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絵が笑うと人が、死ぬ。  作者: 桜町雪人
1/62

第一話

― 1 ―


薄汚れた壁。


雑居ビルの群れ。


曇天、昼下がり。


そこに、人だかりが出来ていた。


張られた黄色いテープ…。


そうか野次馬どもか。


どうやら俺は、それに関しての天性の才があるらしい。

こういう事件現場によく出くわす。


嗅覚、とでもいうのか、

犬のそれに近いものがあるのかもしれない。


その時、路地裏でがしゃあーんと音が。


生ごみを漁っていた野良犬がゴミ箱をひっくり返したのだ。


野良犬がこちらを見ていた。

まるで『俺らの鼻と人間とを同じにするなよ』というような感じで。


俺はくくくと笑ってしまった。


まもなく、控えめにクラクションを鳴らしつつも、

野次馬を蹴散らすかのようにして、濃紺色のワンボックスがやってくる。


中から鑑識と思しき数人が、

無表情のままバラバラと出てくる。


そしてテープをくぐり事件現場へと、ビル内へと消えてゆく。


特に何をするでもなくその一部始終をながめる俺。


幾度も見た光景だ。


それは昨日だったか、それとももっと前だったか。


いや、ひょっとしたらそれは、

テレビのニュースで、だったかもしれない。


あるいはテレビのドラマだったか。


そこまで来ると、俺の「天性の才」も危うくなる。


いやいや、そんなはずはない。


そう確か、あれは1週間ほど前。

そして場所は、ここからそう遠くない場所ではなかったか。


俺はふと辺りを見回した。


野次馬、張られたテープ、薄汚れた壁、そして曇天…。


既視感。


その既視感に、なぜか軽いめまいを覚えた。


同じような場所、同じような事件。


それに対する嫌悪感からか、それとももっと別の何かだったのか。


俺は視線を曇天から、再び現場のビルへと移す。


と、その時、


「保本刑事!」


呼び声が。


「保本刑事っ!」


その声の主はさらに呼ぶ。


「保本刑事っっ!」


その保本とかいう刑事は、なかなか気付かないのか、

その声の主は、止むことなく呼び続ける。


「やすもとけいじっっっ!」


俺は思わずびくりとして振り向いた。

なぜなら、その呼びかけが俺の耳元でされたからだ。


そこにはニヤニヤ笑いの中年、

というよりも、もうじき中年という風の男が立っていた。


悪い冗談だ。


俺はその場を立ち去ろうとする。


「わっ、と、おい待てよ、保本っ!いや、保本啓次!」


俺は再び振り向いた。


「おい、阿木島、俺はそういう冗談が嫌いなんだ」


「別に冗談じゃないさ、お前の名を呼んだだけさ」


「普段は下の名前までは呼ばないくせに、

 そういうのが冗談だって言ってんだよ!」


まあまあ、と阿木島は俺の肩をポンポンと叩くと、


「面白い話があるんだ、ちょっと喫茶店でも」


「あいにく俺は忙しい」


そう言って俺は再び歩き出す。


「野次馬が何言ってやがる。まぁいい、なら歩きながら話そう」


そう言うと、阿木島は俺の後について歩き出した。

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