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第百十六話
光育は、数珠を握りしめた片腕を突きだして、稲妻を弾き返した。
「お前の主をどうするわけではない。悪いが、そこをどいてはくれぬか?」
さすがは、高名で知れた『林泉寺』の住職を長年やってきただけあって、光育が子犬にかける声は、いかにも高僧、と思わせる優しい響きだった。
光育の微笑に納得したのか、子犬は牙を収め、尻尾を振りながら、ぽてぽてと部屋の片隅まで歩いていって、ちんとお座りした。
「ほう、僕の為にありがたいお経でも、読んで下さると言うのですか」
景虎が元気をなくしたまま、嫌な笑みを浮かべる。光育を見る景虎の目はやぶにらみになっていた。




