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5.隊長さん……


ブックマーク、評価をいただき、

有難うございます。


 天幕の中は……修羅場でした……



 カーディナルさんの声がした天幕に入った私の目に入ってきたのは、膝から下の部分が骨と皮で、かろうじて繋がっている様な大怪我をして、喚いている騎士の姿だった。


大怪我をしているその騎士を、別の騎士が二人掛りで押さえていた。三人の前には、ライオンの様な風貌の……隊長さんが仁王立ちしていた。


 隊長さんは、その騎士に対して頭を下げている様だった……そして、大きな声を出していたのは大怪我をした騎士、その人だった。


 肝心のカーディナルさんは、何処にいるのだろう……

隊長さんの影になっていたカーディナルさんが手にしていた、長く……鋭利な刃物を見た私は、驚いて固まってしまった。


 

「すまない……だが、命を救うためだ。諦めてくれ!」


隊長さんが、大怪我をしている騎士に話していた。


「隊長、そんなこと言わんで下さい。足が……足が無かったら、騎士なんてもう、勤まりません……いっそ殺してください!!」


大怪我騎士の言葉に、カーディナルさんが怒鳴った。


「馬鹿言うんじゃない!!脚一本で命が助かるなら安いもんだ!」


「そんな事言ったって、騎士でいられなかったら俺は……

俺はもう……死んだ方がましです……」



 部外者だった私にも、何となーく状況が読めてきた……

足を切断してでも命を助けようとするカーディナルさんや隊長さんに、『騎士が出来なくなるから、切断するなら死んだほうがまし』って、怪我をした騎士さんは言いたいんだね……


 『死んだほうがまし』だなんて言葉、死んでみてから言ってよね……

今は生きてるけど、私一回死んでるんだからね……


『死んだほうがまし』だなんて言う大怪我騎士の言葉を聞いた私は、無性に腹が立って、ムカムカしていた。


隊長さんと大怪我騎士の間に、割り込む様に入り込んだ私は、大怪我騎士の頬を思いっきり平手打ちした。


騎士って生き物は、顔まで鍛えているのだろうか?打たれた騎士より、打った私の手の方がダメージが大きい……

手がジンジン痛い……



「フーカ?なにを……?」


 大怪我騎士を平手打ちした私に、隊長さんは目を剥き、憮然とした顔で私を見ていた。


「ッつ……いきなりなんだ!?誰だお前は?」


「うっさい!死んだほうがましだぁ?そんなの、一遍死んでから言ってみなさいよ!」


「……フーカ、死んだら言えないだろ……」


大怪我騎士に向けてタンカを切った私に隊長さんはボソッとツッコんでいた……


 隊長さんのツッコミをスルーした私は、大怪我騎士の、やっと繋がっている様な状態の足を、両手でくっつけるように押えた。それから、検索画面で人体の構造を出した。


正常な足の、筋肉、神経、骨、血管……全てが検索画面に出ている。映像と同じになる様に……怪我の無い状態になる様に……女神様に願いながら「治りますように」と、私は呟いていた……



「お、おい……何し、て……手元が光って……フーカの髪の毛が逆立っている……」


 大怪我騎士の足を押えたまま、身動きしない私を見て、隊長さんは呟いていた。大怪我騎士の足を押さえつけたままだった私は……不意に意識を手放したのだった。



 治癒の能力ちからを使って力付き、倒れていく風花の身体を、隊長が受け止めていた……



「あ、足が……足の怪我が治っている!!」


大怪我をしていた騎士の言葉に、カーディナルが動いた。


「確かに、千切れそうだった足がくっついていますね。指は動きますか?何か違和感は?」


カーディナルは怪我していた足の具合を、細かく尋ねながら確認していた。


「……信じられませんが、怪我など無かった様に、回復しています」


隊長はカーディナルの言葉を聞いて、その場にいた騎士達三人に命じた。


「今あった事……見た事は他言無用だ。誰にも、一言も漏らしてはならん」


 隊長は三人に向って、鬼気迫る表情で言い放った。

更に大怪我をしていた騎士に、包帯でもして怪我している振りをしている様にと命令していた。


意識の無い風花を抱きかかえて、隊長はカーディナルと共に三人の騎士を残して天幕を後にした……




 ******




 隊長は風花を抱きかかえて、上級騎士用の天幕にある簡易ベッドに、そっと下した。それから、後ろを付いてきたカーディナルと一緒に、今後の事を相談し始めた……


「隊長……彼女は何者なんですか?」


「俺にも、わからん……」


「俺にもわからん……って、貴方が連れてきたんでしょう?」


「あの娘……フーカを初めて見たのは、モンフォールの兵に捕まって、馬に乗せられていた時だ……随分小奇麗な小僧だと思ってな……」


隊長は風花を始めは男の子(こぞう)だと思っていたと、カーディナルに話した。


「ジャスティンが聞いた事には、親とは生き別れて、小さいのに働きに出ていたらしい。昨日までは店にいたのに、気が付いたらラッセンの倉庫にいたそうだ」


「彼女……フーカは、何処から来たのでしょう?名前も、着ている物も、ローゼンの物でも、フランクの物でもありませんし……何よりあの黒い髪……」


「まぁ、何にせよ、フーカが気が付いてからだな……」


「私は、気になる事が有るので失礼しますが、気が付いたフーカを、問い詰めるのは良くないですよ。隊長の様に強面な騎士に、追い詰められたら可哀相ですからね……では私はこれで……失礼しますよ」


そう言うと、カーディナルは天幕を後にした。後に残された隊長は、簡易ベッドで寝ているフーカを見つめたまま隣にある寝台が軋むほど、ドカッと腰を下ろした。


 風花が何者なのかは不明だが、野に放つ訳には行かない……辺境伯の……アルフレッド様のもとに連れて行くしかないと、隊長は決意するのだった。





 風花が意識を失くしてから、三十分程経っていた……

天幕の外から、誰かが声を掛けてきた。


「隊長、食事をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」


「ん?ああ、入れ……」


「失礼します」


そう言って食事を乗せたトレイを持って天幕に入って来たのは、ジャスティンだった。


「隊長、食事で……って、フーカ?え?何でフーカが隊長の天幕で……」


「あ~……ジャスティン、待て。お前が想像している様な事じゃないから……医療用天幕で倒れたから、連れてきただけだ……お前とは違う、変な誤解するな!」


「隊長……お前とは違うって……俺を何だと思ってるんですか?」


「う~ん……女ったらし……?」


「隊長までそんなこ……と……って、今の隊長じゃない……え?」


「フーカ?起きたのか?大丈夫か?」


 風花の声に、隊長は焦った様に、風花の体調を確認するのだった。何時の間に起きたのか、風花はベッドの上で静かに上半身を起こし、隊長と、ジャスティンの様子を見ていた。


風花は二人のやり取りから、ジャスティンはやっぱり女の敵だったんだ、私の考えは間違いじゃなかった……と、再確認したのだった。


はぁ……なんか疲れたなぁ……それに、とっても……

「あ~、お腹空いたぁ~……」


 風花は唐突に、凄まじい飢餓を感じていた。お腹が空いて、思わず……


ぐぐぅ~きゅるるるるる~


天幕の中に、派手にお腹の音が鳴り響いた……



「「ぶっ……くっ、くっ……あーはっはっはっは」」


隊長さんも、ジャスティンさんも、同じ様に噴き出して、大笑いを始めた。


 く……お腹が空いてるんだ……そんなに笑わなくてもいいじゃないか……



「くっくっく……良かったら、食うか?」


 笑いながら隊長さんは、自分用の食事がのったトレイを、私に差し出してくれた。

やったぁ……大笑いしてたけど、隊長さんてば優しぃ~。


私は有難く、その食事をいただくことにした。食べる前に、両手を合わせて、『いただきます』と言ってから、私は食べ始めた。


 食事は硬いパンと、野菜がたっぷりの、具だくさんなスープだった。空腹という名のスパイスのもと、残さずに全部平らげた……ゲフッ……

 

「ごちそうさまでした」


 食べ終わった私は、手を合わせて『ごちそうさま』をした。


「隊長さん、食事ありがとうございました。ご馳走様でした」


 私が食事のお礼を言うと、隊長さんは何か考え事をしていたのか、雑な返事を返した。ぬ……やっぱり女子供に対する態度がなってない……

ジャスティンさんと、足して二で割ったら丁度だったりして……


「フーカ……今なんか、失礼なこと考えたろ?」


「む……そんな事ないですよ。そんな事より隊長さん、食事を、有難うございました……美味しかったです」


「ああ……俺はレオン……レオンハルト・フォッカー、ダンガルディ守備隊の隊長をしている」


 ライオンみたいな風貌の隊長さんの名前は、獅子(レオン)……ライオンだった。う~ん、隊長さんに、丁寧な自己紹介をしてもらったのはいいのだけど、嫌な予感しかしないのは何故だろう……?



「フーカ……君について、教えてほしい。話してくれるね?」


隊長さん……レオンハルトさんは、ベッドに腰掛けていた私の正面に膝立ちして目線を合わせると、両肩を両手でがっちりと抑えてきた。


これ、ヤバイです……逃げられそうにありません。しかも、正面から直視すると、ものすごい迫力です。

強面ライオンの目力半端ないです……



何をどこまで話せばいいのやら……

あ~、誰か助けてぇ~……




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