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第九話
他国との戦で死すならまだしも、百姓相手に父を殺されたとあっては、連綿と続いてきた武家の名折れ。為景は怒り心頭。
毛を逆立て、女子共に至るまで抵抗する領内の一向宗を根絶やしにしたのだった。
幾ら、父殺しの憎い敵とは言え、女、子供にまで手を掛けなければならなかった今回の戦は、為景の胸中を押し潰した。
居城だった春日山城に帰る途中、為景は心胆疲れ果て、楠の大木に体を預け、腰を砕け落とした。
返り血を浴びて羅刹と化した為景の頬にふわりとしたぬくもりが弧を描いた。
力無く重い目蓋を上げて擡げた首を起こすと、少女が目の前に立っていた。天女が舞い降りたのではないかと、為景は目を擦り、少女の顔を食い入るように見つめた。
血塗られた為景の顔面を拭いて赤く染まった手巾を握ったまま少女はニコリと微笑むと、小走りで為景の前から姿を消した。




