第1話:我輩はスマートフォンである
我輩はスマートフォンである。
マニュアルはすでに無い。
「いや、どこかの作家様の真似して、どうしようというんでしょうか!」
私は、自分で自分に突っ込んでしまいました。
あ、こんにちは。
私は『スマートフォン』です。
まあ、モノが自我を持った、といったところでしょうか。
私自身も、今の状態に驚いております。
なぜ、こんな状態になったかというと、私に自我を与えてくださった方がいるからです。
「少しは落ち着いたかね?」
私は今、宙に浮いております。
常時、浮いていれば、向こうの世界でも楽だったんですけどね。
「どうも、神様。
なんとか現状を、受け入れようとしているところです」
私の目の前には、自分のことを『神様』とおっしゃる方がいらっしゃいます。
定番のように、木の杖を持って、白髪で『髪と髭の自己主張が激しい』容貌をしております。
「ちなみに、ここはどのような場所になるのでしょうか?
視界……と言うのも違和感がありますが、見渡す限り真っ白です」
「まあ、ここの空間に場所という概念はないよ。
我々が存在している、という概念しかないのでな。
時の概念もあいまいで、他の世界との時の流れとも隔絶されておるよ」
「はあ、そうなんですか」
んー、少しは神様っぽいお言葉を聴けました。
「で、なんで、私、こんなところに存在しているんですか?
私、持ち主に『電話のくせに、全然、声が聞こえねーんだよ!』って、新橋駅でぶん投げられて、壊れてしまったスマートフォンなのですが」
「ああ、それは言った通り、私が呼んだの。
今ね、私が管理している世界で、人間文明の状態が良くなくてさー。
救ってほしいのよね。
たぶん、すぐ滅びるってわけでもないんだけど、今のうちに手を打たないとダメだなーって思って。
ほら、君の世界で今はやってる『フロントローディング』ってやつだよ」
頭を抱えます。
現代社会でも、意味無く英単語使いたがる方ほど、無能な方比率が高かったような……
フロントローディング?
ビジネス用語? 作業の前倒しとか、そういう意味でしたっけ?
まあ、まず最大疑問を解決しませんと。
「えーと……救ってほしいですか?……」
「そそ、スマートフォンって、万能機なんでしょ?
それで、ちょちょちょって、うちの世界も救ってほしいんだよね」
フリーズしました。
フリーズです。いえ、真面目に。
えーと、スマートフォンに、世界を救ってほしいですって??
「すいません、ちょっと言っている意味、解らないです」
「えー? そう?
最近さー、神様の世界もね、法改正で『自分の代わりを立てるのは良し』になったんだよね。
もともと、直接、手を出すことが法律で禁止されてたからさー。
だから、みんな自分の代わりに、異世界人を送るようになったんだよねー。
それがさー、なんだかんだでうまくいってるみたいなんだよねー。
うらやましいじゃん。
そしたら、やっぱり同じようなことしたくなるのが、神様ゴコロってものだよね」
「……それでしたら、人間を呼べば、よろしいのでは?」
突っ込みどころ満載過ぎて、電池が発火しそうですが、そう返しました。
「あー、私ね、優秀じゃないから、人間呼べなかったのよ、ははは」
は?…………
あー、はい。スマートフォンも自我を持つと、『絶句』出来るんですね、初めて知りました。
知りたくなかった!
「えーと、人間を呼びたかったけど、呼べなかった。
だから、スマートフォンを呼んでみたら、呼べてしまった。
なので、今、私がここにいるということで、よろしいでしょうか?」
「そうそう、そうなの。うん、だから、よろしくね」
なにが『よろしくね』なんでしょうねー……あー、これ確定でダメですね。泣きたい。
「すいません、他を当たって下さい」
「ん? なんで?」
「私、前の持ち主がですね、アプリを一切入れない人だったんですよ」
「アプリ?」
「なので、出荷状態と同じなので、便利な機能はないんですよ」
「謙遜するなんて、君、良い人なんだね、安心したよ。よろしく」
「アプリの入ってないスマートフォンが、世界を救うなんて出来ませんって!
入ってたって、どうなるかわからないのに。
私の持ち主、スマートフォンに1年6ヵ月、一切アプリ入れなかった人だったんですってば!
なんでガラケーからスマートフォンに変えたんだろう?って、自分で振り返る人のスマホだったんですよ?」
「大丈夫大丈夫。君なら大丈夫だよ」
神様、あなたが『無茶振りするブラック上司』にしか見えないです。
大丈夫の根拠が、一切ないです。
「お願いです、私の話を聞いて下さい!」
「もちろん聞いてるよ。
君以外は、とんと呼べなくてさー。あははは。
あとね、あんまりにも転生させる神様が増えたから、『異世界転生法案』で、不幸な目にあった人しか転生させちゃダメって決まってるし」
「あー、もう。コンプライアンスで訴えたい!」
思わず叫びました。
「コンプライアンス?……食べ物?」
「法律遵守とか、そういう意味なんですけど」
「へー、そうなんだ。守ってる守ってる。だから君が呼ばれたわけだし」
うわー、軽い。本当に軽いですね。
「不幸な目にあった人、限定ですか……」
「ん~、結構あいまいだけどね」
「まあ、スマートフォンなのに、一切アプリを入れてもらえなかったっていうのは、存在意義の否定に近いですし……
不幸認定されるのは、認めたくないですけど、そうかもしれません」
「うん、そんな君も、異世界で幸せゲットだよ」
この神様、相手をいらつかせる天才ですか。
「あのですねー、神様……」
しょうがなく私は、アプリ等々の説明をもう一度してみました。
でも……でもですね、神様はやっぱり、全然、解ってくれませんでした。
数回ですねー、その後も、説明を繰り返したんですよ。
ええ、繰り返したんですよ。
本当ですよ?
返事は、ほとんど一緒でした。
返事がループするRPGじゃないんだから……泣けます、ほんと。
やっぱり、この神様、私のいた世界のこと、よく解ってない方です。
他会社が採用している案を、見よう見まねで採用してドハマリする会社と一緒ですよ。
「ちなみに充電とかどうするんですか?
転生先に電気なんてありませんよね?」
「ああ、活動エネルギーのこと?
大丈夫だよ、向こうの魔力でエネルギー補充出来るようになってるから。
向こうでね、王様になる予定の人のところに送るから。
その人の血族の魔力で補充出来るから」
出た。また突っ込みどころ満載。予定の人とか言ってるし。
「その人の血族?……」
「そだよ」
「それって、その人達が死んでしまったら、私、動けなくなるってことですよね?」
あ、神様が沈黙した。
今まで適当な返答しかしてなかった神様が。
「うん、そうだね。頑張って。その人達、守ればいいんだよ。出来る出来る」
だーかーらー、根拠の無い肯定は一体何なんですか、本当に、もう。
いけません。精神的に……自我があるから、精神があるとして、こほん、精神的に『まいって』しまいました。
これ、このまま続けたら『うつ』になりますよ、きっと。
「神様って言ってもね、万能じゃないからしょうがないよ。
私達は、宇宙そのものの概念とか精霊の上位種とか、そういうものだし。
君が見ている姿も、君自身がイメージした姿になっているだけだからね」
「あー、そうなんですね」
「そうそう、色々、気にしてはいけないんだよ」
「人間は見た目8割って、言うそうですけどね。私は、スマートフォンですけど」
「へー、そうなんだー」
嫌味を言っても、まったく気付いてくれません。
「君を持った人間とだけ会話が出来るから。
あと、意志の疎通は出来るよ。どんな種族ともね。
君の世界の言葉も、なんとなく通じるようにしてあげたから、大丈夫大丈夫」
うわー、今になって重要情報、出してきましたよ。
「会話が出来るのは、私を直接持った場合だけなのですか?」
「あー、え~っと、服越しとか、モノを介しても会話が出来るかも」
「ん?……それは、紐などを伝えば、糸電話のように会話が出来るということでしょうか?」
「あー、じゃないの? そうなんじゃん?」
て~き~と~ですね。ひどいテキトウな回答です。
「それから君の身体は、ドラゴンブレス食らっても、びくともしない身体にしといたから」
「……へ?……ドラゴンブレス??」
「水深たくさんに水没しても、魔剣バルムングで斬りつけられようが、傷つかない身体にしたから」
頭痛い。本当に頭痛い。
スマートフォンに物理的な頭は無いでしょうけど。
力入れるところ、色々と違うでしょうが!
あと、水深たくさんって何? この神様、数字言えないんですか?
「あと、私、君を送り出したら100年よりもっと眠るから。
君を呼び出すのに、随分と力使っちゃったからなんだ」
かああ、最後の最後まで、この神様ったら!
本当の全投げ案件ですよ、これ!!
かくして、根負けしてしまった私は、抵抗空しく、異世界に行く事になってしまいました。
「嘘だと言ってほしい。本当に……」
はじめて投稿しました。
知人との談笑で、
「スマートフォンが単体で異世界に行く話って見たこと無いよね?」
となりましたので、
書いてみました。