八話
(八)
守人が煮え湯を飲まされた事件の後、間山和仁、戸浦守人は生徒会長の田沼興三郎に生徒会室へ呼び出され、とりあえずの所、女友達の高梨黒、相川春香、含め四人に迫っていた危険は無くなったことが知らされる。
「昔、ある事件で虎男こと五島さんとは一緒に動いて解決したことがあるんだ。五島さんのしている事も噂では聞いていたのだけど、今回の事件はどうすることも出来なかった。二人と黒君と相川君には申し訳ない事をしてしまった」
そう言うと田沼は深く頭を下げた。
前のように図書室の事務室に四人は集まり、守人は黒と春香へ生徒会長からあった説明と謝罪のいきさつを話す。
「てことは、四人で帰る必要は無くなった訳か」
黒が言うと、
「やだよ~、私はみんなと帰りたいよ~、一人で帰るのなんて嫌だよお~」
と春香が言い出し、目に涙を溜めていた。
「春香ごめんね。みんなで帰ろ、ね?」
恐ろしい経験の後だった為か、黒の何気ない言葉での春香の反応に、黒は光の速さで前言を撤回する。
そんなわけで四人での下校は続いていた。
四人での下校は、まず路面電車の駅で家が学校に一番近い和仁と別れ、十数駅離れた三人が住む住宅街の最寄り駅で黒と別れ、家の近い守人と春香が最後まで一緒に居るという流れだ。
「守人くん、最近元気だね」
守人が和仁の実家の稽古場へ週に二回、通い出してから二週間たった日に、守人と二人になるとあまりしゃべらない春香が話しだす。
「ちょっと前は、顔にあざがあったりして元気なかったから心配だったんだよ~。守人くんは少しうざいくらいがいいなあ~」
「うざいって思われるのは嫌だなあ」
少し先を歩く守人努めて明るく答えるが、いつも朗らかにしている春香は実のところ繊細で周りの事をよく見ている事を知っている。
稽古での和仁の合理的な説明は、二週間のたった四回の稽古で守人の実力を飛躍的に伸ばすものだった。元々忍者の秘伝書や空手の教則本などで知識は入っていた守人なので、それと照らし合わされた内容は、砂に水が沁み込むように守人の体に馴染んでいった。
それに合わせて守人の心に自信が注がれ、自分を取り戻してきていた。
「でもね、私怖いんだよ。守人くんが変わっちゃって違う人になっちゃうんじゃないかって。私たちと一緒に居るんじゃなくて、違う世界に行っちゃうんじゃないかって。そんなこと思っちゃうだよ」
「春香は大げさなんだよ。良くも悪くも俺は好きにやるのはかわんねえよ」
守人は後ろから服を引かれたので見てみると、春香が守人の制服の端をつまんでいた。
中学の頃からお互いなんとなく気の合った守人と黒と春香だったが、守人が黒に感じていたものははっきりと友としての感情で、黒が美人であることは分かるが春香に抱いていた感情とはあきらかに違うものだった。
守人が抱く春香への思いは単純に好きというものでもなく、守りたいという気持ちが強く、一緒に居たいだったり付き合いたいというようなものとは少し違うものだった。
守人はこの自分の気持ちを上手くとらえられないでいた。
もちろん、最近急激に変化をしている守人を感じ取り、居なくならないでほしいと思い制服の端をつまむ春香を、「大丈夫だから」と言いながら抱きしめたい衝動に守人は駆られるが、中学の頃から帰る方向が一緒だった守人と春香は、春香が何か悲しい事や辛い事があると春香は守人の服の端をつまんで帰る事があった。
春香の気持ちを確認していないのに抱きしめる事は出来ない、と守人は衝動をぐっとこらえる。
今まで守人は祖父に仕込まれた忍術で、情報を集め“目潰し玉”で先手を取れば春香を、友達を守れると思っていた。
だが、空手家にのされ目の前で黒と春香がさらわれ、自分の考えが甘い事を痛感させられる。
「ありがとね。また明日学校で」
守人が先を歩くが春香の進む速さに合わせて、春香の家まで送った守人は「おう」と言うと、自分の家へ歩き出す。
事件からもうすぐ二か月経つが、春香は事件での体験が相当怖かったようで、今日のように不安定なところを見せる事がしばしばあった。
(もう一度柴田さんの拳を捌く稽古をしなくちゃならない・・・)
考えると腹の中がうねるような感覚になるが、思いは募っていた。




