四話
(四)
池尻明子は動画を何度も確認し、盗撮された陸上グラウンドからも確認し、可能性を考え抜いた結果、一階が花屋の十三階建てのこのビルからの撮影しか考えられなかった。
ビル自体は二階から四階までテナントでそこから上は住居になっており、セキュリティ自体は四階まではフリーに入れる。しかし住居部へはエレベーターならカードキーが必要で、階段も同じようにカードキーで施錠された扉が付いていた。しかし、四階の階段の扉は乗り越えようと思えば、危険だが乗り越えられる作りになっている。
「終わったら上からエレベーターに乗るぶんにはそのまま降りて来られるから。屋上にあがったら気を付けてね。風が強くて危ないから。これが屋上に上がる為の南京錠の鍵ね。私たちもチェックするけど、施錠と鍵の返却は最後にお願いね」
花屋の女将でオーナー夫人にエレベーターのカードキーを解除してもらい、最上階に上がると明子と和仁は廊下の突き当りにある非常階段の扉を開ける。屋上へ上がる階段は鉄格子で囲われており、南京錠を開け格子の扉を開け屋上へ上がる。
今回和仁は明子の護衛兼荷物持ちだ。超望遠での撮影に明子の持っている一番重い三脚と焦点距離の稼げる望遠レンズ、その他もろもろの機材を合わせると五十キロ近い重さになっていた。
それを聞いたとき和仁は、”自分が四十キロ持つのかな”と思っていたが、「私が二十キロ分持つから。残り行けそう?」とスレンダーな明子からは想像できない力で荷物を持っていく姿に、和仁は驚かされる。
屋上に着いた明子は、
「和仁君も一応ハーネス付けておいて。撮影で和仁君にもロープに吊られてもらうかもだから。付け終わったら機材を広げといてもらっていいかな」
と言うと、腰に登山用のハーネスを手早く付け、屋上を歩き回る。今日は制服ではなく動きやすい黒のチノパンにロングTシャツを着ている。
普段の生徒会室でのセクシー担当は鳴りを潜め、きびきびと動く明子を見た和仁は、
(明子さんの本当の姿はこれなのかもしれないな)
と思う。
屋上はエレベーター機関室を真ん中に、ぐるりと幅五メートルほどの屋上下層部。東西のエレベーター機関室の壁面に携帯アンテナの柱が取り付けられ、十五メートル上の機関室屋上面にアンテナから電波を飛ばす為の機器が並んでいる。
明子は肩からスポッティングスコープを下げ、陸上グラウンド側の屋上下層部からどの角度からグラウンドを撮ったかを探し出す。
「違う」
下層部からの撮影の角度では動画の角度で撮影できない事を確認した明子は、機関室上へ登るか悩むが、
(登らなければ分からない。やって見なきゃわからない)
心の真実を知りたいという信条から、下層部の角度では上に登っても動画は撮れない事が予想できても、確かめる事を怠ってはならないという行動原理に従う事にする。
「和仁君、そっちの面の角に三脚用意しといて。レンズは私が出すから三脚の近くまで持っていってくれればいいから」
機関室上での確認を終え、機関室上から降りながら和仁に指示を出すと、一番動画に近い形で映像を撮れる場所で撮影をしてみる事にする。
重いビデオカメラにも対応できる鉄製の古く重い三脚を設置し、海外旅行に使うようなキャリーバッグの中からバカでかいレンズとカメラを取り出し、レンズを三脚にセットする。ここまで大きいレンズではカメラ本体は小さく見えてしまうが、カメラも十分に大きい。
「これは、なんですか?」
カメラより大きいレンズに付くごついカメラに圧倒され、自分の中の一眼レフカメラの概念がおかしくなってしまった和仁は、これがカメラなのかを確認してしまう。
「この距離で動画を撮るとなったら、こんなのが必要なのよ。もし私が襲われてもレンズとカメラを守ってね。このレンズ、おじいちゃんのなのだけどもし割ったら、私はおじいちゃんに殺されちゃうからレンズを守らなきゃ私を守れないからね」
そう言うと、少し首をかしげながら和仁に明子はウィンクを飛ばす。
「わ、分かりました・・・」
明子のテスト撮影の助手として付いてきて初めてのセクシー要素だったが、想像もつかないカメラとレンズの価値のまえにセクシーを感じる余裕はなく、自分は周りを見る事と明子の言うことをしっかり聞こうと和仁は心に決める。
「じゃ、やるだけやりますか」
そう言うと、明子はカメラの設定をいじり撮影、設定をいじり撮影を繰り返し始める。
和仁は荷物が風に飛ばされないか、なにか飛んでくるものは無いか、など周りを警戒する。
ふと動くものが目の端に感じた和仁はその方を見てみると、携帯電話の筒状のアンテナの上にカラスが止まっていて、首をせわしなく動かし和仁のように周囲を監視していた。
「お前たち!何をやっているんだ‼さては文武大付属を盗撮しているな!」
カラスが声で飛び立ち、明子と和仁は屋上に躍り上がってきた男を見る。
教職員調査委員会の鳴村英語教師だった。
「お前たちはもう逃げられない!大人しく学校まで来てもらう!警察を交えて今回盗撮に至ったいきさつを話してもらうぞ!」
その言葉を待っていたように、十数人のヘッドギアを付けたラガーマンたちが鍛え上がられた筋肉を揺らしながら屋上に登って来ていた。
多忙につき更新頻度がかなり落ちると思われます。
どうかご容赦を。




