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竜神流柔術稽古禄  作者: あいき 文・書き物店
長編 「利用された池尻明子」
50/66

十九話

 (十九)

 間山和仁から見て、左からはメリケンサックが握られた右拳、右からは腰の入った見るからに重いミドルキックが迫る。

 和仁の体は勝手にミドルキックの間合いに鋭く踏み込み、

 「ぬん!」

 と、ミドルキックを打つチンピラの軸足のすぐ内側に右足を滑り込ませると、気声と共に右手の平に左手を重ねて鳩尾を狙う。だが、相手の体のキレもなかなかなもので、ミドルチンピラの右わき腹を突き飛ばす形になるが威力は十分で、ミドルチンピラはもんどりうって吹き飛ばされる。

 「おらあ!」

 和仁の鋭い入り身のせいで盛大に右メリケンを空振りした左のチンピラだが、それでも暴力を生業にしているだけあり、崩れた勢いを左足で立て直すと勢いをそのままに、右足で踏みつけるような前蹴りを繰り出す。

 和仁は左のチンピラには背中を向ける形になっていて見えていた訳ではないが、日頃の稽古場での前後左右上下に気を配りながらの稽古や、背中から襲われる稽古の感覚が実戦で研ぎ澄まされているのか、メリケンチンピラの動きが影のような形で頭に浮かんでいて、その動きに合わせて時計回りに振り向きざま、右腕で踏み蹴る動きに沿わせ外す。

 「お?」

 完璧な拍子で前蹴りを捌かれたメリケンチンピラは、前蹴りを捌かれ大股に導かれた姿勢を立て直そうと右足を踏ん張り左足を引き付けようとするが、体が軽く拍子抜けするような感覚に陥りつま先立ちになってしまう。理由は振り向きながら蹴りを捌いた勢いのままメリケンチンピラの背後に回った和仁が、右手で右手首を取り左手で襟首を捉えメリケンチンピラの重心を狂わせながらつま先立ちに追い込んだからだった。

 和仁は重心が浮き上がったメリケンチンピラを、反時計回りに体を捌きながら投げ落とす。

 頭から落ちたメリケンチンピラは動かなくなった。

 和仁はすぐ背後に向き直りミドルキックチンピラを探すが、どいういきさつか戸浦守人が前三角締めでミドルチンピラを捉えていた。しばらくもがくミドルだったが十五秒も待たずに動かなくなる。

 目の前で起こる超人的な和仁の強さに生徒会の四人は目をくぎ付けにされていたが、田沼興三郎は我に返ったように背中へ目を配り、先程通せんぼしていた三人のチンピラを探すが、チンピラ達は生徒会員が入ってきた路地の入口を見ていて、興三郎たちに背中を向けていた。

 興三郎が更に路地の入口を見ると、二人いたチンピラの一人は肘を抑え転げまわり、一人は大の字で伸びていた。

 入口と生徒会員を挟んで入口を見ていた三人のチンピラの前には、竹内紀子を竜神流の稽古場で捕まえた涌井が笑顔を湛えながら腰の前に両手を手刀にして構えていた。

 「自分たちは涌井さんに加勢します。会長達も少し離れた所に居て下さい。前後を見なければならないので難しいと思いますが、のばしたここにいる三人を見ていてもらえますか、会長」

 「わかった。やってみるよ」

 和仁の足りない言葉でも興三郎はのばした三人の誰かが起きたら知らせて欲しい旨を理解し、和仁と守人に付いて行く。前方は三春と紀子、後方の伸びているチンピラを興三郎と池尻明子が担当する事にして、四人は背中を合わせて固まる事にする。

 三春と紀子は、涌井、和仁、守人の連携に目を見張る。

 二人から見て左から、ナイフ、ナイフ、警棒と三人のチンピラは獲物を持っているが、真ん中の男へ駆け寄る守人がいつの間に拾ったのか持っていたのか、拳より一回り小さい石を投げつける。それが真ん中のチンピラの右の肩口に当たり気がそれた瞬間、三春と紀子の目では涌井の体が上半身の左右のブレ無くいきなり大きくなると、真ん中のチンピラと被り、二人から見えなくなるが、真ん中のチンピラは涌井の当身を鳩尾に食らい崩れ落ちる。

 左右のチンピラは真ん中のチンピラに起きた事に気を取られ体が固まっていると、左のナイフを持つチンピラを和仁が背中から右手でナイフを持つ右手首表を取り、左手で襟首を捕ったと思うと仰向けに引き倒し尻を地面に着かせる。左のチンピラの上半身は起きたまま、和仁は肩の裏から右膝を当て肩と手首と襟首を決め引き絞ると、左のチンピラはしばらく左腕を振り回し十数秒でナイフを落とし動かなくなった。右のチンピラも固まった瞬間に守人が背中へ飛び乗り、首へ腕を回し裸締めにして締め落としていた。

 「すごい・・・」

 紀子は三人の連携の動きに感嘆の言葉をこぼす。余りに呆けた声を紀子が出したため、興三郎と明子は振り返りたい欲求に駆られるが、路地の出口で三人のチンピラの影へ、ぱっ、ぱっ、ぱっと当身を入れて駆け寄ってくる影が、

 「興三郎様、怖い思いさせて申し訳ありません」

 と言い、暗い街灯に照らされたのは間山和仁の父、間山義幸だった。

 「義幸おじさん、ありがとうございます。あ!」

 動きやすい大きめのスーツだが折り目正しいボディーガード然とした格好を揺り動かしながら駆け寄る義幸だが、義幸からは死角になっているビルの角に木刀をもったチンピラが待ち伏せしていて、これ以上ないタイミングで義幸の頭へ木刀が振り下ろされる。

 「プロなら闇討ちするときに殺意を消さなきゃ。おまんま食い上げだ」

 興三郎にも明子にも木刀が義幸にぶつかったように見えたが、義幸は寸での所で止まり木刀は空を切っていた。

 「そっちも殺意出過ぎているよ。もっと稽古しなさい」

 そう話しながら空振りをしたチンピラへ手の甲で目潰しを当てると、パチンという鞭を打ったような甲高い音がして、木刀チンピラは左手で目を抑え腰が折れ後ずさる。だが、木刀を持ったまま前に出されていた右手首を義幸は表から左手で取り捻じり上げ、右手で木刀チンピラの右肘を支えると、先程和仁がやったように木刀チンピラはつま先立ちの態勢へ追い込まれてしまう。

 「この、兄貴を、お?お!わ!」

 反対側に潜んで義幸へ木刀を振り下ろすタイミングを暗がりから伝えていたチンピラへ、目の痛みと涙と取られた腕でどうすることも出来ない木刀チンピラを操り人形のように自在に操作しながら、義幸は詰め寄って行く。

 潜んでいたチンピラはナイフを抜いていたが兄貴を切るわけにもいかず、気が付けば兄貴もろともビルの壁へ詰められてしまう。

 と、操り人形の兄貴の体に押されながらも、義幸の脇腹へナイフを滑り込ませる隙を見つけたチンピラは、躊躇なくそこへ向かって切っ先を振る。

 「いでででででで!放しやがれ!」

 「兄貴、暴れたらもっと深く極まっちまいます!いでででで!」

 気が付くと潜んでいたチンピラは地面に腹ばいに、木刀チンピラは潜んでいたチンピラの上で仰向けにされ、腕が絡まり、絡まった先端を義幸は足で踏んで解けないようにしていた。

 「こりゃ、顕ちゃんにきつく言ってもらうように、伝えなきゃなあ」

 踏む力は弱めず周りを伺う義幸だが、

 「先生、ご協力感謝します」

 と敬礼をしながら、制服の警察官達が路地の入口と出口から殺到するのを見て、義幸含め全員ホッと胸を撫で下ろした。

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