どこまでも真っ青な君へ。
桜の花がヒラヒラと舞い散る四月。
この日を祝福するように真っ青な空が広がっている。
穏やかな太陽と心地よい風が1人の少年を駆け抜けた。
真っ青な空と穏やかな日差しの中、少年は
何本もある桜の木の下を歩いている。
「今日から学校かあ……」
少年はため息を吐き、遠い目をしながら空を見る。
「……。」
何かを言いたそうな目をしながら視線を下に戻し、学校に向かう。
「授業付いていけるかな」
ふと、駐車してある車に自分の姿が写った。
なんとも、自分に自信がなく弱々しい姿である。
そんな弱々しい姿を見せながら、初めての高校に向かっている。
そう、今日は少年が通う高校の入学式だ。
と言っても、そんなに偏差値が高い訳ではない。
まあ、世間一般で言うならどこにでもある普通の高校だ。
そんな普通の高校に少年こと、平永蒼太は弱気なのである。
「まあ、そんなこといつまでも考えてたってしょうがないか。」
あまりの自信のなさに開き直ったのか、今度は何も考えずに入学式が開催される体育館へと向かった。
その道中、後ろから誰かが走ってくる音がした。
綺麗なピンク色をした桜の花がヒラヒラと落ちてくる。
そして、その中を髪は長く、茶髪気味の女が通り過ぎた……。
そんな姿を後ろから見ていた蒼太は、何をそんなに焦ってるんだろう?と不思議に思いながらトコトコとゆっくり歩いていく。
そして、しばらく歩いたその先に、目的地はあった。
いかにも、学校と呼ぶに相応しいその景色とその隣には少しだけオシャレな建物が建っている。
「ここかな?」
蒼太は自宅に届いた、入学案内の書類に目を通すと同じような建物が書類に写っていた。
「やっと着いた……。」
家から歩く事約二十分ちょっと、小綺麗な学び舎とオシャレな体育館が目の前に広がっている。
そして、門の中をくぐり体育館に向かったその刹那。
ドンッ……。
「いってえ!」
「つぅ〜……。いったぁあ。」
何者かが蒼太に体当たりしてきた。
ビックリして避けようと思ったが、時既に遅し。
そしてモロに食らってしまった蒼太はそのまま門の壁に激突した。
「痛いな!何するんだよ!」
蒼太は、脇目もふらず体当たりしてきた生徒らしき人に声を掛けた。
「いったぁい!もー、なんで避けてくれないんだよぉ~…これぐらい避けようと思えば避けられたでしょ~。」
なんの悪びれた様子もなくむしろ、こっちが悪いと言ってくるではないか。
これには蒼太も流石にカチンときたのか、目を細めて体当たりした奴に反論した。
「走ってきたあなたが悪いんでしょ!だいたいよく見て……」
蒼太は最後の言葉を声に出そうとした時、息が詰まって声が出せなかった。
何故なら……。
どこかで見たことある茶髪の髪、肩ぐらいまである長い髪。
そして、顔が整った入りたての高校生とは思えないような風貌。
蒼太はその姿に、顔を赤らめる。
そして、一瞬時が止まったような感覚に襲われた。
だが、ずっとそうしてるわけにはいかない。
入学式まで時間がないのだ。
このまま、言い合っていても解決しないだろう。
ならばいっそ、俺は悪くないが、謝って終わらせてしまおう。
蒼太は、瞬時に考えた結果そういうベストアンサーにたどり着いた。
「すいませんでしたぁ。」
俺は悪くねえしとか思いながら、形上は頭を下げる。
「分かれば良いのぉ~。」
こいつ…天然なのかわざわざやってるのか……?
それを聞いた蒼太は内心、呆れそうになるが、時間が迫っていたのでその場を後にしようとする。
「じゃあ、俺はこれで……。」
「ちょっと待って下さい。」
そう言うと少女は眉毛を八の字にまげ、凄い剣幕で蒼太に詰め寄る。
「確かに許しはしましたけど行っても良いなんて言った覚えはないんですけど?」
「はい?」
少年こと、平永蒼太は内心、面倒だな……と思いながら言葉を返す。
「ですから!今の衝撃で足が痛くて満足に歩けないんです!私が良いって言うまでカバンをお持ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「ごめん…大丈夫?」
「はい、大丈夫です。時間が立てば治ると思いますから……。」
「それより、ごめんなさいね付き合わせてしまって……。」
「いいや、悪いのは僕ですから大丈夫ですよ。」
蒼太は相手にきずかれないように怪我したほうの足を見る。
蒼太は多少ながら少女に対して色々な疑問を持ち始めている。
「あの~良かったら名前を教えていただけませんか?」
「えー…、どうしましょうか?男の人に名前を聞かれるのはあんまりないもので。」
「でしたら大丈夫です!無理にとは言わないので…。」
「ふふっ、嘘です。ちょっと面白いかなと思ってしまったのでからかってしまいました。」
「私の名前は、平野美乃梨と申します。気さくに声を掛けて下さいね。」
「そっ、そっか…。俺は平永蒼太、君と同じ新入生だよ。
クラスはまだ分からないけどこれからよろしくね。」
蒼太は少女の後ろ姿を見ながら届いてるのか届いてないのか分からないような声で淡々と喋る。
「なんか気弱ですね。最近流行っている草食系男子ってやつですか?」
「昔から良く言われます……。」
「ニヤッ…。」
「まっ、まあ良いんじゃないでしょうか?性格は人それぞれでしょうし…。」
な…なんなんだろう今の不敵な笑いは……?
そのまま2人は黙々と入学式が始まる体育館まで歩き続けた……。
体育館の目の前まで行くと、もうすっかり今年の新入生で賑わっている。
そのまま体育館へ向かう者。
友達同士でふざけながら体育館へ向かう者。
蒼太と美乃梨はそんな新入生達を横目に見ながら中へ入る。
入り口まで来ると大きい扉に、その横には新入生入学式の看板がたけかけられている。
最初の蒼太は弱気だったくせに、その看板を見るやいなや内心ワクワクし始めていた。
「うっわーまっじ中広いな……。」
蒼太はめんどくさそうな顔をしながら自分の席を探す。
確かに普通の高校の体育館のわりには確かに随分な広さである。
普通の高校の体育館二個分といったところだろうか。
唯一良いところを述べるとすれば広さぐらいである。
「椅子が並んでるけど適当に座っちゃていいのかな?」
「そうですね、何も書いていないようですしこのまま座っちゃいませんか……?」
この子、よく見るとお嬢様っぽいな。
なんで、こんな普通の学校に来たのだろう……?
そんな疑問を何度も繰り返しながら適当なパイプ椅子に腰かける。
「蒼太さんは学校から家近いんですか?」
「うーん、二十分ぐらいかな~美乃梨さんは近いの?」
「私は車で一時間ぐらいでしょうか?」
「けっこう遠いね…一時間ならもっと他の学校あったんじゃないの?」
「あるにはあるんですが、ちょっと探している人がいましてその人がここの高校に入る情報をキャッチしたんです。」
「そうなんだ。その人早く見つかるといいね。」
「実はもう見つかっているんですが、内緒にしておきます。」
「もう、見つかってるんだ。まあその辺はあんまり聞かないようにするよ。」
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます」
「もうまもなく入学式が始まります。各自自分の席に着いて下さい。」
話している最中、案内のアナウンスが体育館にこだまする。
「お?もう始まるみたいだね。」
生徒達は緊張した面持ちで自分の決めた適当な椅子に腰かける。
そして……あたりが静かになり不気味さが増す中……。
「これから第百三十七回、好栄高校入学式を執り行います。」
とうとう人生で一番に無駄ともいえる入学式が始まった……。
「……であるからして我が校の生徒という誇りをもってこの三年間、勉学、部活にはげむように」
「校長先生ありがとうございました。これで 第百三十七回好栄高校入学式を閉じます。」
「やっと終わりか。」
案内の紙きれを見るとそこには、一年A組出席番号二十番の文字が書かれていた。
入学式が終わってから十分ぐらいは立っただろうか。
体育館から徐々に人影がなくなっていた。
「さてと、入学式も終わったことですし俺たちもそろそろ行かない?」
「そうですね次は……。」
「教室だよ。」
「あ…ありがとうございます……。キャッ!」
さっき怪我した足がまだ治っていなかったようでパイプ椅子から転びそうになる。
っとその時……。
「美乃梨さん!」
蒼太はすかさず美乃梨の体をキャッチする。なんというか…条件反射?
不可抗力だったとはいえ、お互いの顔が近い……。
その美貌を前にして蒼太は思わず赤面……。
いや、蒼太だけじゃない美乃梨も。
お互い赤面……。
「あっ…えっ…ごっごめんなさい私……」
「いっいやなにも言わないで、良いんだこれはさっきの罪滅ぼしだから!」
お互いドキドキしているため何も言葉に出ない。
お礼の言葉を絞り出すのがやっとだ。
「そっそういえば何組ですか?」
なかったことにしたいのか話題を変える。
「おっ?お俺はあれ?どこだっけな」
「確か案内と一緒に同封されていたと思いますよ」
「そっそうか、えーと一年A組。」
「A組ですか奇遇ですね。私もA組…」
「はい?今なんて?」
「A組だけど。」
「ほっほんとですか…私もA組です。」
「こっこれから長いお付き合いになりそうですね。」
美乃梨は一生懸命隠しているつもりだろうが隠しきれていない……。
「そっそうなんだこれから三年間一緒だね。これからもよろしくね。」
両方顔を赤くしながら必死で自分を取り繕うとしている。一言…青春……。
……だが知ることになる。
最初から全てしくまれていたことを。
そんないきなり美少女が出てきて二人とも恋に落ちましたでは断じてない。
それは、また後のお話。
キンコンカンコーン……。
A組のクラスに入ってから初めての鐘がなる。
生徒達は各自自分達の椅子へ直行する。
……。
二十分ぐらい立っただろうか、なんかおかしい……。
教師が来る気配が全くないのだ……。
「遅くね?」
「初日からまさかの遅刻~?」
しびれを切らせたのか生徒達は椅子に座りながら歓談を初めてしまった……。
この学校……大丈夫か?
ガラガラガラガラ、ドカン!!
勢いよくドアが開いた。
いや、勢いよくっていうレベルではない。
教室全体に響き渡る轟音……。
「っいっや~ゴメンゴメンすっかり遅刻しちゃったよお~」
「それでは~最初のホームルームを始めたいと思いまーす!」
「今日は一番最初なので明日の予定と持ち物だけ説明するね~☆」
教室全体に能天気な声が響く。
文脈からも分かると思うが我が一年A組の先生は女性だ。
それも、超美人が付く、だ。
それも、若い。
それなのに、もったいない性格である。
「それじゃー説明終わったから今日は解散にするねー。」
「みんな気を付けて帰ってねー☆」
生徒達に陽気な声で説明した後、そそくさとどこかに行ってしまった……。
「さてと、終わったことだしさっさと帰るか…。」
「あれ、美乃梨さんは車だよね…?」
どこか淡い期待を抱きながら…
「はい今日は一旦解散ですね!」
はい玉砕……。
「じ、じゃーもう帰るね。また明日。」
蒼太玉砕…。内心うるうるな気持ち、だけど表面上普通。
ありがちな展開……。
そのまま、家路につく。
その、道中……。
あたりは昼間だけあってまだ明るい。
そんな中、ぽつぽつと一人歩く……。
少し歩いて、小さな路地へ。
その中、生い茂る木と用水路。
「今日は散々だったなー。途中で突進はされるし、変わった女の子とは会うし。」
「でも、あの子なんかありそう……。」
今日の一日の反省。
そして、今日出会った女の子……。
お嬢様のような……。
「まあ、可愛かったし良いか……。」
まあ、これから仲良くなれるとは限らないが……。
てか、案外どうでもいいことを考えてるんだな俺……。
思わず、顔がにやける。
「蒼太さん!」
一人で物思いにふけりながら歩いていると、聞きなれた声が蒼太の頭にこだまする。
蒼太はまさかっていうような顔で後ろをふりむくと見慣れた顔が一人でぽつんと立っていた……。
「あれ?美乃梨さん?車じゃないの?」
戸惑い半分、嬉しさ半分で美乃梨に問いかける。
「今日言ったことは、全部嘘です。」
「実は私、この世界の住人ではありません。」
「な、なにを言っているの?」
蒼太は美乃梨の言っていることが理解できず頭の整理が追い付かない。
言われて見れば当然の話である。
他にどの世界があるというのだろう……?
まさか、ドラゴンが空を飛んで森の中をモンスター達がウヨウヨしているようなそんなファンタジー全開の世界ではないだろう。