125/388
第百二十五話
険しく吊り上った景虎の目が、救われたように和らぎを取り戻していく。
「母上」
虎御前は印を結びながら涙目を、景虎に向ける。
「僕の、僕の父上は誰なのですか?」
背中から優しく体を包む吉祥天に、景虎は首を捻って聞いた。
吉祥天は微笑み、景虎の掌を、人差し指でちょんと差した。
『臨』の文字が浮かび上がる。
早九字の臨の文字は、毘沙門天を意味する。林泉寺で長年修行してきた景虎。もちろん、それぐらいのことは見知っていた。
「僕の父上は、毘沙門天様なの?」
首を捻って、吉祥天に顔を向けると、吉祥天は微笑んだまま、コクリと頷いた。




