<第二十一話>初めての質問
「何、お母さん。急に真面目な声で話して来て。」
私は、母の質問から逃げるように、思わず茶化して答えた。
「そんなに警戒しないで。別にお母さん怒っていないわよ。
ところで静、人事異動って何処に異動になるの?他の部署の庶務さん?」
母は、ケンカの理由として話した異動の事を聞いてきた。
「違うの。それがね、私企画に異動になるの。
ねえ、お母さん覚えている?
私が会社に入る前、いつか企画のサポートがしたいって話していた事。」
「覚えているわよ。
一番会社で仕事をバリバリやっている人達が集まっている部署だと思うから、自分もいつかそこで働ければいいなって話していたお仕事の事でしょ?
すごいじゃない、静。いきなりの大出世人事だったの?」
母がとても嬉しそうな顔をして、褒めてくれた。
「ありがとう!
…なんだかすごいよね、お母さんって。
私がそう言って欲しいなぁって思う言葉を、ちゃんと言ってくれるんだね。」
(私、昨日の明にも、こういう風に言って欲しかったのかな?)
母の顔をジッと見つめながら答えていた。
「当たり前でしょ、お母さんなんだから。いつも言っているでしょ。お母さんは、世界で一番静ちゃんが大好きなんだよって。」
母が笑顔で答える。
「はいはい、知っていますよ。
お母さんは、お父さんと私と遥が世界で一番大好きなんでしょ。」
いつもの母の言葉に、私もいつもの答え方をした。
「そうよ静ちゃん。正解。
でもね、同じ位大好きなんだけれど、実は、お父さんとあなた達二人の大好きは、少し違うって事知ってる?」
「何?それってLOVEとLIKEってこと?お父さんの事は愛しているけれど、私達は好きっていう意味?」
私は、母のいつもとは違う初めての質問に、戸惑いながら答えた。




