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第三十七話
光育は懐から玉が先に吊り下げられた首飾りを取り出し、饅頭を咥えたまま虎千代の首に掛けた。
「この玉にわしの念を入れておいた。肌身離さず着けておくのじゃぞ」
「ダサ……」
虎千代がそこまで言うと、光育が言葉を被せた。
「ダサくない!お洒落さんじゃないか。分かったか?決して」
「はい、はい」
虎千代は不服そうな顔で玉を摘み見た。
「『はい』は一回!」
「はい、は」
光育の座った目を見て虎千代は二度目のはい、を寸前で飲みこんだ。
光育はため息をついて
「部屋に戻ってよいぞ」
と虎千代に告げて湯呑み茶碗の蓋を取り、ずずと茶を啜る。
虎千代は一礼して光育の部屋を出た。
遠ざかる虎千代の足音を聞きながら、光育は顔を曇らせた。おぞましい限りの形容できない苦痛に、はたして虎千代が耐えうるのか、言うは易く行うは難しである。
光育は愛弟子を信じたい気持ちと不安の狭間でたじろぐばかりだった。




