辺境勘違いハンターは夢を見る
ナヒット王国西側の辺境、魔物が多く住み着くウロナの森の近くの村で育った少年マルクは、小さいころから剣や魔法の練習をし、その素質があったのか五歳で魔物狩りをするようになった。子供ながらもそのため魔物が出ると聞くや否や、現場にすっ飛んでいき、ひたすら倒しまくるという日々が続いた。
『お前は王都の連中にも負けないくらいすっごいたくさんの魔物を倒したんだぞ!』
ある日、父親がそうマルクを褒めると、近所のおばさんもそうそうと笑いながら彼の存在を肯定する。
『さすがは村長の息子ね! あなたがいれば百人力よ』
また別のあるときには、こんな光景もあった。
『あの兄ちゃんはな、この国でも有数のハンターなんだぞ。お前たちも見習えよ』
『はーい』
村の子供たちが剣の練習をしているところに彼が通りかかると、彼がいかに優秀なハンターであるのかと誇らしげ言い、子供たちも憧れの眼差しで彼を見ていた。
村にいる周囲の大人たちは彼を誉め倒し、彼も彼で周りの大人から褒められるのでその気になっていた。
そんな彼に転機が訪れたのは十五歳の夏過ぎ。
彼は村の長老たちの推薦で王都にある冒険者組合で活動することになった。冒険者組合で活動することはハンターにとっては一種の栄誉であり、辺境の地からも多くの有名冒険者が生まれている。
この国における冒険者組合は貴族の推薦状か、五年以上ゴールド級冒険者として活動した冒険者の推薦がないと入れてもらえない。長老の一人がかつてプラチナ級冒険者として働いていた経験があったので、マルクは推薦状を交付してもらえたのだ。
その推薦状を意気揚々と冒険者組合に提出しにいくと、ちょうどマルクよりも幼い、十歳くらいの少年が推薦状を持って申請していた。
「じゃあ、ピョートルさんはプラチナ級冒険者ですねぇ。職業は弓使いでいいですかぁ?」
無事に少年、ピョートルの申請が通ったようで、ランクと職業が宣告される。
「ハイッ! よろしくお願いいたします」
「わかりましたぁ。それで登録しておきますぅ」
無邪気に喜ぶピョートルを見た受付嬢は目を細めながら、頑張ってくださいねぇと言いながら判子を書類に押していく。
彼に冒険者カードを渡した受付嬢は次の人ぉと申請の列に並んでいたマルクを呼ぶ。
彼は受付嬢に推薦状を渡した後、ピョートルを見ながら嗤う。
「なぁ、あんなガキでもプラチナ級冒険者ということは、俺様はオリハルコン級冒険者になるよな?」
自分が少年よりも上位であるということをマルクは信じて疑っていない。
「そうですねぇ。確認いたしますのでぇ、少々ちょっとお待ちくださいぃ」
受付嬢はマルクが持ってきた書類を見たが、そうなるとは思えない。ちょこんと首を傾げたが、自信満々だったマルクはその小さなしぐさに気づいていなかった。
マルクと関わると厄介なことになると直感で察知した受付嬢は、冒険者組合の組合長に彼の件を丸投げした。
だが、勘違い男のマルクはそれが『自分は優秀だから特別扱いされている』と勘違いしたようで、上機嫌のまま組合長の部屋に入る。
そこそこ柔らかいソファに座らされた彼は、で、俺はどっか王宮にでも召し抱えられるんですか?と見当違いなことを呟いたが、組合長はゆっくりと首を振る。
「残念なことに君はカッパー級冒険者だ」
「え、なんでそんな低いんすか。俺、ウロナの森でハイゴブリンを千四十体倒して、ワイルドオーガ五百体くらい倒したんですけれど。じいちゃんたちもすっげぇ褒めてくれて」
「うむ、たしかに書面でもそうなっておるな。」
ひげを生やした初老の組合長の言葉に不満を抱くマルク。
彼にとっては『自分はそこら辺の人よりも多くの魔物を倒しているんだから、評価されて当たり前だろう』という勘違いを起こしている。
だが、それはあくまで村の中の話であり、王都、ひいては王国全体の普通と違うことに彼は気づいていない。
「じゃあ、なんで!? あのガキはプラチナ級とか言ってなかったか」
マルクの罵声にやれやれとため息をつく組合長。
彼とピョートルの違いを指摘しなければいけなくなったという重圧が彼にのしかかってくる。
勘違いも甚だしい。
「それはな、倒した魔物のランクによるものだ」
「魔物のランク?」
「そうとも」
どうやらマルクは冒険者を目指しているにもかかわらず、魔物のランクさえ知らなかったらしい。どんな教育をされてきたのだろうと思って推薦者の名前を見て、納得してしまった。ウロナの森の近辺の村にいる元冒険者というと組合長からすると、こことはまったく違う世界の住人だったんじゃなかったかと記憶している。
もっとも彼らとは活動拠点が違い、彼らは気づいたら地元のウロナの森付近の村に戻っていたとうわさでは聞いていたので、この青年の推薦者になったのには驚かなかったのだが。
「ハイゴブリンならE級魔物、ワイルドオーガならD級魔物の下位魔物だ。それらをひらすら倒したところで経験値は上がるが、ランクが変わるかっていうとそうとは限らない」
「えっ、じいちゃんたちは倒した数で冒険者のランクは決まるって言ってたのに」
どうやらさっき推薦者たちの記憶は間違っていなかったようだ。
組合長はまだそんなことをほざいている老害がいると頭が痛くなり、こめかみをおさえた。しかも、それを子供たちに教えているとなると最悪だ。
幸いなことに多分マルクはきちんと学べば、ちゃんと知識を吸収していくだろう。今までその正しい知識がなかっただけで、その素質はある。
なぜなら魔物図鑑を出しながら説明していくと、マルクは目を輝かせながらそれに見入っているから。長老たちが言うことは絶対で、こんなものがあるとは知らなかったんだろう。
「五十年前までならば正しいが、今はそんなことはない」
「へっ?」
驚いているが、さっきのように突っかかってくることはなくなった。
見込み通りで少しだけ安心した。
「昔はそんな多くの種類の魔物を知られていなかったから、倒せば倒すほど単純にランクが上がったが、今は多くの土地が開発され、魔物が昔より多く知られている。だから、数倒したところで評価には反映されにくくなったんじゃ」
そう説明するとマルクは悔しそうな表情を一瞬したが、すぐに元の表情に戻った。
「たとえば、さっきお前さんが馬鹿にしたあのピョートルという少年もそうだ。数はお前さんよりも少ないが、A級魔物のマンイーターやS級魔物のワイバーンやミノタウロスを倒しておる。だからプラチナ級になったんだ」
「……すっげぇ」
自分よりも幼い少年が大型の魔物を倒していることを知ると、俺も倒してやりたい!という勝負心がマルクの中に芽生えたのに組合長は気づいた。
だから、ニヤリと笑って彼に提案を持ちかける。
「だろ? お前さんも十分に素質はあるんだからこの組合でパーティ組んで、高位魔物を倒してみないか?」
「了解っす!!」
組合長の言葉にやる気がみなぎったマルクは頭を下げる。
こののち彼は前衛が欲しかった三人のパーティに入り、様々なことを学びながら彼らと力を合わせて多くの高位魔物を倒し、気づいたときには数少ないオリハルコン冒険者となる。
そして最初に冒険者組合に来たときにすれ違った少年、ピョートルと魔王相手に共闘するのは十五年後のことだった。
五十歳で冒険者を引退した後、得られた知識を故郷の村に持って帰り、今どきの冒険者として正しい知識を伝授していった。
彼の教え子やまたその教え子たちもまた優秀な冒険者となり、彼らが故郷に戻った後にはそのまた次の世代の冒険者の卵たちに教鞭をとっていく。
そうして次々に質の良い冒険者を排出する村として有名になっていくが、またそれは別の話。
またまた短編を作ってしまった_(:3 」∠)_
某氏からもらったネタで作ってみた。