと、足早に帰っていった。




