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【続編②】テンプレ展開なんて期待してないから!!!

作者: 佐倉 圭

 



 6月1日、晴れ。なんか今日は転校生が来るらしい。全くの初耳だ。クラスの誰も転校生のウワサなどしていないが俺は一人だけソワソワしていた。


「おーっす、みんなおはようー。出席取るぞ」

 教官が教室に入ってきた。

 ...いや入ってきちゃダメじゃね?転校生イベントってこう、なんかこう一緒に入ってくる感じじゃん!?なにしれっと出席取ってんの?それにもう教室の扉の前に誰か立ってんの分かってるからね?もうシルエットがバッチリ見えてんだからね?

 そういうタメとかあんま意味をなしてないんだけど!


 教官はおもむろに出席簿を取り出し、名前を呼び始めた。

「相浦、相川、愛島、あさく...あっやべ。綾部ェェ!!じゃなくて穴倉ァ!雨宮...」


『あっやべ』じゃねぇよ!もう舞依が来ることバレちゃってるよ!

 あと誤魔化し方が絶望的に下手くそだろあの人!


「えっーと?石川...は休みか。次は...…」

 教官は俺の隣の席をチラリと見て、出席簿に再び目を戻した。

 俺もつられて隣を見た。うむ、ラノベを読んでいるオタクが一匹いるな。ん?



 いや石川いますけどぉぉぉぉ?!何で居ないことにされてんの?え、もしかして石川ってア◯ザーの『居ないもの』的な存在なの?勅使河原に「アイツには関わらない方がいい」とか言われんの?


「……ッ…!」

 いや、でもこの反応はちがうだろ……石川静かに涙流しちゃってるし、こんなにニヤニヤして...…え?


「グフッグフフフフフ、こういうの、我々の業界ではご褒美でござる」


「......」

 違った、ただのMの住人だった。



 教官がパタンと出席簿を閉じた。

「よし、石川以外全員いるな。今日は転校生を紹介する」

 教室がざわめき出す。まぁ俺は誰が来るか知っているわけだが、やはり緊張はする。確実にこの後、

『あーっ!!!』

『圭、10年ぶりだね...(泣)』

『お前、もしかして舞衣?!』

『なんだー2人はしりあいなのかーなら席は隣でいいよなー』

 という展開になる。そう、その瞬間から俺は幼馴染持ちという勝ち組になるのダァ!!

 つまり、このイベントは失敗出来ない。

 悪いな石川ァ、お前の業界がどこにあるか知らんが俺はラノベ界の王道を行くと決めた。さぁ、来い!浅倉舞衣よ!!

「加古野高校から来た、狛江 雅さん...」

「「「「あーっ!!!」」」

 転校生が入ってきた瞬間、声を上げ立ち上がった。

 ......俺を含めた男子全員が。



「な、なんだお前たち...」

 気まずい空気が流れる。

 こ、狛江雅って誰ェェェ??!!

 てか何でこいつらまで立ち上がってんだァァァ!!

「え?何で皆立ってんのー?美晴も立つー」そう言って美晴も立ち上がった。もう訳が分からん。

 そしてクラス中の男子に立ち上がられた狛江 雅さんはというと...笑っていた。いや、正確には嗤っていた。


「ぷっ、なに皆さん勝手に立ってるんですかぁ?興奮しちゃったんですか?困りましたねぇ、もうカチカチですよぉ?」と、教室の時計を指差して言った。

 まぁHRの時間がもうないよって事を言いたいんだろうけど、それ別の意味でとられちゃうことあるから気をつけた方が良いと思うよ!!


「たしかに時間がないな、狛江、すまないが手短に頼む」

 カチカチで通じるんだ...

 教官に促された少女は仄かに微笑むと、正面に向き直り口を開いた。

「本日より伊馬高校に転校してきました、狛江 雅と申します。皆さんどうぞ仲良くしてくださいね?」

 一言で表すなら悪魔。色素の薄い、白に近い銀髪を持ち、赤みがかった瞳と端正な顔立ちを歪めて嗤う姿は正に悪魔と形容するに相応しいと思った。

 まぁ性格を加味すれば小悪魔の方が適当なのかもしれないが。

 そんな中クラス一の俊足、早杉田が叫び始めた。

「狛江さん!!僕の隣空いてますよ!!」


 それを皮切りにしてクラス一のオタク、クラス一のバドミントンがうまい奴、クラス一の出っ歯が続く。



「俺と共に異世界に来てくれ!!」

「僕のプッシュを優しくレシーブしてくれぇ!!」

「ふぉくのとなりふぉふぁいてふぁす!!」

 出っ歯無理すんな!空気が漏れてる!!


 それからはもうしっちゃかめっちゃかで、クラスのほとんどの男子が狛江さんを取り合って大騒ぎし始めた。

 しかし、もうすでに数人は寡黙に席に座りなおして動かない......ああ、分かっているとも。

 コイツら、いわゆる『転校生』イベントを期待してやがる......


『転校生』イベントをご存知だろうか?

 まぁ簡単に言えばギャルゲーとかで良く見る導入の一つで、美少女転校生が来てクラス中が歓喜に湧き立つ中で一人だけ興味ないふりしてたら美少女転校生に目をつけられて恋に発展するとかいう奴だ。


『あんた生意気よ!!』

『は、はあ?お前になんて興味ねえから!』

 みたいな。


 え?全然簡単じゃない?大丈夫。知っててもまったく役に立たないから。


 まぁなにはともあれ、席に座りなおした奴らはその『転校生』イベントを期待しているわけである。


 甘い!サトウキビよりも甘い!!期末テスト直前でテスト対策が全く終わってない時の各教科の見直しくらい甘いわ!!


 この『転校生』イベントには一つ大きな落とし穴がある。もうみんな気付いているだろう?


 そう、この『お、お前になんてキョーミねーし!!』スタイルは一人でなければ通用しないんだよぉ!!

 複数人いる時点でただ一人という絶対的な特別性は失われる!!


 故にスルー!圧倒的スルー!!ていうかそんな奴らスルーして当然なんだよ!絶対クラスに一人や二人はいるし、そもそもクラスの一人から好かれなかっただけで絡んでくる美少女ってちょっと傲慢すぎな気がしないですか!!

(注:彼は誰とも喋っていません。一人で討論しているヤバイ奴です)


 ふぅ......少し興奮しすぎたな。

 それではそろそろ教えてあげましょう。

 この阿鼻叫喚、魑魅魍魎が跋扈する教室内において、妖怪ども(男子)の恨みを買うこともなく凍てつくような女子の視線に晒されることもなく、狛江 雅という美少女転校生の隣の席を獲得する方法をね!!


「……」

 普通にしてる。


 いや、だって考えてみなさぁい?

 あなたが転校生だったらどんな人の隣に座りたい?

 1.普通の人

 2.めっちゃアタックかけてくるオタク

 3.全然興味なさそうなオタク

 4.めっちゃ空気抜けてる出っ歯


 断然1だよなぁ?4に至ってはただの出っ歯だからね?人ですらないからね?

 2、3が上手くいかないのは分かりきっている。もう体験済みだ、身をもってな。


 故に1!普通にしていることこそが正解だぁぁぁ!!!!


 そしてタイミングよく、この惨状を見かねた教官が口を開いた。


「あーじゃあ狛江の席は石川の隣で。今日いねーし」


 狛江さんは優雅に机の間を通り抜けると、サッと石川の隣の席に座った。

「石川さん、よろしくお願いしますね?」

「グフッ!よろしくなんだな、グフフ!!」




「「「「……」」」」



 その後の授業、石川を除く男子は誰一人として、一言も発しなかった。


 ちなみに舞衣は隣のクラスでした。


 いや別に転校生なんて全然興味ないけどね?!







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