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竜神流柔術稽古禄  作者: あいき 文・書き物店
短編「生きている実感」
62/66

一話

 ちょっとエッチな話です。


 以下あらすじです。


 服飾の専門学校に通う小西哲夫(こにしてつお)中川愛香(なかがわあいか)は、小西は中川の体を、中川は小西の勉強の課題が目当ての打算ありきの関係を持っていた。

 中川は自分の埋まらない気持ちをはらす為、様々な自傷行為と多数の男と関係を持ち、体の相性がいい要徹(かなめてつお)とは頻繁に体を重ねていた。

 要は美しい中川を自分の借金を返す為にAV業界へ引き入れようとするが、小西との関係も捨てられない中川は答えを保留しており、要は自分の欲望の妨げになっている小西を疎ましく思っていた。

 偶然、街中で連れ立って歩く小西と中川を見た要は、小西を付け調べ、知り合いのボクサーと小西を襲い中川と別れるように脅すが、偶然通りがかった竜神流柔術の間山義幸に助けられる。

 本気で中川の事を好きになり始めた小西は、脅されたのを機に中川への態度を変え、中川は後回しにして逃げてしまっていた自分の気持ちとの対話と学習へ向かうが、自分の才能の無さに心が追い詰められ街を徘徊してしまう・・・

 「それでは“服を着飾り始めた人類史”の授業はここまでです。レポート提出の期限は再来週の金曜日です。遅れないように。質問等は私の研究室まで」

 専門学校の二年目、全学科共通の授業の最終日に小西(こにし)哲夫(てつお)はいつもの席から思いを寄せる女子の横顔を見て、同じ教室で授業を受けるのも最後だな、と思う。

 眼鏡を人差し指で直した小西は視線をノートに戻し、今日の授業のまとめを仕上げる。

 中学になってからコツのようなものを掴んでいた小西は、学校の勉強というものが得意だった。課題のレポートも、これまでの授業の要点をパソコンに打ち込んでいるので、今日の授業のまとめを見ながら編集すれば小一時間ほどで出来るようにしてあった。

 勉強の要領のいい小西だが、クラスでの人付き合いは苦手だった。

 空気を悪くするような敵対心を持っているわけではないが、はっきりしない受け応えや元気のない声が話す相手の気持ちを暗くさせるので、専門の生活が始まって半年も経たないうちに小西の周りは、小西に似た暗い人間で落ち着いた空気が心地いいと感じる者が集まり、薄い付き合いがあるだけだった。

 「小西君、できた?」

 深い赤と黒のギンガムチェック柄のソフトなゴシックだがロリータと言うには引き締まった印象の服を着た女子が声を掛けて来ていた。

 その女子は小西が授業中に何度も盗み見ていた、中川(なかがわ)愛香(あいか)だ。

 その声に小西の下腹は熱くなり、胸の鼓動が強くなるのを感じる。

 「もう、ちょっと・・・もう少し待って」

 ペンを走らせながら暗く答える小西だが、授業中に何度も盗み見た想い人が目の前にいる事に動揺し、つまらなそうに窓の外を眺めていた美しい顔が今ははじけるような笑みを自分に向けている事に現実味が薄れて体重が消えてしまう。

 しかし、小西を浮かれさせるこの天使のような笑顔が、自分のレポートが欲しいという打算で作られた小悪魔の笑顔である事を知っている。

 それでもいい、と小西は思っていた。

 小西自身、自分の容姿は良く言っても中の上で決してモデルやカリスマ性で一流にはなれない事を知っていたし、好きな服で食おうと考えた時デザインする力に自信が持てなかった小西は、パタンナーならできるのではないかと好きな世界なのに諦めのような姿勢でしか行動出来ない後ろ向きな自分が嫌いだった。

 そんな小西自身が暗いと感じる自分に、まぶしい野望たっぷりの美少女が交流を持ってくれる事が奇跡なのだと思っていた。

 「まだかな?」

 一つ教台側の席をひっくり返して小西と向かい合って真っ直ぐ小西の目を見てくる中川は、まだちらほらと残る他の生徒からは見えないように机の下で優しく足を絡めて来る。

 柔らかいふくらはぎを絡められても顔色を変えずにノートをまとめるように努める小西だが、これから二人で行うであろう行為を思い、結局自分も目の前の美少女も動物なのだ、と昂る気持ちと冷えた気持ちがまぜこぜになった心で、この中川愛香が求めてくれるなら溺れさせてもらおうと思うのだった。



 日本有数の繁華街の外れにあるパチンコ屋の席に要徹(かなめてつお)は座り、昨日支払われた映像作品の給料の半分を台に吸わせるところだった。

 「くそ台が」

 優しさを感じるたれ目にキリっとした印象の鼻と口と輪郭、180センチの長身だががっちりと鍛えられた体が緩いスウェットに包まれていても見て取れる肉体美が一層好人物を引き立てるが、苛立たしくタバコの火を付けては灰皿に押し消す慌ただしい所作が、ただのチンピラという印象を植え付けるのには余りあるものだった。

 「お?きた?きた!よし!」

 このままでは、あのブサイクなキャバ嬢の所へ転がり込んで次の撮影までいい子にしなくてはならなくなる事に憂鬱な気持ちが立ち込めていたところへ、確変を知らせる台の点滅が要の心に希望の光を注ぐ。

 確変が決まった瞬間、要の頭の中にはいつも欲しいものを口にし、それをくれる男には簡単に股を開く女の身体が浮かんでいる。顔は整っているが爬虫類を思わせる美人で、男の理想の身体が現実に出てきたようなプロポーションに感度がずば抜けていい女だ。

 要の性欲は病院へ行けば病名が付くのではないかと周りの人間が思うほど強く、身体の奥から湧き上がる衝動を普通の女にぶつけるのでは女が受け止められずに潰れてしまう為、一部の性を売っている女か要と同じく性欲が壊れてしまっている女を相手にしなければ全てを開放すことは出来なかった。

 要にとって爬虫類女は、金はかかるが手っ取り早く壊れた性欲を発散できる相手だった。

 「こいよ?こいよ?」

 すでにいきり立っている自分の股間を感じながら、この後の大きな当たりを知らせる点滅が有るか無いかに要は注視する。この点滅でお気に入りの焼き肉屋へ行けるかが決まる。

 しかし、点滅に集中していた要に気持ちを逆なでする、早すぎる確変の終わりを知らせる点滅が灯り、普通の女を抱いた時のようなもやもやが要の体に広がる。

 「なんだよ!」

 そのあと小さい浮き沈みを繰り返し、終わってみれば給料は半分になっていた。

 三十手前の歳でやっと生活費を残す事が出来るようになった要だが、下半身の昂りを抑える事は出来ず、どこかから金を借りられないか思い巡らすが、すぐに自分のおやじの顔を思い出す。

 おやじと言っても実の親ではなく、要を金で買った飼い主だ。

 ギャンブルにはまった要は消費者金融から金を借りつくし、闇金にも手を出しそれも返せなくなると金貸しに拉致されたことがあった。その時に連れていかれた雑居ビルの一室で何人かの人間に面接を受けさせられ、そこでおやじに出会う。借金を肩代わりしてもらう代償で、どんなに汚く辛く危ない映像の仕事でも断る事の出来ない契約を交わされていた。

 映像に耐えうる容姿に恵まれる要は、きつい役回りの仕事を振られる事が多い。

 この前出演した映像作品は何度か呼ばれているAVものだが、監督が自分の作品をAVというのが嫌いな人で、特殊な性癖を持つ一部の支持者にしか発売しない特殊なものだ。内容はとことん女性を責めるもので、普通の男なら耐えられないような動きや長い時間の性交を要求される。

 「相手はお前の責めを受けるだけなのに給料は遥かに上。納得できないだろ?お前も自分の性欲を抑えてばかりだろ?お客はとことん女が責められているところが見たいんだ。壊したってかまわないんだよ」

 監督は要の肩を抱きながら撮影の始まりに必ずこういって煽る。

 撮影に来る女は、普通の男を手玉に取りそれでも満たされない物欲を埋めるためにきつい仕事をすることを選んだ猛者ばかりだが、要の性を受け止められる女はそうそう居なかった。

 たいていの女は壊れてしまい中途半端な性の解放は、かえって欲を募らせ、要の性欲を暴走させる。

 「落ち着け、落ち着け、ああくそ。落ち着け」

 そう呟きながら要は、金貸しとの最後の会話を思い出す。

 「お前は容姿がいいからなあ。いい買い手が付いてよかったなあ。お前みたいに、容姿が良くない奴だったり、利用価値がない奴らはどうなると思う?まず俺たちは死なない程度に殴らせてもらってからだが・・・」

 金貸しの男が言葉を切り、その時の事を思い出したのか、気持ち悪い笑みをこぼす。

 「たいてい他の国に売られちまうよ。ある奴は金持ちのおもちゃにされて、ある奴は内臓だけ金持ちの体の中で生きられるって話だ。お前は五体満足である程度の自由の中でまた生きられる。よかったなあ。」

 拉致したとき顔以外を死んでしまうのではないかと要に思わせるほど叩いた金貸しが、要が引き取られる少しの待ち時間に顔を近づけ、タバコとコーヒーと酒が混じったきつい口臭をこすり付けるように言った言葉を思い出すと、昂っていた股間を収めることができた。

 「くそ」

 飼い主にも見放されればどうなるか分からない事を思い出した要は溜息を一つ出すと、夜の相手をしていれば日々の炊事洗濯を文句なくしてくれる不細工なキャバ嬢に連絡を取ろうと携帯電話を取り出す。

 見ると一通のメールが届いており、差出人は中川愛香だった。

 性を開放できる数少ない女からの連絡に、要の下半身はまた反応し始めていた。



 「愛香ちゃん、大丈夫?よかった起きた」

 「いつもごめんね。お風呂入ってくる」

 シャワーで体を温めながら、まだはっきりとしない頭と体を中川愛香は自分に取り戻していく。

 気持ちいいけどこれじゃない、と今回も中川は思う。

 おそらく気を失う程の激しい性交は、これからの人生で要徹以外の男で体験できるのは稀であろうという事を中川は分かっている。だが、これ以上ないと思われる快感を味わっても、はっきり中川の求めているものと違う事が分かる。

 それは宝探しに出て、見つけた宝が価値ある物だが自分の欲しいものとは違ったような、そんな感じだった。

 体に残る疲労感と幸福感はしばらくしたら消えてしまい、薬が切れたら痛み出す患部のように、心を支配するのは虚無感と焦燥感だ。

 最も強い快感を体験した時この虚無感と焦燥感は無くなるのではないかと思った中川は、都会に来てからも夜の街へ繰り出し、性欲の強そうな男達と数多関係を持ったが、結局全部同じだった。

 中川はこの虚無感と焦燥感を、埋める為にはどうしたらいいかを知りたかった。

 思春期を迎えるまで中川は満たされていた。

 周りの子供と比べて可愛く、小学校に入る頃には大人たちの顔色伺う事の出来た中川は、両親か親族に欲しいものを上手にねだり、大それたものでなければ大抵の物は買ってもらうことができ、それに満足していた。

 それが中学二年の夏ごろを境に、欲しい物を買ってもらっても深い穴が出来てしまったかのように満足することが無くなってしまった。

 それから中川は満たされない何かを満たすため色々な事を試すようになる。

 リストカットや自分で落ちる寸前までの首絞めなどの自傷行為、気を失う程の自慰、酒、過食からの嘔吐、気が付けばおかしい自分にはおかしい奴らが近寄って来るもので、ハードなSMに合意の上での輪姦も体験していた。

 極度な痛みや快楽はどれも甘美ではあったが、どれも違っていた。

 ぐちゃぐちゃな行為を繰り返してはいたが、冷静な中川も残っていて何とか高校を卒業して服飾の専門学校に入る事ができた。小さい頃からかわいい服を妄想することが好きだったのと、自分を傷つけるのではなく作る世界なら何か違うものに出会えるのではないかと思ったからだった。

 だが、専門学校に入るとデザインセンスの平凡さと、作り出す事への圧倒的な技量の無さを突き付けられることになる。

 いくら頭の中で服を思い描いても、作り出さなければ頭の中にあるままなのだ。

 一年最後の課題がパタンナー学科の生徒とペアになって服を作るというものだった。

 中川の相手が男子だったこともあり、得意のおねだりと恋愛ごっこの末、課題を作り上げるが、相手の男子はデザインだけで実際の制作をほとんどしなかった中川に愛想をつかし、進級が決まったころ律義に別れ話を切り出すと疎遠になった。

 中川も恋愛ごっごはうんざりだったし、相手の男子も自分の体が目当ての形式としての付き合いだったと分かっていたので、進級の為にお互い必要な事だったと納得できていたが、作る世界でも今までのやり方で通用してしまう事に中川は落胆した。

 作ることができないなら自分の容姿を武器にして得意な人に作ってもらえばいい、そう思う反面、自分で作れれば違う自分になれるのではないか、とも思う中川はせめてパタンナーが苦労しないデザインの仕方を勉強しようと教科書を開く。だが集中力は続かず、自傷行為か夜の男に連絡を取ってしまうのだった。

 そこに答えは無い事が分かっているのに逃げてしまう自分が嫌いだった。

 「愛香ちゃん、AVとか興味ない?俺としていることを撮影すればギャラが出るのだけど、お金欲しくない?」

 髪を拭く中川に、要がAV出演の話を持ち掛けるのはこれで三度目だ。

 「今は興味ないかな」

 「そっか~。愛香ちゃん、身体も綺麗だし、おっぱいも大きいから売れると思うんだけどなあ」

 中川はこの誘いを最初にもらった時、やってみようか悩んだ。

 今まで中川は、ここまではっきり求められたことがなかったからだ。

 可愛さを振りまいて近づいて来た人は、撒き餌によって来た魚のようなもので、基本的には打算的に立ち回る中川の可愛さにあきてすぐ居なくなってしまった。いつかは打算を超えて打ち解けられる人に出会える、と中川は甘い期待を待っていたが現れず、愛想笑いの中身はいつも孤独だった。

 そんな中川を孤独にした可愛さを、要はAVではあるが価値があると言ったのだ。

 中川は嬉しかった。

 しかし、AVの世界に飛び込むと、おそらく会うことが出来なくなってしまう専門学校の小西哲夫を思い、中川はこの誘いを断ることにした。

 最初、小西との関係は進級課題で組んだ男子の後釜くらいのつもりで、誘いを断るような存在になるとは思いもしなかった。

 基本的に小西と中川は利害関係で結ばれているだけなのだが、小西の性格や考え方、常識というようなものがいつのまにか中川には必要になっていた。

 小西は壊れてしまっている中川を変えてくれるかもしれない人だった。

 それは、夜の男の中で最も体の相性がよかった要にも言える事だ。

 不思議な事に名前の読みが同じ二人の男は、それぞれ性交の質が真逆と言えるもので、性欲の底が抜けてしまっている要はとことん激しく、自信がなく中川の求めている事を探りながら体を重ねてくる小西はとことん優しかった。

 「要さんのことも好きだけど、学校で好きな男子が居るの。今の私は要さんとも居たいけど、学校の子とも居たいの。わがままなのはわかっているけど、選べないの。要さんこんな女嫌い?」

 「いや、そうやって自分に嘘をつかないのは素敵な事だと思うよ。AVの世界に入っちゃったらなかなか普通の人とは付き合えなくなるから、未練とかない状態で受けてほしいからね」

 「要さん、ありがとう」

 中川は、自分がどうなりたいかが分からなかった。

 生きている実感が欲しかった。

 以前短編で新人賞へ応募したお話です。


 短い代わりにテンポは良いと思います。


 よろしければお付き合いを。

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