十二話・十三話
(十二)
図書室から廊下に出た和仁は、女子が三人の見るからに不良の男たちに絡まれているのを見止める。
「やめてください・・・」
顔を背けてヤンキーたちのあざけりに耐える女子。
そんな嫌な顔をする女子の反応を見て、ますますヤンキーは興奮する。
和仁は勢いよく図書館から出てきたのはよかったが、女子が絡まれているのを目の前にして何をしていいのか分からなくなってしまう。
一人のヤンキーが和仁に気づいた。
「なに見てんだよ?」
和仁の腹の中で炎が燃え上がり背中を駆け上る。
「何とか言ったらどうだよ?あん!」
パンチパーマのヤンキーが和仁に近づいてくる。
(今度は逃げない!)
和仁は咄嗟に言葉で心にくさびを打つ。
虎男の時のように何もできずに終わるのが嫌だった。
近づいて来たパンチパーマが胸倉を掴みに来る。
(・・・あれ?)
和仁はヤンキーに胸倉を掴まれ、前後に力いっぱい振り回されるが、全く怖くない。
虎男と対峙した時のような圧力をこのヤンキーには全く感じなかったからだ。
和仁は稽古の時と同じように技を掛ける。
和仁は、胸にある相手の右手を右手で取り、右足を引いて体を開く。
パンチパーマは、自分の体がいつの間にか前へ崩れているのを目で感じ取るが、バランスを保つための二の足が踏めない。
パンチパーマはそのまま前のめりで倒れ、地面に押さえ付けられる。
不思議なことに和仁の胸を掴んでいる手を離す事が出来ない。
はたから見ていると、手を離す事が出来ないから何もできないわけで、手を離せばいいように見えるが、
「ギッ・・・ギギ・・・」
と声を漏らすだけで、ヤンキーは何もできないのだった。
「テッメ!仲間を離しやがれ!」
はじめに襲ってきたパンチパーマを抑え込みながら声のする方に和仁は頭を巡らすと、ロン毛のヤンキーが走り寄ってくるところだった。
和仁は、すっ、と体を引いて抑え込んでいたパンチパーマの呪縛を解き、向かってくるヤンキーに向き直る。
和仁が向き直るのと、ロン毛の前蹴りが届くのが同時だった。
ロン毛は和仁の体を蹴った感触を確信したが、足に感触が伝わらない。
和仁のよけるタイミングがあまりに巧妙なため、ロン毛は和人が消えたような錯覚を起こす。
ロン毛の背中に回り込んだ和仁は、襟を右手で取り、後ろに引き倒し、素早く両手の自由を奪うと、わかりやすく顔に拳を打ち込み、寸前で止める。
「ひ!」
ロン毛は目をつぶり、女のような声を漏らしていた。
和仁は素早く周りを見回してパンチパーマを探す。
パンチパーマは和仁から少し離れたところで壁に背中を預け、抑え込まれていた右肩に左手を当てて戦意喪失状態であった。
「間山和仁君!生徒会の学警部部長に任命する‼」
一人残ったリーゼントのヤンキーが和仁に指をさし、高らかに宣言していた。
リーゼントに顔を向け、ロン毛の顔の前に拳を止めた姿勢のまま和仁は固まる。途中から固唾をのんで成り行きを見ていた、戸浦、黒、春香もリーゼントに視線は釘付けのまま固まってしまう。
「あの・・・なんですか?ガクケイブ部長って?」
和仁がそのままの姿勢で聞く。
「あ、これは失礼」
リーゼントはそう言うと、掛けていたサングラスと、実はかつらだったリーゼントを取り、顔をあげる。
「会長!」
と思わず黒が声を上げる。
リーゼントは生徒会長の田沼興三郎であった。
「びっくりさせて申し訳ない。公表はしてないのだが生徒会の中には学警部という部門がある。何をする部門かというと学校の自警団みたいなもので、君みたいな武道経験者でどの部活にも属していない人間がぴったりな役どころなんだ。それで君の実力を試させてもらった。君は強い!ぜひ生徒会の学警部部長になってくれないか?」
「・・・いや」
和仁はロン毛から体を離しながら、
「自分は強くありません・・・」
というと、とぼとぼと廊下を一年五組に向けて歩き出してしまう。
「生徒会はいつでも君を待っているぞ!」
と生徒会長が和仁の背中に声を掛け終わると、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが鳴った。
(十三)
(ふう~、この本はあんまりだったかな・・・)
黒は本を閉じ受付の机の上に置くと、椅子に体を傾けながら伸びをする。
(あれ?そう言えば・・・)
伸びの姿勢から戻った黒は、いつもの円卓に着いて読書をしている和仁を見る。
時刻は午後五時三十分。
いつもであれば和仁は机に突っ伏し、夢の中である。
しかし、和仁は机に突っ伏すことなく本を読んでいた。
そもそも黒は、ここ三日ほど和仁が寝ている姿を見ていないことに気がつく。
「和仁君、最近寝てないよね?どうしたの?」
「ごめんなさい。あと一ページで終わるんで少し待ってください」
和仁は、眼鏡を直しながら急いで本を読み進める。
そんな和仁の姿を、机に両肘を立て両手で顎を支えながら黒は眺める。
すると、なぜか黒の目には、和仁の着ているものが着物になり総髪を結いあげた侍の姿になる。
黒は片手で目をこすり、和仁を見直す。
「・・・終わりました。どうしました?」
眼をぱちぱちしながら和仁を見ると、姿は元に戻っていた。
「あ、いや、なんか目が疲れているみたい」
と黒はごまかし、
(今のは、なんだろう?)
と困惑する。
「きっと本に熱中されるからですよ。さっきの質問、なんでしたっけ?」
と和仁は質問の内容を確認するが、黒と目が合い、二人は慌ててうつむく。
「さっき気づいたんだけど、ここ三日くらい、間山君寝てないなって思って・・・」
「そう言えば、そうですね。本が終わりにさしかかって、面白かったせいですかね。最初のうちは漢字が読めなくて辞書を引きながら読んでいると疲れてしまって。でも本を一冊読み終えるのって、なんか嬉しいものですね。でも、この本、上巻なので下巻を読まなければ読み終わったとは言えないか・・・」
「え?間山君、その本が初めて全部読んだ本なの?」
「そうですね。小、中学では全く本を読まなかったものですから」
「えェ~、以外。メガネかけているから、てっきり本の読み過ぎで視力落としたとばかり思ってた」
「メガネをかけているのと、姿勢がいいのが原因だと思うんですが、自分、よく秀才キャラだと思われるんです。目はテレビゲームで悪くして、姿勢は柔術を稽古する中でいつの間にか良くなっていたので、頭とは全く関係ないんです。証拠に成績はいつも真ん中からチョイ下くらいですし・・・」
「なんか、その勘違いのされ方、“損”だよね」
「そうなんですよ。運動はそこそこできるのですが、勉強ができないのがクラスの人に知れ渡るとがっかりされるんです。はあ~」
「あ、でもそれ少し分かる気がする」
「そんな~。高梨さんも自分が勉強できないのが分かって、がっかりしますか?」
「ちょっとね~」
というと黒は、くすくす笑い、
「じょ~だん。私は勉強できようができまいが、あんまり関係ないよ」
と、笑顔で言う。
「よかった。自分が本当は勉強できないのを認めてくれた」
と、和仁は胸をなでおろす。
「なんか、変な誤解の解き方だね。勉強できそうだけど実は勉強できないっていう誤解の解き方って」
そう黒が言うと、二人はうつむいたまま、くすくすと笑う。
二人が笑い出すのに合わせるように、ガラガラ、と図書室の扉が開き、
「お待たせー。春香ちゃん迎えに行こうぜ~。ん?なんでうつむいたまま笑ってるんだ?二人とも気持悪いぞ」
と、放課後一緒に帰るために戸浦が図書室に入ってきた。
「うるさいわね。情報集めが趣味な人間のほうが気持ち悪いわよ」
と、黒。
「へいへい。ほら、春香ちゃんとこ行くぞ」
と戸浦は、二人を促した。




