十五話
(十五)
鳴村に停職が言い渡されたその日のうちに、生徒会が盗撮に関して調査したレポートを文武大付属高校の最寄りの警察署へ生徒会長の田沼興三郎と妹の三春が提出した。
「新熊~、こんなものが届いているぞ。受付がどこの課に回せばいいか分からなかったらしい。高校生からの情報提供だからお前の所らしい」
「他の課が受け取らなかったんじゃないんすか?」
「そこらへんは余り考えない方がストレス溜まらんぞ。まあ捜査一課の刑事が目を通したとなれば納得してくれるだろ。捜査一課兼少年課、新熊実巡査殿」
「分かりました」
新熊は封筒を受け取る。
「本業が優先だからな、あまり無理するなよ」
そう言うと、新熊の上司は帰って行った。
上司のデスクを見ると、一番下っ端の新熊がいつも押し付けられている日報がいつもどおり置いてあり、
(書類を押し付けるなら、自分の日報くらい書いて欲しいわ)
と心の中で毒づきながら、手早く上司が書くべき日報を書き上げる。
(で、どんな内容かなっと)
周りの同僚達が帰宅した静かな捜査一課の部屋で、封筒を開けると一枚のディスクと数枚のレポートが入っていた。それを手に取り目を通し出す。
前略
警察組織に詳しくなく、どの課の方にこのレポートを見て頂いているか分かりませんが、目を通していただいている方にまずお礼申し上げます。
この度このレポートを送らせていただいたのは、私が通う文武大付属高校の女子陸上部の練習風景をあからさまに性的な目的で撮影された動画が、海外のポルノサイトへアップロードされたことに端を発します。
私たち生徒会は教職員と協力しながら調査したところ、他にも我が校の受けた盗撮と同じような多数の動画を発見するに至りました。
このようないかがわしい動画を増やさないようにしなければならないとは思うものの、我々の調査力ではこれ以上は進めるのに限界を感じており、警察の力に委ねたいと思いこのレポートを送らせていただきます。
生徒会長、田沼興三郎
草々
そう記された便せんの後に、写真の資料が続き、動画を検証してみると比較的近い個所から高さで十五メートルから二十メートルの高さで動画が撮られているという予想と、カメラに詳しいものが望遠でビルの上から撮った写真とドローンに搭載可能な小型な高性能デジカメを使った写真など色々な検証結果を総括して、おそらくドローンでの撮影だろうという結論で締めくくられていた。同封されていたディスクはレポートの写真の基になった盗撮動画や検証動画などがびっしり詰まっていた。
新熊はディスクの動画量に軽く眩暈を起こすが、
(これはちょっと放ってはおけないぞ)
と思わせるのに十分な内容だった。
気が付けば十時を過ぎていたのでその日は帰り、翌日新熊は上司にこのレポートの調査に専念したいことを伝えた。昨夜少し見た盗撮動画の量が引っ掛かっていて、あれだけの量をシリーズ物のように撮影するのはプロが絡んでいるように思えたからだ。
上司は自分の仕事が増える事に不満をたれながらも、新熊の熱意に押され了解を出してくれたが、本業である一課の仕事が優先だぞとくぎを刺されての了解だった。
しかし、新熊自体はそこまで仕事量が増えるわけでは無かった。
まず新熊は警視庁のサイバー課へディスクを送り、この盗撮動画を撮った組織に繋がるサイトや裏ビデオ屋が無いかの調査を依頼した。
サイバー課からの返答を待つ間、日常業務の合間に新熊自身はもう一度レポートをじっくり読むと、ドローンと必要なカメラの性能の検証を始めた。
カメラについては、おそらくこれだろうという焦点距離を稼げるカメラに新熊はすぐ行きあたる。しかしドローンについては簡単にはいかなかった。そもそも撮影目的で売られているドローンは、離れた場所から焦点距離を稼ぎ寄った映像を撮る為のカメラを乗せる様には作られていなかった。あたり前な話だがドローンでアップの画が欲しければ本体を近づけて撮影すればいいからだ。レポートの生徒会の検証動画も本体を近づけて撮影し、動画と近い映像を撮った後、そのドローンの位置を元に学校の敷地外から撮った場合の高さと距離を計算で出したと書かれていた。
そうなるとドローンは自作か特注品になってくる。
新熊は特注を請け負うドローン製作会社やドローンのパーツを扱う店を調べ、目星を付けているカメラが乗るドローンを作れるか、電話で片っ端から聞いてみる。これにはさすがに一日、一課の通常業務を休ませてもらっての作業だった。
聞いていくと、捜査に協力的な一つの製作会社がフィリピンのある会社から、音が静かで新熊が伝えたカメラが乗せられるドローンを受注し、納品したことを教えてくれた。
その電話のやり取りを終え受話器を置くと、その日に丁度サイバー課から調査結果の封筒が届いた。
早速新熊は内容を確認する。
捜査一課刑事課兼少年課、新熊実巡査殿
依頼されていた動画を拝見し調査した結果、海外の有料サイトに類似する動画を配信するサイトを発見しました。サイト内を調べてみた所、本動画のほかに日本人の未成年と思わしき性交動画を配信している事が分かりました。
本件のような児童ポルノ法に抵触するような内容が見つかり、サイバー課でもどのように調査を進めるかを検討している次第です。
捜査体制に関しては追って報告が通知さるものと思います。
以下資料
・有料サイト内動画コピー
・有料サイト運営会社情報
・サイト画面コピー
※ウイルスなどの感染対策の為、当方署内からのサイト閲覧は禁止します。サイト画面で気になる部分を発見された場合は電話連絡にてすぐ対応致します。
新熊は送られてきた資料の“有料サイト運営会社情報”を見る。
新熊がドローン制作会社から聞きだした会社名と、運営会社名が共に英語表記の“エンジェル・ピクチャーズ”だった




