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夢見よ乙女

作者: 珠咲

 「ただいま。寂しかったね」

 私はスクールバックを床に置き、お部屋中のお人形を一体ずつ抱きしめました。これが学校から帰宅後の、私のルーティーンなのです。

 私のお部屋は見事なドールハウスなのでした。お人形が全部で30体います(本当は~体ではなく~人と言いたい)。どの子もほこりを被らないように売られていたままの箱に入れてあり、大切にお部屋中にディスプレイしてあります。このお部屋は私にとって、自分の存在意義を確かめられる唯一の居場所。母の子宮の中にいるような、無条件に包み込んでくれる愛で満たされた世界で一番落ち着く空間。

 私は一度だけ、このお部屋に家族以外の他人、学校のクラスメイトを入れたことがありました。小学校一年生の頃、席が隣同士になった事をきっかけに、給食当番や掃除当番が同じグループで、一緒に帰宅するようになった女の子です。お家に行ってみたいと彼女が言ったので、あまり自分のテリトリーに他人をいれる事には気が進まなかったのですが、今日は家族みな外出で家に入れないとのことだったので、それなら家族が帰宅する夕方17時頃までは私の家にいさせてあげようとお家に招いたのでした。玄関からリビングを抜け、階段を登った二階に私のお部屋はありました。お部屋に入るや否や、彼女は大きく口を開け、上下左右にグルグルと眼を回しました。そして5分も経たないうちに、そう言えば教科書を学校に忘れたから取りに行ってくる、と言い青ざめた顔で帰っていきました。私はずっと待っていましたが、それから彼女が戻ってくることはありませんでした。翌日、昨日は大丈夫だったかと彼女に聞いてみると、教室が閉まっていたため鍵を探すのに時間が掛かり、学校を出る頃には17時過ぎだったのでそのまま自宅に帰ったと笑顔で話してくれました。しかし、それから彼女は妙に私と距離を置くようになり、私は一人ぼっちになったのでした。

 私は物心ついた頃から常にお人形と一緒でした。3歳から幼稚園に通う事になり、初めて自宅以外の場所に一人預けられて毎日泣いていた私に、両親がお人形をプレゼントしてくれました。それが初めてのお人形との出会いでした。それから私は毎日どこでもお人形と一緒。お人形がいれば寂しくなかったし、泣く事もなくなったので、それ以来、両親は進学時にはお人形をプレゼントしてくれたのでした。

 小学校に入学すると学校にお人形を連れていく事を禁止されていたので、余計に周りに馴染めずにお人形に依存していきました。小学校低学年あたりまではリカちゃん、小学校高学年になると、おもちゃ屋さんでリカちゃんの隣に陳列されていて一目惚れした、同じタカラトミーから発売されているブライス人形にハマっていきました。中学生になると、なかなか友人ができない私に両親もお人形を与えるのは辞めようと思ったのか、プレゼントをしてくれなくなってしまいました。しかし、それが年頃の私の心に火を燃やし、お小遣いを貯めては思春期好みのルックスなリビングデッドドールズを収集しました。お部屋に飾っているお人形はそれぞれ身体の大きさや髪の毛や眼の色、着ているお洋服のテイストはバラバラでしたが、共通している事は「私を信じてくれる存在」でした。

 私はお人形と会話ができます。こう言うとバカだと思われるかもしれませんが、実際に言葉を発さなくとも、お人形を見つめていると何かが伝わってくるのです。辛い事があった時はずっと傍で見守って慰めてくれるし、不安や迷いでどうすれば良いか分からない時はそっとアドバイスをしてくれます。確かに、言葉には言霊と呼ばれるくらいの未知なるパワーが宿っている事なのでしょうけど、世の中には言葉だけでは伝えきれない思いがたくさんあります。相手の胸の奥に神経を集中させ、五感では感じる事のできないテレパシーを読み解く事が大切なのではないでしょうか。

 「あなただって毎日寂しいでしょう」

 何処からかか細い声が聞こえてきました。両親が帰宅するのはいつも夜19時頃。お家には私一人です。お部屋の窓を開け、誰かいるのかと家の周りを見回しましたが、琥珀のような瞳に黒い毛の野良猫がそこに佇んでいるだけでした。私は窓を閉め、疲れているのだろうとベッドに横たわりました。そしてスヤスヤと眠りにつきました。


 目を覚ますと、そこは私のお部屋でしたが、いつもと様子が少し違ったのです。ベッド横に置かれたロウソクは柱のようでしたし、窓は教会のステンドグラスのように一面に広がっていました。何もかもが巨大に見えるのです。そして、すぐに身体に違和感を感じました。皮膚が硬く、反射してしまう程に光沢を帯びていて、動かそうとすると柔軟性がないロボットのような動き。それは驚くくらいに無機質なものでした。私はすぐに悟りました。自分が何になってしまったのかを。

「ご機嫌よう。天羽(アマネ)ちゃん」

 私は振り向くと、そこには一番最初に両親からプレゼントされたお人形がいました。金髪のカールに宝石のような澄んだエメラルドブルーの瞳をしたその子は、リリーと名付けました。どうやら声はリリーから聞こえてくるようでした。リリーは慣れた手つきで箱を抜け出し、私の前まで歩いてきました。

「びっくりさせてごめんなさい。あなたの願い事を叶えにきたの」

 私はリリーが動いて話す様子に全く恐怖を感じませんでした。むしろ自然な現象だとさえ感じたのです。

「ねぇ、覚えてる?あなたと初めて出会って、最初にしてくれた願い事」

「ええ、覚えてるわ。周りの環境に馴染めず、いつも一人ぼっちだった私はお人形とお話しがしたいって強く願ったわ」

「そう、よく覚えてくれてたわね。あなたは私達をいつも愛してくれる。私達もあなたをとても愛しているの。今日のあなたは今までに感じた事がないくらいの寂しさ抱えていたから、助けてあげなきゃって思ったの」

 高校2年生になって一ヵ月、先生や周りの生徒達は将来の進路について考え始めていました。私は特にやりたい事が何もなく、あまり未来に希望というものを見出せずにいました。授業では目標を持つ事や成長する事の大切さを説いていますが、私にはどうにも腑に落ちないのです。唯一何をしていきたいのかと問われれば、ずっとお部屋の中でお人形と遊んでいたい、ただそれだけでした。私には成長する、変化する事がそれほど大切な事だとは思わないのです。むしろ、このまま時間が止まれば良いのに、そう思っていました。

 今日は三者面談でした。母は仕事の合間を縫って学校に来てくれました。担任の先生は私の学校での様子や成績について話し始め、一番の目的である今後の進路について尋ねました。

「天羽さんは成績も良いし、遅刻早退も一切ないお手本となる生徒です。ただ社交性やコミュニケーション能力はまだまだ伸びしろがありますが、クラスに慣れてくれば大丈夫でしょう。天羽さんは難関大学に進学する事は考えていますか」

 私はただ黙り込んで窓の外を眺めていると、母が私の代わりに口を開きました。

「私も主人もそう考えているのですが、天羽はどう考えているのか。中学生になってから家でもろくに会話をしてくれませんので、本人の考えている事は私達も分かりません。ただ、とっても頑張り屋さんで我慢強い子だから、私はこの子に期待しています」

 面談が終了し、私は教室を出ました。二人は教室に残り、母は担任の先生に毎度恒例の話を始めました。私は会話を聞かなくとも、内容は知っていました。


 それは中学1年生の夏休みでした。夜中に頭痛がひどく、一階のリビングにあるお薬を取りに行こうとした際に、リビングから両親の話し声が聞こえてきました。

「小さい頃からそうかもしれないとは思っていたけれど、信じたくなかったの」

 母はヒステリック気味に父に涙声でそう言いました。

「天羽が小学生にあがる前に木の絵を描いてもらったの。その時は所詮ただの一本の木の絵だって深く解釈してなかったけど、患者さんの絵とそっくりだった」

 私はそっと耳を澄まして会話を聞いていました。

「小さい頃から行動やコミュニケーションの違和感を感じてたし、その絵がずっと気がかりで。私はその後、天羽に何度か心理検査をしてみたの」

「結果はどうだった?」

「・・・やっぱり、そうかもしれない。行動観察、面接、質問紙、知能検査全て総合した結果、あの子は自閉症スペクトラムではないと言い切れないわ」

 母は声を押し殺すように泣きながら話し続けました。

「成長するにつれて改善していくかもしれないって自分に言い聞かせて、技法を変えて何度も試してみたの。でも結果は毎回同じようなものだった。もう一人で抱えきれないわ」

 私の母は臨床心理士で、父は同じ病院に勤めている医師でした。両親は平日はお仕事で帰宅するのが遅く、休日もセミナーに参加したり、自分の部屋でお仕事の準備をしており、あまり一緒に過ごす時間がありませんでした。ただ年に数回ほど、母からお仕事を手伝って欲しいと言われ、インタビューのようなものを受けたり、アンケートに答えたり、謎解きクイズのようなものを解いたりしていたのでした。それが何なのか私には分かりませんでしたが、その時間だけは母とゆっくりお話しできたので喜んで付き合っていました。両親は毎日忙しそうにしていましたが、いつも私に優しく微笑み、一度も暗い顔を見せた事はありませんでした。もちろん、母が泣いたところなど見た事がありませんでした。

 私は後ずさり、物音を立てないように静かに自分の部屋に戻りました。母の言葉の意味はよく分かりませんでしたが、その時とても大きな罪悪感を覚えたのでした。

 多忙な両親に迷惑を掛けないように過ごしていましたが、その日から私は両親と距離を置くようになりました。私のせいで両親を哀しませてしまっている事が申し訳なかったのです。

 私はその後、学校の図書館へ行き、あの日の母が言っていた言葉の意味を辞書で探しました。そこに記されていたのは、発達障害の文字でした。症状はまるで私そのものを表していたのでした。

 私は学校からの帰り道、両親と先生からの期待を受け、葛藤と戦っていました。これから私はどうしていけば良いのだろう。どんよりと紫がかった曇り空は、私の心を映し出しているようでした。


 お部屋中のお人形はそれぞれ箱から抜け出し、私の前に集まりました。そして、一人ずつ私とのエピソードを加えて自己紹介をしてくれました。それぞれが口にしたのが、私がお人形のために作ったドレスや髪飾りの事でした。

「私、あなたに作ってもらったドレスがとてもお気に入りなの。今まで見てきたドレスの中で一番素敵」

「正直、最初に着せられてたドレスはあんまり気に入ってなくて。あなたがドレスを作ってくれて着てみたら、みんなにとても似合うわねって好評だったわ」

 私は小学生になってから、趣味として手芸をしていました。両親がお仕事で忙しいため、土日や夏休みなどの長期休暇には祖父母のお家に預けられている事が多く、その際に祖母が私に手芸を教えてくれたのです。始めは布に刺繍を入れるだけでしたが、祖母の勧めでコースターを作りました。刺繍は何も実用性はありませんでしたが、コースターを作った際に祖母は喜んで使ってくれました。その祖母の喜ぶ顔がとても嬉しく、手芸がただの趣味ではなく何かに活かせないかと考えた時、ふとお人形のドレスを作ってみたいと思ったのです。お店で売られているドレスはどれも可愛いのですが、なにか温かみがないと言うか、心の底から似合っているようには思えなかったのです。そこで私は、お人形の雰囲気、性格、顔や身体の特長を活かした本当に似合うドレス作りを始めるため、本を参考に独学でお人形のドレス作りを始めました。一番初めに作ったのはもちろんリリーのドレスでした。リリーはフランス人形のような気品溢れる容姿でありながらも、少し幼い印象の赤のタータンチェック柄のドレスを着ていたのです。私はリリーの美しさを最大限に活かすため、瞳と同じエメラルドブルーでレースの姫袖をあしらったドレスを作りました。出来上がったドレスをリリーに着せてみると、一段と輝きを増してとても嬉しそうな表情に見えたのでした。それから私は次第に上達していき、ドレス以外にも頭が寂しかったのでヘッドドレスも作るようになりました。お部屋の全てのお人形は私が作ったドレスを身に纏っていたのでした。

「あなたが着ているドレスもとっても素敵よ。似合ってる」

 私はガラスに自分の姿を映してみました。栗色のストレートヘア、真っ黒で虚ろな瞳。身に着けていたのは、私が失敗作として誰にも着せていなかった花柄のアンティーク風のドレスでした。サイズがどの子にも合わずに放置したままのドレスでしたが、お人形になった私の身体にはぴったりで、自分でも驚く程にしっくり似合っていました。褒められる事に慣れていないので、思わず顔を真っ赤にしてしまいました。でも、とっても嬉しい。大好きなお人形達が喜んでくれている顔を見て、今まで感じた事のない高揚感を感じました。こんな私でも、誰かを喜ばせる事ができるんだ。冷え切っていた私の心に小さな灯りがともり、静かに溶けていくように感じました。

 日が暮れるまで話が尽きる事はありませんでした。その瞬間は、今まで生きてきた中で一番幸せな時間でした。これからは人としてではなく、お人形としてこの子達と毎日お話しをしていたい。ここが私の居場所なんだ。人間の世界には戻りたくない。

 時間はあっという間に過ぎていき、陽は沈み、あたりは薄暗くなっていきました。

「もうこんな時間だわ。そろそろお仕事をしなくちゃ」

 お人形が慌ててそう言うと、ベッドの下に入っていき、他のお人形も後に続きました。私は何かよく分からないままついて行くと、そこには小さな扉がありました。ベッドの下に扉があったなんて初めて知りました。扉を開けて中に入ると、薄暗い階段が続いており、そこを上がると徐々に明かりが見えてきました。出口に辿り着くとそこは屋根の上になっており、お人形達はそれぞれ手を繋ぎ、輪を作っていました。

「今から何をするの?」

 私はそう尋ねました。

「まぁ見てて。あなたが眠りについた後、毎日こっそり屋根上に上がってこんな事をしているの」

 そしてリリーは少し哀しそうな顔をして私の許に近付いてきました。

「もし何かあったらこれを見て私を思い出して。きっとあなたの力になるわ」

 そう言うと、リリーは胸元のカメオのネックレスを外し、私の首にそっと掛けました。微笑んだ瞳の中には涙が浮かんでいました。

 リリーは輪の中に戻ると、お人形達は夜空を見上げ、目を瞑りました。私は今から何かが始まるのだと考え、背後からその様子を眺めていました。幾ばくもの星がきらめく夜空の中で、明らかに他の星よりも輝いている星が一つだけありました。すると、お人形達は一斉に手を高く上げて、力強く念力を送り続けました。その星は次第に赤みを帯び、キラキラと流れ星になって消えていきました。

 流れ星が見えなくなると、お人形達はヘトヘトとその場にかがみこみました。その時、バタっとリリーがその場に倒れこんだのです。

「リリー、大丈夫?」

 私はリリーの許へ駆け寄りました。反応がなく、気を失っているようでした。

「やっぱりハードだったみたいね」

 すぐ傍にいたお人形が心配そうにそう言いました。

「あなた達は今、何をしていたの?」

「これが私達のお仕事。人形はただそこに立っているだけじゃなくて、任務を与えられて世の中に生み出されるの。その任務と言うのが、お迎えしてくれたご主人様の悪い感情を流れ星に託して流すというものなの。今日、あなたの心は今までで一番危険な状態だったわ。リリーはあなたと一緒にいた時間が最も長くて信頼も強いでしょうから、自分がどんな結末になろうとも、あなたを助けたいって言ってたわ。」

 リリーは私の夢を叶えてくれて、私の心を救おうとしてくれたんだ。私はリリーを抱きしめると、大粒の涙がこぼれました。

「リリーはどうなってしまうの?」

「人形は最大の任務を終えると、魂がなくなってしまうの。人から見ればいつもと何も変わらない人形のままだけれども、動く事もできないし、人形同士でお話しだってできなくなってしまうの」

「どうしたらリリーは助かるの?」

 私がそう尋ねると、お人形は少し黙り込み、口を開きました。

「あなたの夢を叶える事がリリーにとって本望だと言っていたわ。でも、どうしても助けたいと言うなら、あなたは人間に戻る事よ」

「人間に戻る?」

「そう。リリーがせっかく叶えてくれた夢を取り消せば、魂を元に戻す事はできるわ」

「私が人間に戻れば、またみんなとお話しはできるの?」

「声は聞こえないかもしれないけど、気持ちを通じ合わせる事はできるわ。もちろんリリーともね」

 私に迷いは微塵もありませんでした。

「だったら、すぐに人間に戻るわ」

「本当にそれで良いの?」

 お人形達の視線は私に注がれていました。もちろん、このままずっとお人形のままでいたい。人間の世界には私の居場所なんてないし、希望だって見出せない。永遠に曇り空が続いているだけ。でも、リリーと話せなくなるのだけは絶対に嫌。リリーが私を助けてくれたように、私もリリーを助けたい。

「人間に戻るわ」

 私がそう答えると、お人形達は顔を見合わせ、何かを確かめ合っていました。私の意思が伝わったのでしょうか。一人のお人形が私の許に近付き、こう言いました。

「分かったわ。強い子ね。ただ人間に戻れば、こんなに穏やかに過ごす事はできないわ。たくさんの試練が待ち受けている。でも、あなたはきっと大丈夫よ。これだけは忘れないでね。感謝の気持ちを持ち続けることよ」

すると、私の前に黒い影が現れました。それは琥珀色の瞳をした黒い毛の猫でした。どこかで見た事があるような、と考えていたのも束の間、私は途端に意識を失いました。


 目が覚めると、私はベッドに横たわっていました。すぐ傍で母が私の手を握り、ベッドにもたれかかるように眠っていました。カーテンの隙間から朝日が差し込み、母は目を覚ましました。

「お母さん、どうしたの?」

「天羽、ようやく目が覚めたのね。良かった」

 母はそう言うと、私のおでこに手を当てました。

「熱もないみたい。本当に心配したのよ。昨日、夕飯の時間になっても階段から下りて来ないから、私が部屋を見てみたら天羽がベッドの上で倒れていて。よく見たらすやすやと寝息を立てていたから、疲れているのねってベッドに横にしてあげたんだけど、全然起きなくて。熱はないみたいだったけど、何かあると怖いから私がずっと傍で看ている事にしてたんだけど、私もそのまま眠っちゃってたみたい。今日は学校、お休みにする?」

 私はしばらく考え込みましたが、体調には問題がなかったため、登校する事にしました。私の身体もお部屋も元に戻っており、お人形達も箱の中に戻っていました。夢だったのだろうか。ふと私の胸元を見ると、そこにはカメオのネックレスが光っていました。


 あの日から、曇っていた私の心に陽が差し込んでいきました。人間の世界に戻り、ありふれた毎日がいかに幸せで満ち溢れていたのかに気付いたのです。無口で毎日一人で過ごしている私に対して、毎日欠かさず笑顔で挨拶をしてくれる学校のクラスメイト。どんなにお仕事が忙しく夜遅くに帰宅しても、必ず手料理を作ってくれる母。家族を養ってくれて、私の趣味嗜好を認めてくれる父。私はかけがえのない宝物に囲まれていたのです。そう思うようになってから、私は自分でも気付かないうちに自らクラスメイトに挨拶をするようになったり、会話のなかった両親とも毎日一日の出来事を報告するようになりました。最初は少し驚いた様子でしたが、笑顔で私の話を聴いてくれました。そして将来の夢も見つかりました。お人形のドレス作家です。誰かが喜んでくれる顔を見る事が、私の存在する理由であり、生きていく意味だと分かってきた気がしました。相変わらず学校から帰宅すると、お人形達とお話しをしています。その中にはもちろんリリーも含まれています。何か悩み事があるとすぐに気付いてくれてアドバイスをしてくれます。お人形は私にとってずっと味方になってくれる存在です。「感謝の気持ちを持ち続けること」。お人形達が教えてくれたその言葉は、カメオのネックレスの裏に大切に刻印されていたのでした。

 こんにちは。私は小さい頃は絵本作家になるのが夢で、自分で絵本を作っては親に見せていました。20代になった今でも、大人向けの小説というより、絵本や児童書の方が心に沁みるような感覚があります。女の子がときめくファンタジーな世界観が大好きです。

 今回、新型コロナウイルスの影響が仕事が休業になってしまったため、小説を書くという以前からの夢を実現させるに至りました。コロナ疲れで現実逃避のお供になれば、とても嬉しいです。拙い文章ですが、ここまでご覧になって下さり、本当にありがとうございます。

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