第2話:電波状況は論外です! 論外!
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突然、世界が変わりました。
空中に投げ出されて、自由落下する感覚。
感覚? じゃないです、落ちてます!
ん、ああ。落ちてますね、なんか空から落ちてますよ、これ。
ああああ、うそおおおお。
落ーちーてーるー!
ガッキーン!!
あ、痛い!
って、痛くなかった。ん? でも、何かに激突しましたね。
新橋駅で壁に投げつけられた時より、もっとすごい衝撃みたいでしたけど、なんともありませんね。
「ぎゃああああああ!!」
あれ、なんか悲鳴聞こえます。
私は地面に落下して、地面しか見えません。
カメラが私の視界になるようですね。
……動けないですね。
そりゃ、スマートフォンだから、動けるわけないですよね……
神様と会話してた時は、ふわふわ浮いていて、自分である程度動けたんですけど。
現実って、甘くないですよね。
物的移動力が無い存在を、あの神様は何を思って転生させたんでしょうかね。
音は聞こえますね。
悲鳴は弱弱しくなっていて、ザシュって何か刺さった音がしたら、悲鳴はなくなりました。
しばし悩みます。
ん~、誰かに拾ってもらえないと、私、何も出来ません。
拾われても何が出来るかが疑問ですが。
あの神様の適当さにため息ばかりです。
「これが私の命を救ってくれたのか」
あれ、私、拾い上げてもらえましたね。
視界が拾ってもらった方の手になっています。
え、カメラ反転とか自分で出来ない?
「こんにちは。拾っていただいてありがとうございます」
「な、なんだ!? どこからか声が、でも誰もいないぞ!?」
私を持った方は、きょろきょろと辺りを見回したようですね。
そんな予感はしてたんですよ。
スマートフォンに話かけらたら、そういうリアクションになりますよね。
ん? これって、今後は誰とでも、こうなるわけですよね。
先が思いやられてしまいますね。
まあ、まずはともあれ、私を認識していただかなくては。
「すいません、驚かせてしまいましたが、手に持っている私が話しかけております。
今、手に持っておられるのが私です」
「え?……私?……」
「そうですそうです。ちなみに私のことを一回ひっくり返してもらっていいですか?」
なんとか伝わったかな?
恐る恐る私を両の手で、ひっくり返してくれました。
おおー、これで、私を持った方を見れます。
私を持っている方の格好は、俗に言う皮鎧にように思えます。
中世なんでしょうかねー、定番の。
金髪で碧眼で、ガタイはどっしりめでイケメンですね。
イケメンです。
2回言うなって突っ込まれそうですけど、大事です、見た目。
あと、気付きました。
声も良いですね。
お声も良い。
お年は20代前半くらいでしょうか?
「こんにちは。はじめまして、私は『スマートフォン』と申します。
拾っていただいて、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ。
あなたは、意志をお持ちなのですね。
高名な魔道具なのでしょうか?」
お、飲み込み早いですね。良いですね。
「そのようなものと思って下さい。
すいません、あなたのお名前、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。
はじめまして。
私は騎士団長の『ドナール』と申します」
とても爽やかな笑顔で挨拶していただけました。
さて、ドナールさんとお知り合いになりました。
状況を説明していただくと悪い魔法使いの方が、一部の地域を掌握してしまったそうです。
そのため、この国の騎士団員、ドナールさん達が討伐に向かったとのこと。
魔法使いさんとの戦闘発生。
攻撃魔法避けの魔石をそれなりの数を用意していたそうですが、全部使い切ってしまったそうです。
魔法使いさんは草原に逃げ込んで、ちょうどそこに私が落ちてきたそうです。
偶然ですね、偶然。
ドナールさんに向けて放たれた魔法を、私が『はじいた』というわけです。
いやー、神様の言っていた傷つかない身体になったのは、本当のようですね。
そして、ドナールさんは悪い魔法使いさんを、無事、討伐出来たというお話になります。
その後、騎士団の方々と、宿泊先に戻ります。
村長さんが用意していた、一軒家ですね。
さあ、皆さん、聞いて下さいよ。
電波状況、どうなっていると思います?
異世界に来てしまいましたけど、こういう場合って、電波が入って色々、機能が~~って思いますよね。
思いますよね。
さすがに、あの神様、適当すぎましたけど、実は電波は繋がってて、神様有能!!
とか、思いたくなりますよね。
なりますよね、はあああ。
……圏外でした。
…………圏外だったんです。
圏外だったんですよ!!
論外です。論外!!
シャレで言っているわけじゃないですから!!
ああ、もう、少しでも期待した私が馬鹿でした。
あの神様、何もしてくれませんでしたよ!
え、異世界でスマホ?
電波どうするんですか?
神様が中継?
そんなん出来るなら、もっと違うこと出来るでしょうが!?
異世界で、電波入るわけないでしょうが!!
電波って、電磁波のことですからね。
電磁波って、電界と磁界との変化で、波動イコールエネルギーとして、空間伝わるものですからね。
どうせ、現代人の方達だって、原理を理解している方、少ないはずですよ。
そんなもんですって。
魔法で代用?
人間が知覚できる周期になってないんだから、出来ますか!?
本当に!?
ぐおおおおおお。
かみさまああああ。
おかしい。
おかしいから。
あああ、もうううう、いやだああああ。
すいません、愚痴愚痴の嘆き嘆きです。
はああ、スマホだから、他人に私の感情が一切解らないのが救いですね。
持たれた時以外、私の思考って一切、外に出ないわけですから。
なんで、スマートフォンなのに、こんなとこいるんだろう。
……あの神様のやろう……って気になりますよ。
ご無礼……
その後、ドナールさんに充電のお願いをしたり、この世界のことを聞いたりします。
ドナールさんの魔力で充電が出来ました。そこは一安心です。
そして、思っていたよりも、文明レベルは低いような感じを受けます。
基本は『ザ・中世』なのは、確実みたいですけど。
でも、魔法というものは、かなり浸透していて、火をつけたりは子供でも出来るそうです。
放火は死罪になっているので、悪さをするお子さんは少ないみたいです。
というか、大体なにか悪いことすると、死罪らしいですね、この人間世界。
私のいた世界の昔も、そんなものでしたっけ?
あとは、貨幣に該当する魔法石があって、それを国が管理しているようです。
ん~、なんだかお国づくりのサポートとか、そういうのが私の仕事になるんでしょうかねー?
今後のことをそんなふうに思案します。
そして、私の呼び方について、ドナールさんとお話しました。
「では、スマートフォン殿」
「そうですね。あ、1つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「ん? どうぞ、気兼ねなく」
「『スマートフォン』では長いので、『スマホ』とお呼び下さい。
略称で呼ばれたいのですよ。
私は神様に言われて、この世界に来ましたが、何か出来るわけでもありません。
なので、気軽に呼ばれたいのです」
素直な気持ちをお伝えします。
少々、わがままめいているのは解るのですが、不思議なことにお願いしていまいます。
ドナールさんの、お人柄の良さが、そうさせてしまうのかもしれません。
「なるほど。お気持ち、お察ししました。では、『スマホ』殿」
「ん~、殿も、やめていただけると嬉しいです」
「おやおや、そうなのですか?
神の御使い殿が謙虚過ぎる気がしますが」
「建前でしょうが『謙虚さは美徳』と私がいた世界では、なっていました。
そのためでもないのですが、私は使われる身なので、殿呼ばわりは身に余ると考えます。
なので……そうですね。『スマホさん』で呼んでいただきたいです」
ドナールさんは、あごに手をあてて、少々、考えております。
「解りました。
これからは、スマホさんとお呼びします。
それで、よろしいですね」
「そうですね。ありがとうございます」
「では、私から1つ、提案があります」
「なんでしょうか?」
提案?
要望でしょうかね?
充電するのが疲れるから、頻度の相談でしょうか?
「私と友達になっていだたけますでしょうか?
神の御使いの職務など、そういうことは全て置いておいて」
……
…………
びっくりです。
すごいイケメンのスマイルです。
いやー、唖然としましたね。
え?
私、ただのスマホですよ??
それなのに、友達?
あ、やばい。
私に涙を流す機能があったら、今、たぶん、泣いていますよ。
「えーとですね、ドナールさん。
お言葉は嬉しいのですが、この知り合って間もない相手に、その様におっしゃるのはどうかと思います」
「そうですか?」
「ええ、そうです。私が本当に、あなたの役に立つかもわかりませんし、私が悪い性格で、あなたを貶めようとしているかもしれないんですよ?」
「ほう、そのようなことは、思い付きませんでしたね」
あー、ドナールさん、朗らかに笑ってますよ。
この方、やっぱり、お人好しみたいですね。
「私はあなたを悪い方とは思えません。
第一、あなたは私の命の恩人です。
命の恩人と、友達になりたいと思うのは、それほどおかしなお話でもないとは思います。
なっていただけますか?」
あ、気付いてしまいました。この方、お人好しですけど、強引ですよ。強引。
しばし、私は考えてしまいます。
まだ、初日ですよ。
前の世界で『求められたい』という願望は……ありましたよ、認めます。
スマートフォントして生まれたのなら、人間の役に立ちたいと思うのは、自然な気がします。
自分の存在意義を確立したいのは、どんな存在も抱く願望な気がします。
まあ、気がするだけなので、なんともですけど。
「わかりました。
お友達になりましょう。
よろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ、是非」
ドナールさんの笑顔が眩しいです。
私はドナールさんと『お友達』になりました。
悔しい話です。
私はこれだけで『転生して良かった』と思えてしまったのでした。
これから、もうちょっと量を減らして、次のお話を投稿しようと思っております。