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<第十五話>母の力

 その後は、私の怪我の状態を聞いてくれたが、『じゃあ大丈夫だね、もう家に帰る時間になるから。』と、明の電話はすぐに切れてしまった。


 明との電話が終わると、看護師さんと目が合ってしまった。

 

 「…あの、すみません、もう一件だけ電話をかけてもよろしいでしょうか?」

 私は、自分が聞いてもかなり落ち込んでいる声だなぁと思ってしまうような話し方で、看護師さんに聞いていた。


 「はい、もちろん大丈夫ですよ。どうぞ使って下さい。」

 看護師は、すぐに優しい声でそう答えてくれた。


 私は、実家に電話を掛けた。


 「はい、西谷です。」

 お母さんが電話口に出た。


 「お母さん、夜にごめんね。あのね…」

 話そうとしたのだが、久しぶりに母の声を聞いたからだろうか?…涙が出て来て言葉に詰まってしまった。


 すると、看護師さんがすぐに隣に来て、電話を代わるジェスチャーをして、私に微笑んできた。

 私は、そのまま電話を看護師さんに渡した。


 「お電話代わりました。突然すみません、私K大学病院の看護師をしております飯野と申します。

実は、先程娘さんがこちらに救急車で運ばれてきまして、その事を遅い時間ではございますが、ご連絡をさせていただきました。」


 「えっ!静が救急車でそちらに…。先程、電話口にいたのは娘でしたよね?娘は、静は大丈夫なのでしょうか?」

 母の驚いて話している声が、受話器から私の所にまで聞こえて来た。


 (お母さん、相変わらず声が大きい。もう、ビックリしちゃっているのが、隣にいる私にも直接聞こえてくるよ。)

 母のいつものよく透る高い声が聞こえてくると、少し落ち着いてきて、涙も止まり、少し笑ってしまっていた。


 その私の様子を見た飯野さんが、

 「はい、ご無事ですよ。

 交通事故の際には、意識が無かったので搬送されてきましたが、幸い、娘さんに外傷はほとんどありませんでした。

 ただ、頭部を打っている可能性がありますので、頭部の検査をお薦めしています。

 それでは今から、娘さんに電話を戻しますね。」

 と母に話すと、電話を私に渡してくれた。


 「もしもし、お母さん。ごめんね、ビックリさせちゃって。」

  私は言った。


 「もう静ちゃん、本当よ。

 お母さん体弱いんだから、ビックリさせないで。心臓が止まっちゃうじゃない。」


 「お母さん、家族で一番元気なんだから、大丈夫だよ。」


 (ああ、やっぱりお母さんだぁ。)

 私は母の言葉を噛みしめながら、笑顔で答えていた。


 「すぐそうやって、私を元気な人扱いするんだから。

 これでもお母さん、静が一人暮らしを始めたりしたから、寂しくって元気がなくなっちゃったんだからね。

 ねえ静、病院のお見舞い何時まで?今からすぐ行けば、まだ間に合う?」


 と母に聞かれても、答えが分からない私は、飯野さんの方を見た。


 すると、その会話がちゃんと聞こえていた彼女が、指で小さな×印を作りながら、『十時まで』と申し訳なさそうに小声で教えてくれた。

 

 「ごめんね、お母さん。十時までだった。」

 

 「じゃあ明日は、何時から面会始まるの?朝一番で行くよ。」


 『九時からですよ』

 と飯野さんが小声ですぐ教えてくれる。


 「九時からだって。」


 「了解。じゃあ、準備して朝一番にすっ飛んでいくね。

  それから、静ちゃん。さっき看護師さんが薦めてくれていた頭の検査の申し込み、ちゃんとするのよ。後になって後遺症とか見つかったら大変なんだからね。

  今ね、横でお父さんも『うんうん』頷いているからね。わかった、ちゃんと受けてね。」

  と母が、検査の事も親の意見を伝えてきてくれた。


 「うん、じゃあ申し込みするね。」


 「よかった。じゃあ今日はもう寝なさいね。それじゃあ、明日行くからね。」

 母は私に元気をいっぱいくれて、電話を切った。


 「電話、どうもありがとうございました。」

  私は、飯野さんに電話を返した。


 「明るいお母さんですね。」

  電話を受け取りながら、笑顔で飯野さんが言った。


 「あっ、大きな声ですみませんでした。ほぼスピーカー状態でしたね。」

  少し照れながら、私は答えた。


 「大丈夫ですよ。西谷さんの事を本当に心配なさっていたのがすごく伝わって来ました。」

  飯野さんがそう答えてくれた。


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