十三話
(十三)
「鳴村先生の主張は分かりました。この会場でメモリーカードの内容を確認されたい方はいらっしゃいますでしょうか?」
進行役の陸上部顧問が問いかけるが、全員が沈黙で答え、その必要は無い事を伝える。
「今の鳴村先生の主張について、池尻君は異議申し立て等ありますか?」
「はい。あります。発言よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。まずなぜ私がその場で説明せず逃げなければならなかったかを説明させていただきます。一番の理由としては鳴村先生の到着と行動が申し合わされていたように早かったところにあります。生徒会の仲間が鳴村先生の直近の行動に疑問を持ちマークしていてくれたため脱出の準備をしてくれていました。疑問が多く残る中で捕まるのに強い抵抗感がありその場では逃げる事にしました。この点に関しては学校で調査をしている職員の方々、また警察関係の方へ多大なご迷惑を掛けた事をお詫びいたします」
そう言うと明子は頭を下げる。鳴村から警察への通報したことを知らない職員、PTAの人間がざわつく。
「この一週間は生徒会員のあるお宅へお邪魔をしながら疑問点を解決することに努めてまいりました。一番の疑問は鳴村先生がなぜあんなに早く私を捕まえようとしたかでした。幸い調査に協力してくれる仲間に恵まれた事もあり、屋上での出来事の前後、鳴村先生がどのような調査をしていたかを関係各位に聞き込みをしていただきました。そこから見えてきた鳴村先生の調査は私が盗撮の犯人だと断定した上でそうされている節が感じられました。先生は私が犯人だと思い調査をされていたのでしょうか?」
鳴村にマイクが渡る。
「始めはそうではありませんでしたが、池尻君がカメラに詳しいという事が分かり、そう取られるような調査の進め方をしたように見られてしまったのかもしれません。そうですね・・・全生徒の情報を犯人の持っているであろうスキルと照らし合わせて浮かび上がった池尻君をマークしたことは認めます」
「分かりました。先程、鳴村先生は匿名の情報が寄せられビルのオーナーへ説明しラグビー部の数名と屋上に登った事を仰っていましたが、生徒会長が仲間と改めてそのビルのオーナーと当時の話を聞いて来てくれています」
そう言うと、田沼が鳴村との会話を再生したボイスレコーダーを操作しマイクを近づけ再生する。
〈オーナー、何度もお邪魔してしまい申し訳ありません。この前の屋上での騒ぎがなんで起きたのかを調べておりまして、騒ぎが起きる前に何でもいいのであった事柄を教えて頂きたく、今回は参りました〉
田沼の声から再生が始まる。
〈いやいや、私も何が何だか分からないのだよ〉
〈と、言いますのは?〉
〈まず、騒ぎの数日前に君とあの姿勢の良い子が来て撮影の許可を求めに来ただろ。その翌日、鳴村という英語教師と言ったかな、が訪ねて来て、教職員の調査ではその生徒会として来るという女子生徒が盗撮の犯人だと言って、屋上に来る日時を聞いて行ったんだよ。それで当日、君たち生徒会の子が来た後に、しばらくしてラグビー部を連れてあの鳴村って男が上がって行って、それで屋上にラグビー部が閉じこめられたって降りてきたと思ったら警察も来てみんなで捕まえるぞってあの騒ぎになったわけだ。何が何だか分からないよ。だって生徒会と職員で盗撮の事を調べているのだろ?〉
「このようにビルのオーナーから前後関係のお話を聞かせていただいています。先程の鳴村先生のお話だとオーナーへの訪問の件は一つも出て来ていませんし、オーナーの話を信じれば私が犯人だと断定して調査されていた事が伺えます。これはいったいどういう事でしょうか?」
マイクを置いて鳴村にもう一度説明をという表情で真っ直ぐ向く明子を見て、鳴村は授業で噛みついて来た時の明子の姿を思い出す。その時鳴村の中で何かかが弾ける音が聞こえた。
荒く立ち上がった鳴村は、
「私の前後関係の説明が不十分なのは認めましょう。でも事実、池尻君はあのビルから撮影をして映像も残っている!使われた機器もそこに置いてあり、屋上で君がそのキャリーバックへカメラとレンズを収めていた様子をラグビー部員も見ていた。君が盗撮をしていたという証拠がここに揃っている。それは変えられない事実だと思うがどうでしょうか!」
と、鳴村は声を荒げ、言い終えると座る。
「教職員調査委員の方々へお聞きしたいのですが、私のキャリーバックを開けてカメラを調べられているでしょうか?」
鳴村とは裏腹に明子は落ち着き払った態度で教職員たちに聞くと、
「いや、中に入っている物が高額であるものだと、持ち帰ってきた鳴村先生が言うのでカメラ、レンズは調べていません。そもそもキャリーバックを開ける事ができませんでした」
答えた進行役へ「分かりました」と明子はいうと、教職員たちと明子達の間に置かれていたキャリーバックへ近づき、左右に付いているダイアルを回し合わせ、その横に付いているボタンを押しながら鍵を横にずらした後、左右をあべこべに上下にずらした。
少し特殊な構造の鍵を備えているキャリーバックは開き、中から七十センチ近いレンズとカメラが姿を現す。
明子はカメラを取り出す。
「先程、鳴村先生は私が渡したメモリーカードの中には、事の発端になったデータが入っていたとおっしゃいましたが、ビルの屋上で私が鳴村先生とラグビー部のみなさんに見られながら片付けたこのカメラの中にも、私が取った動画が保存されています。このカメラはデータを本体にも保存する事が出来るものです。このような調査で、もしもの事があってはいけないと思い本体とメモリーカード両方へデータが残るように設定していました。この場でこのカメラに入っている私の撮った動画を再生したいのですが、よろしいでしょうか?」
「鳴村先生の証拠とそのカメラの内容が一緒であることを確認する必要性を考え、動画を再生することは必要でしょう。用意します」
そう進行役が言うと、教員と生徒会員はプロジェクターの用意を始める。
鳴村はそれを見ながら、冷たい汗が背中を流れ落ちているのを感じていた。




