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<第十二話> 事  故

 …… 気が付いたら、病院のベッドで寝ていた。


 「あっ、良かった。気が付いたんですね。じゃあ、すぐに看護師さんを呼びますね。」

部屋の入り口近くの椅子に座っていた見知らぬ男性が、優しく話しかけてきた。


 (この人は、誰かしら?もしかして、あの車の運転手さん?)

初対面の男性が病室にいた事に当惑して、その人の言葉に返事が出来ないでいた。



 「看護師さん、きっとすぐに来てくれますよ。看護師さんが来たら、僕は帰りますから。」


 男性が言った通り、看護師さんは医師と一緒にすぐに病室に来てくれた。

 そして、看護師さん達が入って来ると、私達に会釈をして、男性は病室から出て行ってしまった。



 「良かった、すぐに意識が戻って。先程あなたは、交通事故に遭われたんですよ。事故に遭われた事、覚えていますか?」

 医師が優しく話しかけてきた。


 「はい、覚えています。…と言っても車が目の前に迫ってきた所までしか覚えていないのですが…。私、助かっていたんですね。…良かった。」

 私は驚きと不安から、ゆっくり、そして少し小さな声で答えていた。


 「そうですか。先程、交通事故と言いましたが、正確には事故に遭いそうになったと言うのかもしれません。

 あなたは、車にぶつかりそうになったギリギリの所で助けられました。ただ、今まで意識を失っていたんですよ。

 もしかしたらその時に頭を強く打った影響で、意識が無いのではないかとも考えられたのですが、目立った外傷も無かったですし、まだ原因を特定できず心配していました。

 ただ、先程のあなたのお話を伺うと、もしかしたら車が迫って来た恐怖で、失神なさっていただけかもしれませんね。

 まあ、見た目の外傷が無くても、やはり頭を打っている可能性もありますから、意識も戻りましたし、明日には念のため、精密検査を受けられた方がいいと思いますよ。」

医師が安堵の顔を浮かべながら話している。

 


 「…そうだったんですか。すみませんでした。歩きながら考え事をしてしまっていたので、周りを全然見ていなくって、気が付いた時にはもう赤信号の交差点に入ってしまっていました…。本当にすみませんでした。

 あのう、助けられたというお話でしたが、私は誰かに助けられたのですか?」

先程の話が気になって確認をしていた。


 「ええ。先程部屋を出て行かれた男性が、あなたを助けて下さった方ですよ。」

医師は、私がビックリするような話をサラっと答えた。


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