表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
8/62

第八話

「なるほど…、で、ここを紹介された、と」


しかしその問い対し沢辺氏は、

意外なことを聞いてくる、とでもいうような表情で、


「いえ…」


と言下に答える。



ふむ、阿木島ならやりかねんとも思ったが、

そうでもなかったか。


「ただ…」


「ただ?」


そう言うと沢辺氏は、

ごにょごにょと言いにくそうに、

そして口ごもるようにしながら続ける。


「ただ…、そこではけんもほろろ、門前払いといった感じで…。

 それどころか、紹介は紹介でも、病院を紹介されたりと…」


語尾は消え入るように、そして後はうつむき、顔を隠した。


恥じているのか、それとも、

ここでも同じ目にあうのかと、恐れているのか。


俺はダンゴ虫のように背を丸めた沢辺氏から視線を離すと、

それを窓の外へと向けた。


鈍色をした、ビルの壁面が見える。


そうか、門前払いか。

それだけでなく病院までとは。


確かに、阿木島ならば、それはあるな。


やつの悪いところだ。

何でもかんでもストレートすぎる。


まあでも、

その性格が時に調査で大いに発揮されることもあるのだが、

どちらかと言えばそちらは稀で、

ほとんどはその言動、行動が原因による依頼者、

あるいは調査対象人とのトラブルが後を絶たない。


詳しくは聞いてないが、

それに関して今現在も幾つか係争中だったはずだ。


でも、いきなり病院、か。


全くあいつの無遠慮な物言いには、

伝聞であったとしても毎回ヒヤヒヤさせられる。


しかし、突然「絵が動く」とか何とか言われれば、

そう言いたくなる気持ちもわからなくもないが…。


俺はチラリと沢辺氏を見やる。


さて、人の話ばかりになったが、

俺も俺でそこまでストレートでなくとも、

何とかやんわりと上手く言って、

早々にお引き取り願いたいところだ。


しかしその為に、

もう少し話を聞いてみる必要があるな。

さすがに「絵が動く」と聞いただけでは、どうとも言えない。


俺はサラサラとペンを走らせ、

手帳に『絵の男』と書き込みを終えると、

軽く咳払いなどをしつつ顔を上げ、

組んだ指を所在なげにコネコネと動していた沢辺氏へ声をかけた。


「そうですか…、そこの事務所は本当にヒドイところですねぇ…。

 でも、沢辺さん、ココではそんなマネはしませんから、

 どうぞ、安心してお話し下さい」


その言葉に反応し、

顔を上げた沢辺氏の顔からは笑みこそ見られなかったが、

代わりに胸に手を当てホウッと一つ大きく息を吐いた。


そんな沢辺氏の様子を尻目にもちろん俺は、


『…話だけなら聞きますから』


そう心で付け加えることを忘れはしなかったが―。



と、まあこの段階では、

まだそんな風に軽い気持ちで考えていた。


『絵が動く』、そんなものは所詮ただの戯言に過ぎないと。


今思えば俺もこの時、

阿木島と同じくこの男を門前払いしておけば良かった、

話など聞くのではなかったと、そう後悔するのだ―。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ