<第十一話>物思いにふける
(最近…、そう明とゆっくり会える週末の二人の会話は、その時遊んでいる事や見ているテレビ番組についてだったなぁ。
平日に会えても、あまり時間も無かったし、こんな風にちゃんと仕事の話をすることなんて無かったな。
…そう考えてみると、仕事に対する価値観のような話をしたことって、あったんだっけ?
そもそも、今まで私が大学生だったから、働く事について、自分がどうなりたいと思っているのかなんて、考えた事がなかったな。だから、それについて明がどう思うのかを聞くのも、当然初めての事なのか…どうしよう、今この話を続ける勇気が、…無い。)
「静?なんで黙ってこっちをずっと見てるんだ?なんかその目怖いな…」
明が言った。
自分の部屋だったけれど、今はこれ以上明と一緒にいたくなかった。
(今話しても、明に嫌われてしまいそうな事しか言えない気がする…。
駄目だ!ここにいちゃダメなんだ!)
玄関に向かうと、そのまま部屋を飛び出してしまった。
こんなケンカになってしまった事は、初めてだった。
トボトボと下を向いて歩きながら、考え込んでしまっていた。
(そうなんだよなぁ、明は、大好きな自分っていう存在がまずあって、それに従ってくれる私が好きなんだよな。学生の時からずっとそうだったな。いつでも話を合わせて、予定を合わせて、そして明の隣で微笑んでいた。
きっと明は、そんな私の事が好きなんだよな。
でも、私にも自分の考えがあって、明とは違う意見だってあったはずなのに…。
それって今まで聞いてくれたことって、あったかな…?
あれ?
じゃあ、彼の前にいる私って、本当の私じゃないって事なの?
私は、彼が理想としている女性を一生懸命目指しているの?
あれあれ?
それじゃあ、私って何者?
本当の私の性格じゃあ、ありのままの私じゃあ、彼は私の事を好きにならないってことなの?
初めてのケンカで、頭の中がグルグルしてきて、何が何だか、もう分からなくなってきていた。
「危ないっっっ!!」
突然、後ろから大声で叫ぶ男性の声がした。
「えっ、私の事?」
声に驚いて顔を上げた。
そして、赤信号の交差点に足を踏み出している自分に気が付いた。
(うそっ!私、何をやってるの?)
キ、キーーーッ!
急ブレーキを掛けながら車が私の方に向かってくるのが見えた。
(早く戻らなきゃ。えっ!足が動かない!どうして?)
逃げなきゃいけないのに、驚きと恐怖で体が動かせなかった。
もう車は目の前だった。
「いやぁ~!助けて~!」
唯一出来たのは、声を出す事だけだった。
私は、精一杯叫んでいた。
『…今日は、忘れられない一日になるでしょう。』
今朝の占いを読むアナウンサーの声が、ふいに頭の中をよぎった。
(えっ⁈あの占いが言っていた事ってこれなの?私死んじゃうの?うそでしょ!嫌だぁ~~~!)




