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第三十五話
「ち~~っともワシの話訊いとらんのじゃから。もう、いいよ。土壇場で困ってもワシ、知らないかんね」
真面目に話を虎千代に訊いて貰えない光育が少し拗ねて、頂きものの酒饅頭を乱暴に摘み一口で頬張った。
「ちゃんと聞いてますよ。お師様。あれでしょ。鬼斬り丸の幻覚に惑わされるなってやつと……」
虎千代はそこまで光育の教えを反芻すると眼球を上向かせて硬直した。
「何があっても決して!」
光育がそこまで言うと、虎千代は自力で思い出したかのように手を打って
「人を殺めるな!」
光育の続きの言葉を奪って叫んだ。
「だけど、本当にそんな力が僕にあるのかなぁ~」
虎千代が首を傾げながら、光育の酒饅頭に手を伸ばす。




