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竜神流柔術稽古禄  作者: あいき 文・書き物店
長編 「利用された池尻明子」
43/66

十二話

 (十二)

 「早速ではありますが、生徒会がなぜ池尻明子と間山和仁を、盗撮に利用されたであろうビルへ調査に向かわせたかの状況をお伝えする為に、このボイスレコーダーの音声を皆さんに聴いていただきたいと思います」

 鳴村が会議室の席に着いてから間を置かず、ラグビー部の部長と顧問、それに学校では見た事のない背広の男が二人、会議室へ到着すると進行役の陸上部顧問の挨拶もそこそこに、生徒会長の田沼興三郎が懐からボイスレコーダーを取り出すと、全員へ聞こえやすいようにマイクを近づけて再生ボタンを押した。

 〈ガラガラ(どこかの部屋の引き戸を開ける音)失礼します。ガラガラ(同じく閉める音)〉

 〈田沼君、忙しいところ悪いね〉

 〈いえ、鳴村先生ご用とは何でしょう?〉

 〈田沼君は、一部の生徒の間で話題になっている“陸上部女子への盗撮”の噂はしっているかい?〉

 〈あ・・・いえ私は存じ上げません〉

 〈それが、教職員で誰がこんなことをしたのかを調査しようという話になってね。で、生徒会にも協力をしてもらいたくて今日は来てもらったんだ〉

 鳴村のこの発言で会場がざわつく。

 〈これが例の動画が入っているディスクだ。申し訳ないけど、この動画データを参考にどこから撮られたかを調査して報告してほしいんだ。よろしく頼むよ〉

 〈わかりました。どこまでできるか分かりませんがやってみます〉

 再生が終わりマイクを今度は自分の口へ近づけ田沼は、

 「鳴村先生には、なぜこのような依頼を生徒会へしておきながら、その調査をしている池尻明子を捕まえるような行動をされたのか説明をお願いします」

 明子が逃げた理由や、今までどこへ隠れていたのかなどの質問以前に、興三郎から提出された音声は会議室の全員に沈黙をもたらし、鳴村は背中に冷たさを感じそこで初めてひどい冷や汗をかいている事を自覚する。

 「鳴村先生、生徒会長の質問に答えられますか?」

 鳴村はこの状況を収める口述に頭の全てを使っていたため、

 「は、はい?はい、え~」

 と、言葉に詰まりながら、いつの間にか回ってきたマイクを受け取るとゆっくりと立ち上がり声を絞り出す。

 「この音声ににつきましては、確かに私が生徒会に調査の依頼をした時のものです。生徒会に調査を進めていもらっている間に、私の方でも調査をしていましたところ、ある建物の屋上で撮影をする者が居るという目撃情報が匿名で寄せられました。そこでビルのオーナーへ事情を話し屋上へ行ってみると、池尻明子君と間山和仁君がおり、そこにあります超望遠レンズのカメラでの撮影をしておりました。そこで犯人との遭遇を考えラグビー部へ前もって協力の要請をしており間山君を・・・」

 「わかった。すると、鳴村君の調査の過程で、生徒会との行き違いにより間山君と池尻君を、まあ池尻君は逃げてしまったのだが、捕まえようとしたということかね?」

 鳴村の言葉を区切り話の結論を急がせたのは、鳴村にとって“上のあの人”で自分に今まで指示を出していた副校長だった。

 フル回転で回る鳴村の頭はここが分かれ道だという事を感じ取っていた。

 ここで自分が誤れば、すべては自分の勘違いとして処理され、おそらく少しの停職の後、あの弛緩した英語の授業を続ける日常へ戻って行くことになる。

 「この件に関しまして・・・」

 鳴村は喉の渇きを覚え、唾を飲み、

 「私の調査が正しいと考えます。逃げる前の池尻君から受け取ったメモリーカードには例の盗撮と同じ映像が収められており、この学校でこの盗撮をできるのは池尻君しかおらず、隠れて撮影をするのではなく生徒会の調査という大義名分に飛びつき、新しい映像を撮っていたと私は考えます。理由はこれからはっきりすると思われますが、あのビルの屋上から危険を顧みずロープで逃げたこともこの盗撮の犯人が池尻君である証拠の一つだと思います。もし信じられない方は屋上で受け取ったメモリーカードの内容を改めて頂きたいと思います」

 そう鳴村は言い切ると、睨むように副校長へ視線を向けるが、副校長は明子に向いたまま鳴村へは目もくれなかった。

 (ただじゃトカゲのしっぽにはならないからな。いざとなったら副校長も巻き込んでやる)

 鳴村は教員という人間たちを憎んでいるのかもしれないと、言い切った清々しさの中で思う。

 鳴村は学校の教員が何をさせたいのかが分かり、それをこなすのが得意で、一度の挫折意外は勉強をそつなくこなせた経験から教員の仕事を選んだ。だが、その挫折を味合わせた教員以外は、いざとなれば自分は関係ないと生徒と距離を取り裏切る教員ばかりだった。そういう教員の出す課題は一本調子で鳴村は、それをこなすのが得意だった。

 気が付けば、鳴村もそういう教師の一員になっていた。

 鳴村は自分が嫌いだった。

 言われたことを敏感に感じ取り、それに応える事しか出来ない自分。

 求められる事に的確に応えるように努力する事に、鳴村は嫌気がさしていた。

 自分は間違ってない。自分のやる事は完璧で、自分は何も悪くない。そう鳴村は思いたかった。

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