三話
(三)
一三階建てのビルの一階の花屋へ、生徒会長田沼興三郎と図書室詰め学警部部長間山和仁が訪ねていた。
「あら、あたしの所にも挨拶に来てくれたの?主人から聞いているわ。頑張ってね。今日は屋上に上がるの?」
「いえ、実際にテストの撮影は日を改めさせていただきます。その時はこの間山和仁君と、池尻明子という女子生徒がカメラと機材をもって来ます。どうかよろしくお願いします」
合わせて和仁も、
「よろしくお願いします」
と頭を下げる。
「あら、生徒会長さんとその手伝いをする生徒さんともなると、言葉遣いもしっかりしててすごいわねえ。いつでも連絡してきてちょうだいね」
「ありがとうございます。失礼いたしました」
今までにかかった手間の大変さをおくびにも出さず、興三郎は花屋の女将さんでありビルのオーナーの奥さんへさわやかに挨拶を済ませるとビルを後にする。
例の盗撮場所として三春と明子が目星を付けたビルは、オーナーの希望で不動産屋を通さなければ手紙一つ受け取らないと、ポストに掲示されている建物だった。
オーナーの機嫌を損ねては、もう屋上からの試写は出来なくなってしまう。
慎重に手順を踏むことを選んだ会長は不動産屋に連絡する。しかしこの不動産屋というのが厄介で、興三郎はアポイントメントを取っているにもかかわらず一回目は上の者が居ないからと帰され、二回目は不動産屋の支店長が対応したが書類だけでは信じられないからと教職員の同行を求められ帰され、三回目に教職員調査委員で英語教師の鳴村先生と一緒に説明に行き、やっとビルのオーナーへ話が行くことになる。
さて、オーナーとの交渉だが、ビルの最上階のオーナー宅へ緊張しながらお邪魔した興三郎と和仁は、逆にすんなり行き過ぎてしまい拍子抜けしてしまう。
「そういう事なら協力するよ。直接手紙を投函してくれればよかったのに。さあ、お茶でも飲んで」
これである。
しかし今回のいきさつを伝えるにつけオーナーも人の親という事もあり、
「うちの屋上は携帯電話のアンテナが設置されているから、柵があって簡単には入れないようになっているのだけどね。ぜひ君たちにしっかり調べてもらって、うちから盗撮が可能なのが分かったら、警察にも相談して対策を考えさせてもらうよ」
と、全面協力してもらう事を取り付けられたのだった。
「間山君は落ち着くなあ。今日は助かったよ」
「会長がはじめ厳しい交渉になるからというので、口下手な自分には何ができるのかと気が気ではありませんでした」
「そうじゃないんだよ。僕もね色々あるんだよ。間山君は高梨君とは何か話しをしたりするのかな?」
「あ、いや・・・」
和仁は、初夏を迎え図書室で本を読んでいるだけでも暑さを感じ、少し汗ばむ首元を窓からの風が心地よく熱を拭っていく風に心を奪われ視線を外へ向けた後、それを戻すとそこには同じようにうっすら汗ばむ肌に風を受け気持ちよさそうに黒く長い美しい髪を風になびかせながら外を見る高梨黒の横顔を思い出し、胸が締め付けられ言葉を詰まらせる。
「・・・その、あまり話はしません。ただ・・・」
「ただ?」
「あ、いや。何でもありません。高梨さんは静かな人だなと思います」
「そうか、彼女は読書への集中力がすごいからね」
「はい」
そこから学校までの帰り道は確認の会話を二、三話しただけで、「それでは」と玄関で二人は分かれる。
(池尻君の気持ちが少しわかったってしまった気がするなあ)
生徒会室へ行く階段を登りながら、図書室での何かを思い出し言葉に詰まる和仁を思い出し、困る和仁にすこしの優越感を覚えた興三郎はほくそ笑んでいた。
それはさておき、興三郎は今の状況を鑑みてほんの小さいものだったが、違和感を覚えていた。
戸浦守人からの報告から一週間、生徒会員の近藤一、沖村平治の報告で、最近生徒の間で盗撮動画の噂が広まりつつあることを聞いていた。
守人からの連絡はものすごく早いものだったが、その一日あとの教職員からの依頼もものすごく早いものだと思えた。
守人のそれは引きこもりの友達がネットで偶然見つけたものだと聞いて違和感を覚えなかったが、教職員調査委員会の依頼に関しては動きがあまりに早すぎではないかと思えた。教職員調査委員会と冠する組織が、なにかの協議や決定をするのには普通ならばもっと時間のかかるものだと興三郎には思えた。
海外ポルノサイトに動画が投稿されたのは、守人から報告を受ける二日前だった。
それから、教職員調査委員会が申請して動画を消したのか分からないが、アップロードから三日もせずに動画は消されている。
「会長、お帰りなさい。交渉は大丈夫でした?」
声のする方を見ると、生徒会室のある階の階段を上がったところの壁に、肩を預けながら足をクロスさせ背中で手を組み興三郎に体のラインをすっきり見せるように計算して立っている池尻明子がいた。
「う、うん。すんなりいってしまって拍子抜け・・・」
興三郎が階段を登りきると、明子は壁から肩を離し後ろ手のまま少しかがみ、上目で興三郎を見つめたままぴょこんと小さく飛びながらクロスした足を直し興三郎の少し後ろに付いて歩く。
「だっ・・・たよ」
「そうですか、それはなによりです」
なんてあざとい動きなんだろうと興三郎は思うが、スレンダー美女からは想像できないキュートな動作になんてかわいいのだろうとも思っていた。




