8.女神様と男神様
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【風花……風花……】
【……人の子よ……】
「う、う~ん……」
誰かが私の名前を呼んでいる……風花と……
【気が付きましたか?風花】
「あっ、ああ、女神様!……わたし、わたしっ……」
私の身体は、またもや宇宙空間に浮かんでいた。
目の前には、光り輝く女神リュミエール様と別な誰かがいる様だった……
そして、足元には地球とは別の、青く輝く惑星があった。
もしかして、この星がアルシオーネなのだろうか……
【落ち着いた様ね……風花、私に聞きたい事があるのでしょう?】
慈愛に満ちた表情で、リュミエール様が優しく声を掛けてきた。
「そ、そうです。リュミエール様、私の身体って……」
【説明が足りなかったわね……貴方を送るのに、丁度良い条件だったから間に合う様に、慌しかったのよね……】
「丁度よい条件……ですか?」
【そう、アルシオーネに……人間の住まう場所に、自然に入り込めたでしょう?】
「それは……そうかもですけど……危ない兵隊に捕まっちゃいましたよ」
アルシオーネに着いてすぐ、火事に巻き込まれて、兵隊に捕まって……平和な日本で生きてきた私には何が丁度よい条件だったのかまるで分からなかった。
【でも、助け手が現われて、保護されたでしょう?】
目の前の女神様は、思った通り上手くいったでしょう?と楽しそうに笑っていた……
「保護された先で、私が女神様の加護を持っている事と、ギフトを複数持っている事を話してしまいました……」
【相手を信用して話したのでしょう?良き者と出会えたようですね……誰に何を話すのか……全ては、貴方次第……貴方の好きなようにすれば良いのよ……】
女神様は、私が信用して話すのであれば、何をどう話そうと構わないと、おっしゃった。
「リュミエール様、私について……私の身体の事と、能力について、詳しく教えて下さい」
私が聞くと、女神様は私が理解できるように、丁寧に、詳細に説明してくれた。
女神様の説明によると私の身体は、十四歳の時まで逆行して再生されていた。十四歳にしたのは、損傷がひどかった事もあるが、私の身の安全の為にも未成年にしたかったそうだ。
未成年ならば孤児院に身を寄せる事も出来るし、性の対象にされる事も防げるだろうとの、女神様の心配りによるものだった。
能力については、前回の説明を基に、更にわかりやすく説明して下さった。
・ 翻訳能力……あらゆる言語を理解、話す事が出来る。
文字は読む事が出来るが、書く事は出来ない。
今後文字を勉強するにも、若返って良かったでしょう?と女神様がいい笑顔だった……
・ 鑑定能力……見た物・手に触れた物が何か識別できる。手に触れられない物、人に対しては、八割程度しか判別できない。練度を上げれば、鑑定できる物や割合が増える。
・ 作成能力……材料が有れば、大抵のものは作れる。
兵器(殺傷能力の高い物)は不可。動植物、生命ある物の作成、創造は出来ない。
どうしても創造したい物が出来たら、要相談ね……と、これまた女神様はイイ笑顔で言うのだった。
・ 検索能力……記憶の底から知識を呼びだす能力。パソコンやスマホで使用していた検索アプリの様に使える。しかも文字を入力するのではなく、思い浮かべたものが検索できるという……オッケー○○○○よりも、使いやすいかもしれない……
・ 治癒能力……怪我や病気を治す能力。練度によっても、私の気持ち、体力によっても、出来る事が変わるという。欠損部位を蘇らせる事や、死んだ物を生き返らせる事は出来ない……
あの、足を切断する寸前だった騎士さん……足を切る前でよかった。切った後だったら、治せなかったかもしれない……と、私が考えていると、女神様と一緒にいる誰かが話し掛けてきた。
【人の子よ……そうではない……】
「え?……っていうか、誰……」
治癒についてどういった事なのか確認していると、リュミエール様では無い誰かが、ふいに話し掛けてきた。
キョロキョロと辺りを見回す私を、リュミエール様が手招きしていた。
【風花、紹介するわね。私の旦那様……闇の男神グラディウスよ】
リュミエール様が私に、共にいた男神様、闇のグラディウス様を紹介して下さった。人嫌いで、前回は姿を隠していたのだという。
今回も、リュミエール様が紹介するまで、認識阻害の術を展開し、その姿を見る事が出来ない様にされていた。
【人嫌いっていうか、人見知りなのよ……うふふ……】
威厳溢れる光の女神様も、旦那様の前では可愛らしい女性の仕草をしていた。
【風花、切断されていても、失われていなければ治癒は可能だ。だが、風花の能力は万能ではない。風花が抱いている感情や、その時の風花自身の状態で、治癒能力に差異が生じるだろう……】
それってつまり、足を切断した後でも、切り取った足が有れば治せるけど、無かったら治せないってことかな……
それに、私が相手をどう思っているのか、私の体調が万全かによって、治癒能力に影響が出てしまうということだ。
治癒能力を均一に使う為には、鍛錬をしてレベルを上げ、平常心を保つ必要があるという……
普通の人として生きるのをやめ、聖女として生きるなら、
完全再生……失われた欠損部も再生出来る様になると言われた。
私は普通の人間をやめる気も、聖女になりたいと考えた事も無い……
お金に困らないで、楽しく自由に好きな事をして、いつかは好きな人と結ばれて、幸せに過ごせればいいのだ。
【そうね、風花はそれでいいのよ……自由に、そして世界に新しい風を吹かせてちょうだい……】
【風花には、我らが管理している世界……アルシオーネを進化……成長させて欲しいのだ】
女神様……それに男神様も……
世界に新しい風を……進化させてほしいと……って、イヤイヤ待って……そんな事言われても私に出来る事なんて……
狼狽えている私に、男神様が声を掛けてきた……
【風花……何も構えることは無い。好きな様に生きればそれで良い】
【そうよ、風花が好きな様にする事が、世界の為になるのだから……】
「グラディウス様、リュミエール様、そんな事で……それでいいのですか?私、好きな事しか……やりたい事しか、やりませんよ……」
二人の……二柱の神様を信じない訳じゃないけど、少し懐疑的な発言をしてしまった。だって、美味い話しには、裏があるっていうじゃない?タダより怖い物は無しっていうし……
そんな事を考えていたら、物凄い威圧感を感じた……
恐る恐る、二柱の神様を見て、すぐに後悔した。
私が目にしたのは、怖い顔で私を見ている男神様だった。
神様に謝罪をしなくては……息が詰まりそうだ……
その場に跪き、低く低く、床に着きそうな程頭を下げた。
私を威圧していた男神様が、何故か豪快に笑いだした……
【神を疑うとは……小さいのに、意外に豪胆な性格をしているな風花……気に入ったぞ】
闇の男神、グラディウス様はそう言うと、私に加護と、新たな能力を与えるので、欲しい能力はあるかと聞かれた。
私はラノベで異世界に転移した主人公が大抵は持っている便利な収納ボックスが使える能力と、身体を綺麗にする魔法が使えればいいな、と思った。
アルシオーネで会った人々が地球の歴史で、中世のヨーロッパみたいな感じだったからだ。キレイ好きの日本人としては、何日もお風呂が無い生活とか、トイレ事情とか、現代日本人にはキツイ……
せめて清浄して、きれいサッパリしたい……
そんな事を考えていたら、グラディウス様が『わかった』と言って頷いていた。
グラディウス様には、私の考えている事がわかるのだろうか?不思議に思っている私の頭の中で、『そうだ、風花の考えを読んだ』と、グラディウス様の声が聞こえた。
私の考えていた事、全部読まれてたの?恥かしい……
そう思っていると、今度は『全てでは無い、安心するが良い』と聞こえた。
イヤイヤ……ちっとも安心なんて、出来ません。
グラディウス様の端正なお顔を、ついついジト~っとした眼で見てしまった。
【風花、怒らないでやってほしい……私の旦那様は心配性なのだ……】
【風花の個人情報は漏らさない……けど、嫁は別……一心同体だから……】
「怒ってません……恥ずかしかっただけです……」
そう……私は怒ってはいない……それよりも、恥かしいのと、勝手な事を考えていた私に、気分を害されたりしていないか、不安になっただけだ。
それにしても、リュミエール様とグラディウス様、仲が良いのですね……一心同体だなんて、羨ましい……
私にも素敵な彼氏が出来るかな……結婚とか出産って、していいのかな……?
【風花、人である貴方は、恋をして伴侶を得て、子を為す事が出来るわ】
ウッ……リュミエール様も、私の考えている事がわかるのですね……そうだよね、女神様だもんねー。
『そうね。あと、この世界は今、地球の中世を参考にしているから風花が思っていた様な感じね。だから年月と時間の概念は、地球と同じよ。それと、元々の身体を再構築したから胸は……』と、頭の中でリュミエール様が話していた。
ついでに……という感じで、胸の大きさを大きく出来なかった事の説明までされてしまった。
頭を抱えようとした勢いで、バランスを崩した私は、アルシオーネに向かって落ちていった……
落ちていく途中で、『欲する物を手に入れる事が出来る能力を授けた』という、グラディウス様の声が頭の中に響いた。
私は「有難うございまーす」と叫んだ。
そして、アルシオーネの地に激突する寸前で、誰かの声が聞こえてきた……
******
「おい!しっかりしろ!」
ユサユサ……
ベチン、ベチン……
「ぅう~~ん……いた、いったぁ~いぃ……」
両頬に痛みを感じた私は、目覚めと同時に頬を手で撫でていた。
「お、……起きたか?びっくりしたぞ……急に叫び出すから……」
「んぁ?って、ライオンさん……?」
声のする方に顔を向けると、私を心配そうに見つめる隊長さんがいた。
それにしても、頬が痛い……
私が頬を擦っていると、今度はリカルドさんの声がした。
「可哀相に……痛がってるじゃないですか。女子供にも容赦ないんだから……」
リカルドさんは私の頬を撫でながら隊長を責め、それから爽やかな笑顔を浮かべると、こう言った。
「おはよう。少し早いけど、顔洗って身支度して……」
「ぁふぁ……おは、ようございまふ……」
まだ眠かった私は、あくび混じりで、挨拶を返してしまった。寝た気がしない……
神様とお話していたからだろうか……
簡易ベッドから起き上がって、用意された水で、顔を洗い、置いてあった布で顔を拭くと、着替えを渡された。
頭がまだぼーっとしていた私は、躊躇なくシャツを脱いだ。下着の上にタンクトップを着ていたので、人がいるという事をあまり気にしていなかった。
「ば、馬鹿か?お前は……いきなり脱ぐな!」
隊長さんが怒鳴って、終わったら声を掛ける様に言いながら、リカルドさんを連れて、天幕から出て行った。
意外に隊長さんって、恥かしがりやなのかな??タンクトップなんて下着じゃないし……
Tシャツと変わらない感覚だから、気にしていなかった。
流石にそれ以上、人前で脱ぐ事は無いけどね……
渡された着替えはごわついた手触りの質素な素材で出来たワンピースだった。試しに鑑定したら、アルシオーネの平民の女児の服、素材・綿と麻、と画面に出てきた。それからどうやって用意したのか、金髪のカツラもあった。カツラはちょっと怖いので、鑑定はしない方向で……
何故着替えと、カツラが必要かと言えば、昨日の話し合いで、包帯を換えたリ、治療した子供は男の子で、いつの間にかいなくなっていた……
何処から来たのか、何処へ行ったのか、誰も知らない……という設定で、私が直接関わった人達には対処する事になった。
そして私はと言えば、印象的な黒髪を隠し、風変わりだった恰好を、一般的な女の子らしい服に替えて、別人に見える様に変装するのだ。
足元まで隠れる長い丈のワンピースは、気を付けないと裾を踏んで躓いてしまいそうだ。(いや、これフラグ立ててない……?)
歩く時は、注意しないといけないな……そう思うと、溜め息が出た。
脱いだ服を、収納ボックスが使えるか試しに使って見る事にした。何も無い空間を触るようにして、扉を開けている所を想像すると、その中に畳んだ洋服を仕舞うのを想像した。手に持っていた服は、空間に吸い込まれる様に消えた。取り出す練習もして、問題なく収納ボックスが使える事を確認した。
着替えが終わったので、天幕の外に声を掛けた。
中に入って来たリカルドさんが、可愛いと言って褒めてくれた。ライオン隊長は、手で口元を抑え、肩を震わせて唸っていた……金髪に黒い目って、違和感あるよね……だから見た目が可笑しいのかな?
そう勘違いした私は目の部分に包帯をして、眼を怪我した女の子に変装すれば、いいのでは?と提案した。目が見えなくて危ないから、常に誰かが側で、様子を見ていても、不自然じゃなくなるし、中々いい考えだと思った。
隊長さんも同じように思ったのか、すぐにカーディナルさんを呼んで、私は目を怪我した可哀相な女の子に変身した。どうせなら、片目だけにして、私の右目が!とかやってみたかったな……というのはナイショだ。
カーディナルさんに手を引かれて、怪我人用の荷馬車に乗せられた。目が見えない私に、保存食の堅いパンを手渡すと、次の目的地ローシェンで昼食が取れるから、それまでパンをかじって我慢してねと、言われた。
朝食代わりの硬いパンを、それだけで咀嚼するのは、大変だった。うっかりすると、喉につかえてしまいそうだった。
私が荷馬車に乗せられて、三十分程過ぎた頃、ガタゴトと、荷馬車が動き出した。初めて乗る荷馬車の振動は、想像を超えていた。
何かクッション的な物は無いのだろうか?目が見えない私は、手探りで何か無いか探してみたが、何も見つけられなかった。
私が動いていたのがわかったのか、御者台にいたカーディナルさんが、声を掛けてきた。私は、荷馬車の振動が酷くて、酔いそうだと訴えた。
「わかりました。ちょっと待ってくださいね。」
そう言うと、カーディナルさんは御者台から荷馬車の中に移動してきた。そして、私の隣に腰を下ろすと、私を膝の上に乗せて抱きかかえてくれた。
う~ん……振動を直接感じ無くなったけど、膝クッション、硬いよ……
「どうです?前よりは良くなりましたか?」
「……はぁ……振動は少しは無くなりましたけど、緊張します」
既婚者とはいえ、男性に膝抱っこされて、緊張するなというのが、無理な話だ。
「ふふ……君みたいな可愛い子に意識されるなんて、私もまだまだ、捨てたものでは無い、のかな?……」
小さくても女の子ですねぇ。恥かしがるところが、何とも可愛いですね
カーディナルさん……何を言っているのでしょう?
は?もしや、ロリ?ロリなのか??睨みつけようとして、
包帯をしていて出来ない事を思い出した。私は腕を突っ張らせて、カーディナルさんから少しでも距離を取ろうとあがいた。
「ふふっ……可愛いですねぇ。それで、なぜ目に包帯をしようと思ったのですか?」
黒い眼に金髪が合わなくてライオン隊長が笑いを我慢していたから、とカーディナルさんに言うと、十歳程度の子供用のワンピースでも私には大きくて、それなのに二十一歳だと言っていた事を思い出して笑いを堪えていたそうだ……
「十歳ぐらいの子供服……」
そう言われれば鑑定には女児の服って説明があった……
項垂れた私に、カーディナルさんが話し掛けてきた。
「ふふふ……フーカ……女神様には会えましたか?」
「……」
「今なら、何を話しても他の人には聞こえませんよ。さぁ……話して?」
優しそうなお医者様って感じだったのに、カーディナルさんてば、意外に押しが強いなぁ……
少しだけなら、話してもいいかな……
私は女神様と話した事を、何をどう言うか……考えながら話し始めた。
「女神様に、会う事が出来ました……」
「そうですか……よかったですね。それで、女神様は何と言っていましたか?」
「女神様に聞いたら……わたし……十四歳でした」
昨日女神様に確認した私の年齢を、カーディナルさんに話すと、それを聞いたカーディナルさんは、私の事を抱きしめて言った。
「フーカ……十四歳で未成年なら、君には保護者が必要です。君さえ良ければ、私の娘になりませんか?」
何でこう……返答に困る事を、逃げられないこんな時に聞くかな……
カーディナルさんって、いい人そうに見せかけておいて、腹黒の策士だ……