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竜神流柔術稽古禄  作者: あいき 文・書き物店
長編 「利用された池尻明子」
33/66

二話

 (二)

 「最初にこれを見て欲しいんだ」

 生徒会室に呼ばれた池尻明子は、挨拶もそこそこに生徒会長の田沼興三郎から隣へ座るよううながされると、パソコンの画面を向けられ動画を見せらせる。動画は海外のポルノサイトの検索から始まり、サイト内検索ワードへ“陸上女子 短距離”と打ち込まれ一つの動画が選ばれ流れ始める。

 「サイト上の動画はもう消されていて、これはその動画が見れた時の録画だね」

 「会長もこういうの見るんですね」

 「か、勘違いしないでくれたまえ!普段はこんなサイトなんて見ないよ」

 「じゃあ普段じゃなければ見るんですか?」

 「それは・・・」

 隣に座る明子が体のラインが綺麗に見えるように興三郎へ斜に向くと、興三郎はばつが悪そうに視線と態勢を変え、

 「あまり、からかわないでくれ」

 と、明子を舐め回すように見たい欲求を抑えるために、手元の資料へ目を走らせ始める。

 明子はあえて自分の身体が一番セクシーに見える角度を維持しながら興三郎をゆっくり見つめ、姿勢を画面に戻す時もゆっくりと、いやらしく戻していく。

 美容の記事で、“人の心は動作でも美しさを感じる”という特集を書くため日頃の生活に意識し取り入れるようになったものだが、姿勢、仕草、美しい体を見せる為の本を三冊ほど読み、半年も続けていると最初にあった違和感も消え、堂に入ったものになっていた。

 人の心に届く記事を目指す明子の、実践無くして感想無しの精神と、器量の良さのなせる業だろう。

 合わせて綺麗な目鼻立ちに清楚な制服の着こなしからは想像できないセクシーな所作のギャップにドキッとしない男は居ないだろう。

 隙あらば明子は興三郎にこんなちょっかいを出すのが好きだった。内心おろおろする会長を見るとかわいいと思っていた。

 「これ、うちの陸上部の女子たちじゃないですか」

 ちょっとした楽しみを堪能した明子は、気持ちを切り替え会長が自分を呼んだ意味を動画を見ながら考える。

 「池尻君にはこれと同じ動画を取ってほしいんだ。飯島君の事件で活躍してくれた間山君は分かるかな?柔術使いの。彼の友達でよく学校やそれに関係する情報を知らせてくれる戸浦守人君という子がいるのだけど、その子からこの動画の情報が知らされてね」

 興三郎が照れ隠しに読んでいた資料は関係のある資料だったようで、明子にいやらしい目で見ているように感じさせないよう、注意しながら興三郎がぎこちなく書類を手渡す。

 明子は満点の微笑で受け取るが、内心では会長の所作に興奮している。

 「え?これって教職員調査委員会って書いてありますけど」

 「戸浦君から情報を貰って次の日だったかな、先生方からもこの動画に対して調査してほしいって依頼があったんだ」

 陸上部女子の下腹部、ランニングシャツから見える鎖骨、走り躍動する脚の筋肉、この手の動画が好きな人間にはたまらない動画を見終えて、

 「私にこんな動画を撮らせて、どうするおつもりですか?」

 と、資料を興三郎へ返す明子は、体を興三郎へ向けながら足を組み“自分の脚はどうですか?”と言わんばかりに興三郎へセクシーを押し付ける。資料を渡す角度、体を向ける速度、足を組む動きに努めて普通を装ってきた興三郎でも、視線は足から膝、美しい脚、尻から脇腹、胸へのライン、肩から首そして綺麗な顔に目を這わさせざるをえなくさせられてしまい、生唾を飲み込んでしまう。

 「ちょっと!明子さんお兄ちゃんがおかしくなっちゃうから、セクシー攻撃やめてください」

 興三郎と明子が見ると、興三郎の妹の田沼三春が生徒会室に入って来ていた。

 「あら、私は会長に資料を返しただけよ。ね?会長」

 「あ、ああ」

 興三郎は少しの停止の後、ずれたメガネを戻し、

 「そ、そうだね。三春、周辺地図のコピーはとれたかい?」

 「お兄ちゃんが大きい紙でなんてわがまま言わなければ、職員室ので十分だったのに仕事増やさないでよ」

 「それって会長、私と二人っきりになりたかったってことですか?」

 「いや、それは、偶然で・・・」

 三春は軽蔑の目を、明子は恍惚な目で興三郎を見る。

 「と、とにかくだ。池尻君には撮影の知識を活かしてこの動画を撮るにはどうやったらいいかを考えて欲しいんだ。三春、地図を広げてくれ。動画の角度から映像が撮れそうな建物を探そう」

 「はい、はい」

 「はーい」

 ジト目で兄を嫌悪する少女と、会長の狼狽をたっぷり楽しみやる気一杯の新聞部兼生徒会書記のスレンダー美女は、地図と動画を交互に見ながら撮影場所の割り出しに係る。

 「陸上部の練習場所との関係でこの角度ね」

 「そうだね。この角度だと、このビルとこのビル、あとこのビルだね」

 「映像の角度的にかなり高い場所からの撮影と思えますので、このビルの中で一番高いビルが撮影場所かと思われますね」

 三春、会長、明子と見解を確認した後、三人は生徒会室を出て実際に候補のビルがある方向が見える廊下の窓へ行き、眺めてみる。

 「ここからじゃあまり見えないね。文武大付属は広すぎる」

 「おかしいのよ。運動部がそれぞれ練習するための場所がある学校なんて」

 「それがわが校の特徴で強みだけどね。本来こんな仕事を生徒に任せる事もあり得ない事だけど、そこも文武大付属。生徒の能力が使えると思えば利用するのだろうね。この前池尻君がネットに挙げた震災地のその後を取材した写真を評価してくれている先生が居るってことだよ。さあ、そしたら、三春と池尻君はビルの近くに行って周辺と一番可能性が高いビルを決めて来てくれないか?僕はビルのオーナーに事の次第を伝える為の手紙を作っておくよ」

 「それでしたら、パソコンが得意な三春ちゃんにお願いして、私と行きませんか会長?」

 窓枠に手をつき夕日に照らされた細くしなやかな身体が美しく見えるように姿勢を作りながら言う明子を見て、体が直立で硬直してしまった会長が言葉に詰まっていると、

 「明子さん、行きますよ!」

 小学生にしか見えない三春の体からは想像できない力で明子の腕を取り、玄関へ向かう廊下を明子が引きずられて行く。

 興三郎へ笑顔で行ってきますと手を振る明子を、興三郎は直立不動なまま見送ることしかできなかった。

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