第三話
菜食を絶ち幾年月が経ったのか見当もつかない。深閑とした厳粛な時間の中に体躯を横たえ、唯一己の意志に従う右側の眼球だけをうろつかせる。肉体は朽ち、蛆が全身の至るとこで蠢いている。一切の光が閉ざされた土石の中で腐りゆく我が身。それが厳然として目前にある現実。空腹を満たすために喰った両腕は、既に白骨化している。こんな姿になっても途絶えることのない己の生命力が恨めしい。過酷な訓練の賜物か。口唇はとうに腐敗し、剥き出しになった歯茎でにやりとやり場のない笑みを零す。微笑む口元が妙に艶めかしく、怪しい色香を放つ女のことが、見るに堪えない醜悪な姿となった今でも、脳裏に焼き付いて離れない。彼女の透き通った肌の感触を思い出しては、噴出す怒りと情愛が膨張し、僅かに残存した血潮を沸騰させる。天の岩戸のように、固く閉ざされた、不可侵な彼女の心中に入り込んだ人間は俺しかいない。そう自負している。突出し垂れ下がった眼球を揺らしながら、彼女の温もりを思い出す。俺が生きてきた道程のいたるところに、彼女の痕跡が刻み込まれている。理屈や言葉では表せない、脳漿ではもはや判別できない愛だった。彼女を思い、我が身を省みて、暗澹たる思いに襲われては、悶え苦しむ。悶絶し暗く沈んだところで、どうにもならない。俺は形容できないほどの狂気にも似た愛を抱きながら、只々こと切れる瞬間を待っている。




