ゴブリン
お楽しみいただければ幸いです。
俺は今、森の中の道を歩いている。転移した直後に発見した道を進んでいたら、森に入ったのである。どっちに進むかは適当に決めた。
食事の心配がいらなくなったので、町か村を探すことにしたのだ。
そして、さっきまでと俺の見た目は大きく変わっていた。パステルカラーのシャツに黒いズボンをはいている。そう、店の制服に着替えたのである。理由は2つ。スーツよりも動きやすいと思ったことと、替えがたくさんあったことだ。店の休憩室にはずらりと制服がサイズ別に並んでいた。いろんなサイズでそれぞれ10着ずつくらいあった。スーツは今や一点ものになってしまった。大事に扱わなくては。いざとなれば売れるかもしれんし。あ、理由2つじゃなかったな。ほかにもエプロンや帽子もあったが着てはいない。
「そろそろどっかにつかないかなー。ん?」
歩くのにちょっと飽きてきたころ、前方に人影が一つ見えた。
おお、ついに第一異世界人発見か? そう思い目を凝らす。……子供かな? 10歳くらいの身長だ。向こうもこちらに気づいたようだ。俺を見るなり走って来ているようだ。そこでようやく俺は気づいた。その人影が棍棒を持っていて、さらにその顔がとても人間とは思えない形相をしていることに。
「まさか、ゴブリン?」
そう、それはファンタジー界定番のゴブリンだった。ゲームならただの雑魚として扱われるが、実際にこちらに迫ってきているのを見るととても恐ろしい存在に感じる。
「に、にげるか? ……いや、遅いな?」
近づいてくるゴブリンを見ながら考える。最初に感じた恐ろしさはもうない。なぜなら、ゴブリンが接近してくるスピードがそんなに速くなかったからだ。
「身長と同じで年相応の身体能力って感じか? それならなんとかなるかな?」
襲ってくる、と聞くと怖く聞こえるかもしれないが、それが10歳の子供だったらどうだろうか? 大人であれば十分に対処できるのではないだろうか?
迎え撃つ覚悟を決めると、ついに至近距離まで近づいたゴブリンが棍棒を振り下ろす。俺はしっかりと動きを見て後ろに下がって躱す。やっぱりそんなに早くないな。続けて振るわれる棍棒をよけながら思う。
ただ当たれば痛いだろうし、あきらかにこちらに害意を持って攻撃してきているので、俺は遠慮なく全力で蹴りを入れる。ゴブリンの腹に当たって大きな音を立てる。ゴブリンは顔をゆがませて倒れた。すると、ポンっと音がしてゴブリンの姿が消えて、代わりに石のようなものが落ちていた。ゆっくりと近づき慎重に拾い上げた。
「これは、魔石ってやつか? モンスタードロップか」
どうやらこの世界ではモンスターはアイテムをドロップして消えるらしい。解体とかできる気がしなかったから助かるな。魔石はポケットに入れておこう。
しかし、なんかさっきの蹴りは想像以上に強かった気がする。明らかに骨が折れる音がしたし。異世界に来て身体が強化されたのか? ちょっと試してみるか。そこらへんに落ちていたちょっと大きめの石を拾う。軽く力を込めて投げてみる。……うん、たいして飛ばないな。同じ石を拾って今度は全力で投げてみる。……想定以上の距離に飛んで行った。
「力を込めたときに違和感があるな」
ゴブリンを蹴ったときには気づかなかったが今ははっきりと感じた。右手で握りこぶしを作って力を込める。筋力以外の力があるのがわかる。日本で生活していて感じたことのない感覚。これは……魔力?
「魔力で身体を強化してる……んだろうな」
やばいな。顔がにやけてしまう。異世界にきて初の実戦でいきなり魔力で身体強化。俺って才能の塊なのではないか?
魔力の操作を意識してできないか確認してみる。一度魔力があることを実感すればあとは簡単だった。足を強化してジャンプしてみる。3メートル以上の高さが出た。着地がちょっと怖かった。
鑑定で自分のステータスを見てみるが変化はなかった。身体強化が追加されてると思ったんだが。まあいいや。ゴブリンが出ても倒せることがわかったしどんどん進んでいこう。けどその前にそろそろメシにするか。
設定を考えていたらかなり時間が経っていました。