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消えたあの娘(ソーセージ猫の恐怖体験)

作者: ともっぴー

虫が出ます。苦手な方はご遠慮下さい。

猫の名前は「ソーセージ猫」。朋ちゃんのお姉ちゃんの葉子が作ってくれた猫っぽい人形だ。特徴はひょろ長い身体で、それが名前の由来となっている。


***


「ねぇ猫、知ってる?」


ふいにガーコが猫に尋ねた。

ガーコは猫の一番の親友で、カモの人形だ。右足を押すと音楽が流れる仕様になっていたが朋ちゃんが洗濯機で洗濯した時から鳴らなくなった。


「ん? なあにガーコ、たぶん知らないわ。」


猫は畳の上で息も絶え絶えに毛繕いをしている最中で、身体を捻ったまま答えた。

梅雨がすっかり明けてしまった今、気温はぐんぐんと上昇し、朋ちゃんのいない部屋の中は灼熱の暑さとなっている。人形にクーラーなど贅沢なのだ。せめてもの救いは、朋ちゃんのお母さんが換気の為に各部屋の窓とドアを開けっ放しにしてくれていることで、猫とガーコがいるその場所は、僅かに通る風を求めてやっとの思いでたどり着いた貴重な場所だった。しかしそれでも暑いことには変わりなく、朦朧とした猫は何故 毛の生えていない自分が毛繕いをしているのか、そんな矛盾にも気が付いていない。


だからガーコに「知ってる?」と聞かれたって、何か、を考えることなんてできなくて「たぶん知らない」と即答したのだ。「たぶん」と付ける事で緩い表現になったが、それは猫の口癖だった。


「ウーパーちゃんがね、行方不明なのよ。」


ガーコがそんな猫の耳に寄ってきて、ひそひそと教えてくれた。


「何ですって! あのウーパーちゃんが!?」


猫は怠さも忘れて飛び上がった。ウーパーちゃんはウーパールーパーの人形だ。以前、朋美と葉子の父親が、友人の手嶋さんの家へ遊びに行く時に、2人を一緒に連れて行った事があって、その時に頂いたのだ。

ところがウーパールーパーの人形は1つしかなく、葉子だけがもらった。欲しい欲しいと泣いた朋美に困った手嶋さんが、探して持ってきたのは可愛くないウサギの人形で、朋美は今でも根に持っている。

そのウーパーちゃんが行方不明とは!!


「探してあげなくちゃっ!」


猫は暑さも忘れて立ち上がった。そしてガーコと一緒に捜索を始めたのだった。


まず最初に行ったのは聞き込み調査で、猫とガーコは朋ちゃんの部屋に住んでいる全ての物に片っ端から話し掛けた。途中で気取った女・リリカに会ったので彼女にも手伝ってもらう事にした。リリカは気取っていていつもツンツンしているけれど実はとても寂しがりやで、しかも硝子のメンタルの持ち主なのだ。過去に問題を起こした事があって猫に救われた経験がある。


ところが、3人で苦労して聞き回ったというのに 誰もが 知らぬ・存ぜぬ なのだ。新入りの熊ちゃんなんて、ウーパーちゃんの存在すら知らなかった。


「ウーパーちゃんを知らないですって?一体何がどうなっているの!? まま、まさかまたリリカがっ!?」

「猫ちゃんっ、酷いわっっ。私を疑うなんて! 熊ちゃんは新入りなんだから知ってる訳ないでしょっっ」


猫がうっかりリリカを疑い、リリカが泣き崩れた。


「そ、そうだったわね、ごめんなさいリリカ。あたいが間違っていたわ。」


猫はすぐに謝罪し、座り込んだリリカに手を差し伸べた。その時、ガーコがまだ戻っていない事に気が付いた。泣いているリリカを慰めるのはガーコの方が上手なのだ。尤も、ただ甘えたいリリカは本気で泣いてはいないのだけど・・・。


「ねぇリリカ、ガーコが遅いわね。どうしちゃったのかしら?」


猫が言うと、リリカも顔を上げて辺りを見回した。


「本当ね、心配だわ。私、ちょっと見てくる。」


直ぐに飛び出そうとするリリカの腕を猫が掴まえた。


「待って! この状況で単独行動は危険だわ。暑さで倒れてしまう心配だってあるもの。だから2人で行きましょう。」


2人ははぐれない様に、手をしっかりと繋いで歩き出した。ガーコが聞き込みの担当をしたのは部屋の北側半分で、何故1人で半分を担当したのかというとベッドと勉強机が置かれてあるからだ。つまり居住スペースが狭く、対象者も少ない。だか、ここからガーコを探し出すとなると、死角が多く存在するので厄介だ。

猫とリリカは1ヵ所ずつ確認して回ることにした。


「まずは勉強机の周辺かしら? 下が一番怪しいと思うの。」


「そうね、あたいもそう思うわ、急ぎましょ。」


朋ちゃんは整理整頓をしない。お陰で机の周辺には本なんかも落ちていて、猫はその本を持ち上げて下を覗いた。


「いないわね。」


猫にとって、本はとても重たい。やっと3冊目の本の下を確認し終えた時、リリカは机の下の、椅子を収める空間を覗いていた。そして5冊目の本を持ち上げようとした時、ベッドの下を覗いたリリカが声を上げた。何かが動いた気がしたのだ。


「誰かいるの?」

「しっ、静かにっっ」


リリカの声に反応したのは、まさに探し求めていたガーコの声で、猫とリリカは慌てて声の方向に向かって走った。


『ガーコっっ!』

「静かにっってばっっ」


2人の重なった声にガーコが声を荒げ、たちまち しん、と静まり返った。そうして こほん、と咳払いをしたガーコがゆっくりと話し始めた。


「あのね、何か聞こえるのよ。すすり泣く様な、消えそうな声よ。私はその声の元を探しているところなの。」


「もしかしてウーパーちゃんってこと?」


猫が興奮して尋ねると、ガーコは首を横に振った。


「残念だけどウーパーちゃんの声ではなさそうよ。でも、気になっちゃって。」


3人で耳を澄ませると、確かに誰かが泣いていた。


「あたい、ベッドと壁の隙間が怪しいって思うわけ。どう?」


「私もそう思っているのだけど、ほら私って横に大きいでしょ。」


そう言いながら猫とガーコは ちらりとリリカを見た。


「わっ、私!? 無理よ、恐いわ。私の硝子のハートを知っているでしょう?」


リリカは身震いをしながら訴えた。隙間は暗く不気味な雰囲気が漂っている。一歩足を踏み入れたら2度と戻ってこられないような・・・。


「って きゃあっっ、」


猫とガーコは構わずリリカを隙間に押し込んだ。入れるのはスリムなリリカしかいない。誰かが助けを求めているのだとしたら、一刻を争うのだ。


***


泣く泣く闇に消えて行ったリリカが再び戻って来るのに数分もかからなかった。そして腕には丸いピンクのボールを抱えていた。よく見るとそれはただのボールではないようだ。彼女はボールだけれどニコニコ笑顔の、泣いているのにニコニコ笑顔の不思議なボールだった。


「ひぃぃっく。ひぃぃっく。ありがとうございます、ありがとうございます。」


しゃくりあげるニコチャンボールを3人で慰め、どうにか会話が出来るようになってから詳しく聞くと、もじもじと恥ずかしそうに語り始めた。


「私、実はかくれんぼをしていたんです。ちょうどいいと思ってこの隙間に入ってみたんですけど、なかなか見つけてもらえなくて・・・。そのうち おかしいな、と思って出て行こうとしたんですけど、恥ずかしい事に身体がぴったりはまってしまって動くことが出来ずに ずっと、ずうっと、ここにいたんです。頭なんかほら、埃まで被っちゃいました。」


「あらまぁ、一体誰とかくれんぼをしていたのよ? 無責任だわ。」


猫はぷんすかと憤って尋ねた。


「あの、あの、ウーパーちゃんと、コロさんです。でもあのっ、お二人はとてもお優しい方なんですっ、きっと何か事情があって・・・」


猫とガーコは顔を見合わせた。コロは随分前からこの部屋にはいない。事情があって別の国に行った時に恋人が出来て、もう戻らない、と決断したのだ。しかもそれは一年以上も前の事だ。そしてウーパーちゃんとは、今回探し求めている失踪者だ。


「一体誰が鬼だったわけ?」


おそるおそる猫が聞くと、ニコチャンボールはコロだと答えた。その答えを聞いて猫の背中はぞわりと冷えた。

つまり鬼のいなくなったかくれんぼで、ニコチャンボールとウーパーちゃんはずっと探されないままだったのだ。ニコチャンボールがこんな状態だったということは、ウーパーちゃんにだってあり得る話で・・・。しかも手足の動かせるウーパーちゃんが身動きを取れないという事は深刻な様に思えた。


「あたい・・・恐いわ・・。」


倒れそうになる猫をリリカが支えた。


「どうする猫ちゃん、歩けそうにないなら私とガーコで探してみるけど。」


「ありがとうリリカ、でもあたいは行くわ。大丈夫よ。」


猫は足を踏ん張った。(足は無いけども)ウーパーちゃんを探し出すまで休んでなんかいられない。


***


「ていうか、本当にどこにもいないわね・・」


かくれんぼ というヒントを得た3人は隠れられそうな場所をしらみ潰しに探しているのだけど、ウーパーちゃんは一向に見付からない。


「ねぇ、もしかして捨てられちゃったんじゃない?」


リリカがそう言うのも無理はないくらい、ウーパーちゃんは薄汚れて汚かった。それは大事にされていなかった訳ではなくてお気に入りだったからだ。遊ばれ過ぎてヨレヨレに弱っていたし、かなりの古株だからあちこち擦りきれてもいた。


「・・・そうね、だいぶ古かったものね。」


猫もそう言って諦めかけた時、ガーコはふと探していない場所があることに気が付いた。


「ねぇ、押し入れ・・・ 押し入れってまだ見てないわよ。」


「押し入れって、でも、開けることが・・あっっ! 開いてるっっ」


先入観から開いていないと思い込んでいた押し入れだったのだが、朋ちゃんのお母さんが時々換気をしていたのだ。湿気が溜まるとカビがはえるらしい。そしてまさに今、開いている。


「探すなら今っきゃないわね。行くわよっっ」


猫を先頭にガーコ、リリカと続いてその暗がりに侵入した。夏の押し入れは むあっと、鬱陶しい空気が纏わりついてくる。ぎゅうぎゅうと詰まった衣装ケースが行く道を阻んでいるかのように思われた。

開いた襖から僅かに射し込む光が唯一の心の支えで、万が一閉じられてしまったら、と想像するだけで身が縮み上がった。

そうして一行が、光が届くか届かないか、という押し入れの奥の奥、衣装ケースの裏側に辿り着き覗き見た時、猫は目に映った物に絶叫した。猫は猫なだけに暗がりに強い視力を持っていたのだ。


「にゃーーーーーーっっ!!」


なんとそこからウーパーちゃんの足がちらりと見えていた。それ以上の光景も・・・。恐怖のあまり尻餅をついた猫の代わりにガーコが前に出た。ガーコは暗がりにだいぶ目が慣れてきて、猫程鮮明ではないが、何かがそこにあるのは分かる。


「ウーパー! ウーパーなの!? 助けにきたわよ!」


返事はない。

猫は口が聞けない程ガクガク震えながら、必死で手を伸ばしガーコを止めようとしていた。


「猫ちゃん? どうしたの?」


リリカが猫に声を掛けるが、猫の目はガーコの先にあるウーパーから離せないでいた。


「ガーコ、私、明かりを持って来る。猫ちゃんも待ってて。」


機転をきかせたリリカが走って押し入れから出て、懐中電灯を持って戻ってきた。懐中電灯というか、本当は朋ちゃんの防犯ブザーで、おまけのように小さな電球がついているやつだ。防犯ブザーはいろいろな機関から頂くので、余って放って置かれていたのだ。


リリカが見た時、ガーコはウーパーちゃんの足を引っ張って引き摺り出している最中で、猫は口をパクパクさせながら首を横に振っていた。(首は無いけどね。)そんな猫を横目で見て首を傾げつつ、リリカは明かりを点し、高く持ち上げた・・・・




「ギャーーーーーッッッッ!!」

「キャーーーーーーッッッッ!!」




明かりに照らされたウーパーちゃんを見て、2人は悲鳴をあげ猫は目を伏せた。


なんとウーパーちゃんの擦りきれて出来た身体の穴に、黒い虫が頭を突っ込んでいて、虫自身も死んでいたのだ。

艶のある気味の悪い羽が、はらりと地面に落ちていた。








***


その後ウーパーちゃんは3人の計らいによって無事に朋ちゃんのお母さんに発見され、処分された。3人が見た時、既にウーパーちゃん息を引き取っていたのだ。(人形だけどね。)

いつ、どのような状態でその黒い虫がウーパーちゃんの身体を蝕んでいったのか、誰も知らない。せめて息を引き取った後であることを願うばかりだった。



南無阿弥陀仏。3人は押し入れの前で手を合わせ、冥福を祈った。



呼んで下さってありがとうございます。

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