九話
(九)
新聞部の一年、竹内紀子は池尻明子がもう三日も学校を休んでいる事に気が取られてしまい、自分の新聞記事作成に身が入らなかった。
明子が居なくなって三日目、新聞部はもちろん、生徒の間にも色々な噂が飛び交い、それぞれに生徒全員が興味を引かれていた。
噂が全体に回りだした頃、紀子の周りの友達は紀子と明子の関係を考え、話題に噂を出そうとしなかったが、
「みんな気を使わせてごめんね。私、池尻先輩を尊敬しているのは確かだし、変な噂が広まっているのも知ってる。だけど、みんなが気を使って何も話してくれない方が怖いと思っているの。私なりに調べて池尻先輩に会って話さなきゃと思ってる。だからみんなが知っていることは私の気持ち云々じゃなくてなんでも教えて欲しいの」
日頃、紀子の周りの親友たちは原宿のカルチャーやコスメ、ファッションを中心に、新聞部でカワイイをテーマに情報を貪欲に集める紀子に引き寄せられた人間ばかりで、この手の話をしないのが常であったが、紀子からの願いと決意に日頃の恩恵に少しでも応えられるならと、それぞれが聞いた話を紀子に気を使いながらも話しだす。
「紀子には悪いけど、池尻先輩が例の盗撮動画の真犯人だって私は聞いたよ。池尻先輩しかあの盗撮は出来ないって、しかも学校に来てないのは今警察とか教員とかと学校とは違う場所で話をしていているからだって」
「でも、池尻先輩ってレズだって話一つもなかったよね?なんで先輩が撮影するのかが分からないんだけど」
「そういう動画って高く買ってくれるところがあるって私の彼が言ってたよ。先輩お金に困っていたんじゃない」
「私の聞いた話は、生徒会からの依頼で池尻先輩は調査していたんじゃないかってきいたよ」
「それ私も聞いた。池尻先輩、カメラの知識だと校内で指折りだから、生徒会から動画がどこから撮られたか調べて先生に報告するように言われてたって」
「え~なにそれ、私、わけわからなくなってきたんだけど」
「そうなの、先輩が犯人だっていう人と、捜査してたけど何かの手違いで捕まったっていう人とか、謎が多すぎて本当の話がよくわからないのよね、この話」
紀子は友達が聞いた話を聞いていてはっきりわかるのは、何らかの形で池尻明子が事件に巻き込まれているという事で、聞いた話をなぞるだけで考察に向かわない女友達との会話に少しの苛立ちを感じながら自分はこれからどうするかを考える。
「紀子?ごめん、気を悪くしたんなら謝る・・・」
聞いた情報を整理しながらうつむく紀子は、日頃話の話題を持ち込み、話の中心でカワイイを発信している姿とはあまりにかけ離れている為、初めに紀子の様子に気が付いた女友達は声を掛けずにはいられなくなっていた。それに合わせて周りの人間も口をつぐみ、紀子への配慮が足りなかったのではないか不安になる。
「うん、こっちこそ、ごめん。色々な話が聞けて参考になったよ。ありがとう。私そろそろ部活行くね」
「うん、何か分かったら伝えるね」
仲間に見送られながら、部室に向かう紀子だったが、池尻明子の事が気になり居ても立っても居られない心持だった。
頭の中を整理したい紀子は、ふ、と普段人が少ない校舎の屋上へ行こうと思い、部室へ行くのを止め階段を登る事にする。
「変な事しゃべってねえだろうな?間山」
「大丈夫だと思う。戸浦に言われたように分からないって言い続けたから」
「じゃなかったら、こんなに早く学校来られていないか、はっはっは」
屋上から降りてくる二人の男子の片方がもう片方の肩を叩き、紀子の脇を通り過ぎていく。
最上階の踊り場に着いた紀子だが、男子たちの会話が引っ掛かり足音を消しながら二人の後を追う。
普段の紀子なら取るに足らない会話だが、うわさ話で明子には一人の文武大付属の男子が助手で付いていたという噂を聞いていた。これが紀子を尾行させるのには十分な情報だった。
怪しまれないように尾行をすると、二人の男子は図書室に入る。
紀子は少し考え、少し時間をおいて紀子も図書室に入る事にする。
入ると、カウンターで本を読む図書委員の女子とカウンターに近い円卓に男子の一人、もう一人の男子は本棚で本を探していた。
「間山君、大丈夫だった?」
「少し寒いところでしたが、思っていたほどひどいところではありませんでした」
「それはよかった。あれ?今日は図書室に居るの?」
本棚にいたもう一人の男子に図書委員が話しかけると、
「今日は特に外で調べることないから」
と、カウンターに近い円卓のもともと座っている間山という生徒の対角線上に座り、ノートを取り出してなにか書き写し始める。
紀子は、この図書委員含めなにかあるなと感じ、とことん尾行しようと決める。
紀子は前から気になっていた「渋谷・原宿カルチャーはどこから生まれるのか?」という硬い本を本棚から取ると、二つ離れた円卓へ三人が見えるように座り読み始める。
珍しく高梨黒と間山和仁以外に二人も本を読む人がいる図書室だったが、いつもと変わらず静かに時間は過ぎて行った。




