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竜神流柔術稽古禄  作者: あいき 文・書き物店
長編 「利用された池尻明子」
49/66

十八話

 (十八)

 「え⁉あの話そんな事になったんですか?」

 新熊実巡査の身に起きた事を聞き、新聞部の一年竹内紀子は思わず声が大きくなってしまい恥ずかしくなり周りを見回して肩をすくめる。

 「そこに堪治先生と戸浦さんが駆けつけて、助けられたみたいだけどね。その盗撮の犯人グループ、例の私達の学校の盗撮映像を含めた、盗撮動画で一杯のハードディスクと遺書まで用意していて、もし助けが遅れていたらって考えるだけで」

 池尻明子は両腕で体を抱くと、

 「やばい、本当に鳥肌立っちゃった」

 と、体を震わせる。それを見て紀子の体も鳥肌を立たせていた。

 今日は田沼興三郎の誘いで、今回の盗撮事件で頑張ってくれた人間に声を掛け、学校終わりに繁華街に出てカラオケを楽しんだ帰り道だった。間山和仁と戸浦守人にも声を掛けたが稽古日とのことで参加していない。明子は歌っていない時は終始、興三郎にべったりで、その時ここ数日の新熊刑事に起こっていた事を聞いていた。それを帰り道に紀子へ話して、二人して体を腕で抱き震えてはいるが、表情は明るく事件が解決に向かっている事に二人は内心、安心しているようだった。

 「私は、やばいかもよって言っていたのよ。でも横のバカ兄貴はこの先は警察に任せるのが筋だって聞かなかったのよ。若い優秀な刑事さんが危ない目に会って、それがおとり捜査みたいになって警察はハチの巣をつついたみたいに大騒ぎだわ。何考えてるのかしら全く」

 生徒会長の興三郎を、小さい体で鼻息荒く言及するのは妹の田沼三春だ。三春は明子が逃げていた一週間、明子がはめられたという噂をネットの掲示板を使って流し続けた。そして噂に興味を持った人間全てに、生徒会へ学校から調査の依頼があったと答え続けた。このおかげで学校全体に、この事件は何かおかしいという雰囲気を作ったのは確かだった。

 「そう言わんでくれ、妹よ。実は父さんに相談しての事だったんだ」

 「え!お父様に話していたの?」

 興三郎と三春の父は政治家で、幼いころから父と子の会話では、些細な事から大きな事まで何か判断をしなければならない内容を相談したり指示を仰いだりすることはご法度だった。すべて自分で考え、答えを父か母に話さなければ、いつも優しい父は烈火のごとく怒り、答えを出すまで他の会話を禁じるほどのタブーを、高校三年の兄は犯したことに三春は驚きの声を出していた。

 「三春はパソコンスクールで昨日居なかったから仕方ないよ。父さんから聞かされた話と、間山おじさんから話を聞いて、相談したことは間違ってなかったと思ったよ。これでもずいぶん考えて、あの資料がもしかしたら人を殺す事になるんじゃないかってのも考えて、まあ、結果はお前の言う通りだ。だけど相談しなかったらどうなっていたかを考えたら恐ろしくなるよ。あの厳格な父さんが、学校を超えた領域の事は相談して来いって言っていたよ。それはあれ以上、自分たちが入ってはいけないって事を言いたいんだろうと思ったよ」

 そう言うと、興三郎は顔色悪く、考え込むように黙ってしまう。

 兄の興三郎はデータを集めると、最後は直感で決めるタイプで決断力が早い。妹は必要なデータを集めそれをみてまず現実的な法律や警察などの国家の仕組みを第一の判断材料にして慎重に決めるタイプで、この兄妹は導き出す答えでぶつかる事がしばしばあった。

 堅実に行く妹へ父は、「兄が暴走した時は報告するんだぞ」と、兄には内緒で約束を交わしていた。

 独走しない限り、生徒会と共に事件に取り組む時の兄の直感はなかなかすごいものだ、と、父に相談したという話を聞いて妹は思う。幼いころから刷り込まれてきているトラウマのような父の教えに逆らってまで相談した兄の苦悩を思い、三春は自分にそれが出来るのかと暗い気持ちになった。

 「こんなかわいい子達を三人もつれて、真面目そうな顔してなかなかやるじゃんお兄さん」

 「でもさ、こっちは三人で丁度、数合うし、お兄さんが良ければ、いいよ、ね?」

 一瞬、四人は誰に話しかけられているのか分からなくなるが、周りにはいつの間にか生徒会の四人しかおらず、前から明らかにガラの悪そうな男三人が近付いて来ていた。

 道は丁度、繁華街の最寄り駅へ行くのに近道になる人通りの少ない路地裏で、路地の出口と入口に興三郎たちの前に居る男達と同じような格好のガラの悪い男が二、三人で、路地に人が入ってこられないように睨みを利かせていた。

 「お兄さん早く、その子たちを渡す決心しないと、これで」

 先頭のチンピラがいつの間にかナイフを逆手に持っていた。

 「足、グサッて、ね?わかるだろ?」

 両隣の他のチンピラも一緒に、心底楽しそうに汚い笑い声を上げる。

 池尻明子は咄嗟にバッグの中の携帯電話の録音アプリを、練習してきた手順で画面を見ずに後ろ手で起動するが、果たしてこれが何の役に立つのだろうと顔面蒼白にしながら思う。

 目の前に迫る暴力に各々できる事を考えるが、明子のように顔色が悪くなるばかりでチンピラのナイフは着実に興三郎の脚へ迫っていた。

 「ほら、早く決めねえと。ほら」

 チンピラがあと三メートルの所に迫るなか、後ろを興三郎が見ると、いつの間にか三人のチンピラが立っていて凶悪な笑顔を湛えながら通せんぼしている。繁華街の煌びやかな表通りとは打って変わって、店舗裏ばかりが並ぶ薄暗いこの路地裏に何人のチンピラが潜んでいるのか見当もつかなかった。

 「あれ?おれはよ、そっちのお兄さんの脚に用があるんだけどなあ。お姉ちゃんの綺麗な脚は、おれ、なめてあげたいなあ」

 明子はこのメンバーの中では自分が竜神流の稽古場で一番暴力に触れてきたことを思い、一歩前へ出る。いつも人の目を計算してセクシーに動く明子の動作は鳴りを潜め、足の震えを止めるので精いっぱいだった。

 「いやああああああああ!」

 稽古場で習ったように、腹の底から明子は気声を発する。

 「おお~何かやってるね、お姉ちゃん」

 「うちで稽古しています」

 ギョッとした顔でチンピラ達と生徒会の四人が視線を向ける先に、ビルの間から現れ先頭のチンピラのナイフを持つ右側面に立っていた間山和仁が居た。

 暗がりでナイフを持つチンピラの腕が胸の高さまで上がったかと思うと、和仁の左手は先頭のチンピラの右手首を取り、ナイフを握る手を包むように和仁の右手が添えられると、チンピラは仰向けに後頭部から小手返しで地面に打ち付けられた後、

 「いでででで!う!」

 肩の裏側へナイフごと畳まれ、肘を捉える和仁の左手の動きに合わせ、チンピラの腰が浮き完全に身動きが取れない状態に追い込むと、その態勢で痛がるチンピラの首筋の急所へ手刀が叩き込まれ、悲鳴を上げていたチンピラが嘘のように静かになった。

 「明子さん、良い気声でしたよ」

 言いながら、立ち上がろうとする和仁へ、左のチンピラはメリケンサックが握られた右拳を、右のチンピラは腰の入ったキックボクシングをやる人間特有の、鍛えた脛ですべてを押しつぶすような回し蹴りを放っていた。

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