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第六十六話
夜明け前に出立した。
追手を避け、飛騨山脈を稜線に沿って歩いた。
朝日に彩られた桃色の雲海が眼下に広がる。
虎千代は吉祥天にでもなったような気分を味わっていた。
霊峰白山が眼前にそびえ立つ。
「もうすぐだ」
息を切らす虎千代に段蔵が手を差し出した。
天蓋を被った虚無僧が5、6人列をなして前方から歩いてくる。
「ちっ」
段蔵は舌を鳴らして
「もう直ぐだと言うのに」
と苦々しい表情を浮かべた。
段蔵は引き回し合羽の内で柄に手をやり、何こともなければよいのだが、と祈るような気持ちで虚無僧たちとすれ違った。
すれ違いざま虚無僧の一人が一見尺八に見える仕込刀を抜いて段蔵に襲いかかった。
「久しぶりだな。段蔵」
虚無僧は刀で鍔を押しつけながら低い声で言った。




