<第二十五話>お見舞い・Ⅱ
「今ね、部屋の前にいらっしゃったから声をお掛けしたのよ。」
母が明るく言った。
「うん、聞こえていたよ。」
「あら、静にまで聞こえていたの。お見舞いに来てくれる方がいて嬉しかったから、声が大きくなっちゃったのかしら?ごめんなさいね。」
母は少し恐縮して、声が小さくなっていた。
「あの、東山 昇と申します。
私の不注意で娘さんを入院させてしまいまして、すみませんでした。」
彼は、部屋に入ると母に向かって謝ってきた。
「えっ!?」
母が驚いている。
(大変!?『不注意』なんて聞いたら、私も思っちゃった位だから、これじゃあ運転していた方だって、お母さんもきっと思っちゃうんじゃないかな。)
「お母さん、さっき話した昨日私を助けて下さった方だよ。」
私は母に急いて伝えた。
「そうなのね、ありがとう。
初めまして、静の母です。
昨日は、娘を助けて下さって本当にどうもありがとうございました。
どうぞ、娘の命の恩人なのに、不注意なんておっしゃらないで下さい。」
母が丁寧に東山さんに挨拶していた。
「いいえ、私が助けた時に道路脇で転んでしまいまして、お嬢さんは意識を無くしてしまったんです。
車を避ける事に必死でしたが、自分と一緒に転倒させてしまい、申し訳なく思っています。」
東山さんは、母に頭を下げていた。
「あのう、西谷 静と申します。
東山さん、昨日交差点に入ってしまった私に、声を掛けて下さったり、助けて下さったりと本当にどうもありがとうございました。」
私は、きちんと頭を下げてから礼を言った。
「あっ、いいえ。
前を歩いていたあなたが、俯いたままゆっくりと交差点に入っていってしまったので、慌てて声を掛けていました。その後の事は、もう自分も必死だったので…。
今日は、無事に退院出来たのかがやはり気になっていたので、病室まで様子を見に来たのです。
そうしたら、まだ病室にいらしたので『あれ?大丈夫なのかな?』と思って少し様子を見ていたら、お母さんに声を掛けていただいて…。
ただ、私が急に病室に来ても、あなたが驚かれるだろうと思ったので、そのまま失礼させていただこうと思ったのですが…。
すみません、結局このようにご挨拶させていただきまして。」
「とんでもないです。
昨日あなたに助けていただいた話を病院の方から聞いた時に、もうあなたは帰ってしまった後でしたので、お礼も伝えられなかったと思っていたんですよ。
今日、こうしてきちんとお会いする事が出来て良かったです。」
私は、感謝の気持ちがちゃんと伝えられた事にホッとしていた。




