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第二十一話
「虎千代が……まさか」
血だらけの我が子を思いだし、虎御前は大きくかぶりを振った。
― 城内の者も虎千代が全て殺したというのか
― 城内でこと件が起き始めて、夜中に中庭にいた影は虎千代だったのか
― 今、私の膝の上で幸せそうな顔をして寝息を立ているこの子が
「母様」
虎千代が寝言で虎御前の名前を呼んだ。びくりと僅かだが確実に虎御前の体が痙攣する。虎御前は顔をこわばらせて、寝息を立てる我が子の顔をのぞき込んだ。
我が子に恐怖している。次の瞬間、自責の念が虎御前を襲った。
「ごめんね。こんなに可愛い我が子なのに。どうして」
虎御前は虎千代を強く抱きしめ、大粒の涙を流した。
陽が闇に呑まれかかっている。
薄暗くなった庭先で穣御前は遅咲きの紫陽花の花頭を捥ぎながら、薄ら笑いを浮かべるのだった。




