最終話一つ手前:「初めて敵討ちを誓いました」
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久々に意識を持ちました。
随分、長いこと電源が切れていたようです。
今は昼間のようです。そして、森の中にいるようですね、今は。
私は、自分を持っている青年さんを見ます。
「こんにちは」
「おおおお、神様の御使い様がお目覚めになられた!!」
「電源ボタン押せば、起きますよ」
ああ、久しぶりのこのやりとり。毎回、初めての方とは、こういう会話してましたね。
自分の今の状態を見ます。
かなり、どろんこですね。もしかして、私、地面に埋まってました?……
ん?……
おかしいですね……
記憶があいまいです。
今の今まで、200年くらい、この世界にお世話になっていますが、初めての事態かも。
「おおお、おおお、母さんの遺言は本当だった!!」
青年さんが泣いています。感動している……のかな?
身なりは……決して裕福そうには見えませんね。
あー、うーんと、嫌な予感がしてきました。
「御使い様、どうかどうか、お力をお貸し下さい!」
なんだか、初めて神様と会話した時のことを思い出します。
すごく昔のことで、うろ覚えですけど。
あの時は、無茶振りで押し切られましたっけ。
「まあまあ、落ち着いて下さい。
すいません、私、久しぶりに目が覚めたものでして。
私は『スマートフォン』と申します。
まずは、あなたのお名前を聞ききしたいです」
「あ、はい。私の名は、ザケナーと申します」
「ザケナーさん、はい、えーと、性はなんとおっしゃいますか?」
「性?……」
「ファミリーネーム、苗字のことですね」
このへん、感覚で通じ合えるようにしてもらった神様には感謝ですね。
「あ……」
ん、ザケナーさんの表情が曇ります。
「持っていません。今の王国では、一般市民は、性を持つ事が禁じられているんです」
「何ですって!?」
思わず、私の声が強くなってしまいます。
え、嘘でしょ?
えーと、初代の『ドナール』さんのお孫さん、そう、『ガナール』さんの代に法整備したんですよ。
それからはずっと、どんな人だって性は持てたはずなのに。
私はそのへんの事情を聞いてみます。
ザケナーさんの回答は、私の想像外のお話でした。
残念ながら、今の国王は、私がお仕えした『ドナール』王家の方では無いとのこと。
『レイボー』さんという方が、25年前に起こしたクーデターにより……『ドナール』王家が滅んでしまったというお話でした。
そして、さらに王国北部のオーガ種族との長年続いた不戦条約も破棄して、オーガ種族も滅ぼしたとのこと。
その他色々、今までの国家の法律を変えまくり、自分の都合の良いようにしているらしいとのこと。
「そ、そんな、そんな……ああ、私とドナールさん達で作り上げてきたこの国が、そんな状態に……」
私は愕然としました。
私と、私の盟友達で作り上げてきた、積み上げてきた、この国が。
この国が、たった1人の人間の欲望のままになるなど!!
ああああ、ああああ、これは、この感情は初めてです。
言いようのない喪失感。
「今の国王は、色々なものを民衆から奪ったと聞いています。
民衆は、何も考えずに、税を納めていればいいんだと。
そういう世の中に、なってしまっているんです」
「一部の貴族達だけが裕福に暮らしていると?」
「……そうです」
「なら、国民の皆さんの暮らしは?」
聞きたくないけど、聞きます。
返答は予想通りでした。
くそったれですよ。
ええ、くそったれなんですよ!
くそったれの、くそったれの、くそったれすぎました。
あの話の通じない神様に無茶振りされて、最初は、気も乗らずにやって来た世界でしたよ。
でもですね、ドナールさんはね、人1倍、いいえ、人の何倍も他人を思いやる人だったんですよ。
だから、私自身が色々やれるわけじゃないですけど、一緒にやってきたんですよ。
色々大変でしたけど、少しずつ人間世界を広げてきたんですよ。
その後の、息子さんもお孫さんも、それぞれの代の方達も。
それぞれ違いはありましたけど、みんなで平和な世の中にしていこうと、少しずつでもいいから良くしていこうと努力してたんですよ。
それが、その努力が、その想いが消されるなんて、我慢出来ない……
あああ、もし私がスマートフォンでなければ、号泣していたでしょう。
その後、ザケナーさんのお家に行き、色々とお話を聞いて、現状をさらに確認します。
税金が払えないばかりに、ザケナーさんの想い人は、貴族の家に拉致されてしまったそうです。
当時、狩りに出かけていたザケナーさんは、ひどく後悔したそうです。
今も、その想い人の方が生きているという保障は、残念ながら、どこにもありません。
お母様の遺言を頼りに、最後の希望として、私の存在を信じて、私を掘り起こしてくれたそうです。
ザケナーさんは、私が最後に仕えた『イビール』さんの息子さんに当たります。
危機管理は、それなりに出来てた人だったんですけどねー。
相手がそれ以上に、上手だった、ということでしょうか。
あとは……
『イビール』さん、女性遊びが好きでしたからねー。
『城に妾さんは置かないように』と、何度もたしなめましたが、こんなことで繋がるとは思いませんでしたよ。
その妾の方が、ザケナーさんのお母様になりますね。
ザケナーさんがお聞きしたお話を要約すると、『イビール』さんが彼女を逃がす時に、私を託したらしいです。
その後、私を森の中に埋めて隠していたそうです。
充電が切れ、電源も切れていた状態から、私を起こせるのは血族の方のみです。
ザケナーさんが、『ドナール』王家の生き残りであることを、明確に伝えました。
私の腹は決まっていましたが、決定するのは私ではありません。
私は問いました。
「もしあなたが、今の王政を打倒するというのなら、尽力いたしましょう。
ですが、そのためには、多くの人間の犠牲が必要になります。
また、長い時間も必要になるでしょう。
血が流れるのは、絶対の絶対です。
それでも、あなたはやりますか?」
ザケナーさんは、即答……出来ませんでした。
なんだか『らしい」と思ってしまいました。
2日ほど時間流れた後、ザケナーさんから、お返事をいただきました。
それが、私が始めて敵討ちを誓った瞬間でした。