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第八十五話
喉に鑢を掛けるようにして声を押し出した瞬間、場面が急に変わり懐かしい春日山城内が現れた。
またもや、幼い自分が面前にいた。
虎千代の記憶に微かに残っていた顔が幼い虎千代と対峙していた。
女は為景の側室の一人だった。幼い頃、お手玉や草笛を虎千代に教えてくれた女だった。
「止めなさい。殺しちゃ駄目。駄目―――」
虎千代は心中で叫んだ。
バシと肉が砕ける鈍い音が弾け、女の乳房が吹き飛んだ。女は泣き叫び、襖を乱暴に破ってその場に倒れると、心の臓が破裂し部屋が血で染まった。
幼い虎千代は顔色一つ変えず、返り血を浴びていた。
「貴様、人ではないのか」
鬼斬り丸が驚いたような声を漏らした。




