異世界転生
お楽しみいただければ幸いです。
「お疲れ様です。後はよろしくお願いします」
そう言ってバイトの女の子は店を出た。女子大生の笑顔は心に潤いをもたらしてくれるな。うん。
時刻は午後10時。労働基準法では深夜勤務に該当する時間となった。
だが残念なことに俺はまだ帰れない。……なぜなら俺は午前2時までのシフトだからだ。
俺が働いているファミレスは午前10時から午前2時まで営業している。そして俺は仕込みの為に開店30分前から店にいる。さらに明日も同じシフトが入っている。明後日もだ。
「……誰だこんな地獄のシフトを組んだのは」
……俺です。だって店長俺だもん。
だがこのシフトは決して俺のせいではない。人手が足りていないせいだ。そして人手が足りないのに時給を上げない本社の連中のせいだ。自転車で5分もあればたどり着く牛丼チェーン店の時給より100円以上安いんだぞ! そりゃ応募来ねぇよ!!
……さっき帰った女子大生のようにたまに応募がくるが、おそらく近隣の求人情報をきちんと調べていないのだろう。俺なら絶対牛丼屋で働く。情報格差社会とは恐ろしいぜ。ちなみに牛丼屋の時給の話は従業員には絶対に伝えるつもりはない。絶対にだ。
「あー今日も疲れたーっ」
仕事を終え駐車場に停めていた車の中でそう声を出す。時刻は2時15分だ。帰りつく頃には2時半を過ぎているだろう。
「さっさと帰って寝よ」
そう言いながら車を発進させる。
一人暮らしのアパートに帰り着いたとたん猛烈な眠気が襲ってきた。風呂に入ってから寝るつもりだったが、まあ朝入ればいいかと思いベッドに倒れこんだ。アラームをセットしていないことを思いだすが体に力が入らず瞼も上がらない。そういえばスーツも着たままだ。
あれ?
これなんかまずくね?
ほんとにただの眠気なのだろうか?
不安がこみあげてくるがその思考すらも霞がかかったようにぼやけていく。……意識がなくなる直前、誰かに包み込まれるような感覚がした。
「おはようございます」
寝起きドッキリ風の小さな声で目が覚める。なんだか気分がすっきりしている。こんなに爽快感のある目覚めはいつ以来だろう。どれだけ寝たのだろうか。そこまで考えて寝る前にアラームをセットしていないことを思い出した。
「やばい、遅刻する!」
飛び起きて、とりあえず時間を確認しなければ、と携帯を探そうとしてようやく周囲の状況に気が付く。
何もない。何もない白い空間がどこまでも広がっている。
「ここはどこだ?……」
呆然としてつぶやいた俺に答えが返ってきた。
「あなたのために用意した空間です」
声のした方に目を向ける、と一人の男が立っていた。いや、ほんとに男か? 中性的な感じの顔だな。目を覚ますときに声をかけてきたのもこいつか? などと考えつつとりあえず状況を把握するために声をかける。
「あなたは?」
「私は、あなたの言葉を借りるなら神、という存在です」
いきなりぶっとんだ答えが返ってきた。だが、なぜかすんなりと受け入れられる。言葉に説得力があるというか言葉がしみ込んでくるというか、とにかくこいつ、いやこの方は神様的ななにかであるという確信が持てた。お前は誰だ? って聞き方をしなくてよかった。神様を怒らせるとおそらくやばいことになるだろう。
「そんなことで怒りはしませんよ」
笑顔でさらっと心を読むな。いや読まないでください。
「えーっと、とりあえずなぜ私がここにいるかを説明していただいてもよろしいですか?」
「はい。簡単に言いますと、あなたがお亡くなりになったからですね」
まじで?
あーでもこれもまたすぐ信じられるわ。神様ってすげぇな。
「ほめても大したものは出ませんよ」
ちょっとは出るんかい。……もう心を読まれるのは普通のことだと気にしないようにしよう。
「死んだ理由は?」
「過労です。あなたは住んでいた国が定めている過労死ラインを踏み越えていましたからね。順当な理由でしょう」
なるほど。考えてみれば死因は聞かなくても当たり前だったな。しかし死んじゃったか。痛い死に方じゃなかっただけラッキーだったと思うべきか? でももうちょい生きたかったなー。
「その願い、叶えましょう」
「え?」
「いえ、もともとそのつもりでこうして面会してるんですけどね」
まじか? つまり生き返れると? いくつかの球を集めた時のように?
「生き返るというか、別の世界で生きなおしてもらいます」
……あー、これ異世界転生ものだったんだ。
この時点で今まで書いた文章で一番長いです。
どこまで続くかわかりませんが、とりあえず次はある予定です。