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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
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第二話

それから阿木島は、

何やらベラベラと一人楽しそうに話し始めたが、

俺はあまりまともには聞かず、

適当に相槌を打ちつつも、歩を早めた。


事件現場のあった路地を抜けると、

そこはちょっとした大通りになっている。


行き交う車、人、そして人―。


そこには先ほどまでの路地とはまた印象が違う、

どちらかと言えば「近代的な」という建物が居並ぶ。


繁華街。


そう、これはまるで「張りぼて」だ。

こちらが表、先ほどまでの路地が裏。


それは、何も建物のことだけではない。


事件。


それは「現実」と「非現実」。


『事件』という「非現実」が、

『繁華街』という「現実」の裏側に押し込められている―、

俺にはそう思えて仕方なかった。


俺は振り返った。


もう一度しっかりと、

その「非現実」を確認しておきたかったからだ。


「非現実」それもまたやはり、疑うべきことのない「現実」なのだと。


しかし、振り返ったそこに「非現実」はなく、

あったのは阿木島の顔だけであった。


「おっ!ようやく食いついたな。そうなんだ、おかしな話だろう」


どうやら阿木島は、俺が話に興味を持ったと勘違いしたらしく、

嬉しそうに、そしてひとり納得したように、うんうんと頷く。


俺は何やら水を差されたような気分になり、

思わず苦笑いしてしまった。


しかし「苦笑い」というリアクションが、

生憎その阿木島の話に合っていたらしい。


さらに俺が乗ってきたと思い込んだ阿木島は、

テンションを上げつつ、なおも話を続けようとする。


こうなるとこいつの話は長い。


俺は少しばかりうんざりとした気持ちになりかけたが、

突然、阿木島は話を中断し、胸ポケットの辺りをモゾモゾとやり始めた。


「何だ…せっかく良い所なのに…、おう!俺だ。何だどうした!」


電話だった。


相変わらずいつどこでもマナーモードを徹底してやがる。

まぁ、俺らの『稼業』ならそれは当然か。


最近ではほとんど見られなくなった二つ折りのガラケーを、

左の耳に押し当て、反対の耳を右手の人差し指で押さえながら、

目を世話しなく上下左右へと動かし、何やら早口で話をしている。

やがて、


「すまん、急用だ!『絵の男』の話は、また今度な!」


そう言い放つと、

ガラケーを耳に押し当てたまま、

電話をしながらであるにもかかわらず、

昼休み中のサラリーマンや、買い物客らでごった返す表通りの人ごみを、

まるで意に介することなく、スルスルとかき分け走り去ってゆく。


相変わらずフットワークが軽い。


俺はその阿木島を見送りながら、一つ疑問が。


「ところで…、『絵の男』ってなんだ?」


と、ポツリ一言。


ちょうど俺の側を通りがかっていたおばさんが、

そのポツリ一言を聞いたらしく、チラリと俺の顔を見てきたが、

まるで何か聞いてはいけないものを、見てはいけないものを見てしまった、

というように足早に通り過ぎていった。


その態度に「勝手に聞いて、勝手に見といて失礼なやつだ」とは思ったが、

まぁ、それはそうとして―、

昭木島の話を、あまり真剣に聞くつもりはなかったとはいうものの、

やはり、ああいう去り方をされるとどうも気になる。


だがまぁ一つ確かなこととして、あいつの話だ、

そう大したものではないことだけは間違いない。


俺はそう思い直すと、一度左右を振り返ってから、

その後、表通りの人の流れに沿って歩き始めた。


腕時計を見る。


時刻はもうまもなく、13時になろうとしていた。

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