35.風花のお願い
読みに来ていただいて有難うございます。
非公開状態にして、前話までの全てに修正をさせていただきました。
話の大筋には影響は無いので、読み返しは必須ではないです。
長く更新していなかった為、前回までの大まかなあらすじを簡単に載せました。
よろしくお願いいたします。
前回までのお話は……
カフェでバイト中に猫を助けた女子大生の風花は火事で意識を失くし、女神によって14歳の身体に再生され、女神が創った世界に落とされた。
複数のギフトを持つ風花は、戦場でダンガルディ守備隊の隊長レオンハルトに助けられ、辺境伯に保護される事となった。異世界から来た事はまだだれにも告げていなかった。
治癒の能力と他にも複数のギフトを持つ風花に守備隊の隊員や辺境伯アルフレッド達が癒され、辺境伯の姉アビゲイルに、娘の様に可愛がられるのだった。
笑う事の無かったアルフレッドも風花には心を開き、自分の感情を持て余す様になるのだった。
女子大生だった風花はその計算能力を買われ、午前は辺境伯補佐のコストナーの助手をするようになり、午後はアビゲイルの子供達と勉強するのだった。
風花はアルフレッドに厨房を使う許可を取り、手始めに大好きなプリンを作った。能力の一つ、検索で不可視のタブレットを使えば、うろ覚えのレシピや、調べたい事もネット検索の様に調べる事が出来るのだった。
風花はアビゲイルと医薬師カーディナルの子供達と交流し、遊ぶためにジェンガを作り、足が動かなかったマクシミリアンの歩行訓練の為に風花はトレーニングルーム(ジム)を作った。
完成したジムで風花はカーディナルとアルフレッドに、用具の使い方やストレッチの説明をするのだった。歩行訓練を兼ねて、アルフレッドに許可を取った風花は、ある願いを口にするのだった。
第三騎士団の錬金術師と、木工が出来る団員と話をしたい……風花のその願いに、アルフレッドはすぐに返事を返す事が出来なかった。
王都から来る騎士団……彼らの目から風花を隠したいからこそ、部屋から出ないようにと言い、一人にしない為に護衛を付ける事にしたというのに……いっそどこかへ閉じ込めて……俺以外誰も、見る事ないように隠して……いや、駄目だ……そんな事したら……
アルフレッドは目を伏せ腕を組むと、深く大きな溜息を吐いた。
「……マリーかアイシャと共に、決して一人では出歩かない様に……ランドルフ以外の護衛も守備隊から二人付けよう……その状態でなら、騎士団員と会う事を許そう」
どれだけ子ども扱いなの……過保護?
「あ、ありがとうございます。アルフレッド様」
「何だかわからないけど、許可してもらえて良かったね」
「はい。カーディナルさん」
「それで、マックスの足の事だけど……」
「訓練は明日から午前か午後に一日一回、少しずつ……マックスの様子を見ながらしたいと思います。カーディナルさんの都合はどうですか?一日の内、何時ぐらいだったら、無理なく出来ますか?」
「私の事など……マックスの為なら、何時だって……」
マクシミリアンが歩けるようになるなら、何を犠牲にしても構わないと思っているカーディナルだったが、風花の考え方は違っていた。
「カーディナルさん、マックスが歩けるようになるのが何時になるか……半年以上かかるかもしれないし、何年もかかるかもわかりません」
「何を?……フーカ、マックスは歩けないのか?歩けるようになると、言ったのは偽りだったのか?」
風花とカーディナルの話に、アルフレッドが口をはさんできた。
「いいえ、歩く事も、駆ける事も出来るようになります……時間はかかるでしょうけど……だから、毎日続けるためにも、普段の生活に、マックスの訓練が増えただけ……っていう感じにしないとダメなんです」
アルフレッドとカーディナルに、風花は説明を続けていた。
「マックスの為に何かを犠牲にするとかいう、考えは捨てて下さいね。マックスからしたら、負担に思う事はあっても、喜ぶことは無いと思うから……それに、マックスの今の生活も考えて、予定の無い時間に組み込むようにしないと、勉強とか、遊びの時間とか、食事もちゃんと取らないと……」
カーディナルは風花の言いたいことを理解したのか、一度頭を縦に振って頷くと、風花に話し掛けた。
「午前の……十一時からでどうだろうか?その時間ならば、昼の休みを失くすぐらいで支障が無いのだけど……」
「休憩はちゃんとして下さい!!」
風花は、変わらず自分を犠牲にしようとするカーディナルに声を大にして言うのだった。
アルフレッドは風花とカーディナルのやり取りに、随分と親しいのだな……と感じていた。
「私の手伝いは、御前十一時までで、終わらなければその時は午後にでも、フーカが良いと思うところまで、終わらせれば、構いませんよ。あ、急ぎの書類が有るときは仕上げるまでお願いしますね……」
執務室に戻らないアルフレッドを迎えに来ていたコストナーが、カーディナルと何かを約束している風花に向かって話し掛けていた。
「フーカ、コストナーの手伝いなんか、やらなくていいんだ……それよりも、」
アルフレッドが言い終わる前に、風花は自分の意思を告げるのだった。
「コストナーさんの、ボスの手伝いは私の仕事です。ちゃんとやりますから、取り上げないで下さい!」
コストナーの手伝いは、今の風花にとって唯一の収入源だった。自分の小遣いを自分で稼いでいた風花にとって、自由に使えるお金は必要不可欠なのだった。
「フーカ……コストナーの事が、そんなに大事か?」
だって、今のところ他に勤め先無いし……
「コストナーさんの手伝いは、大切です。無報酬じゃないし……働かざる者、食うべからずって、言うでしょう?」
「フーカ、お前が働く必要なんて……」
「ええ~?だって、お金無いし……」
「いくらだ?いくら欲しいんだ?何か欲しい物でもあるのか……?」
「欲しい物……今は無い……かなぁ……」
「ならば、フーカが働く事など必要無いではないか?」
「そんな……今は欲しい物、考えつかないけど、買いたい時に買えないのは……困るし……」
コストナーの手伝いをする事で、この世界で自分が必要とされている、と嬉しく思っていた風花は、アルフレッドの言葉に悲しくなるのだった。
「フーカ、欲しい物があったら言いなさい。私が何でも買ってあげますからね……」
「カーディナルさん……」
「デクスター、欲しい物を与えるだけでは、その子の為になりませんよ……」
「フン……子供を育てた事も無い貴方に言われた……」
「義兄上!それは……」
コストナーに言い返すカーディナルの言葉を、血相を変えてアルフレッドが断ち切った。
「アルフレッド様、私なら大丈夫ですよ……」
五年前、アルフレッドと婚約していた第三王女に置き去りにされた侍女と結婚したコストナーだったが、子宝に恵まれていなかった。
補佐官として忙しく働いている旦那様のルイス・コストナーが、“子供などその内出来るだろう”ぐらいに思っていても、家にいるお嫁さんにとっては、軽い気持ちで過ごせる事では無かった。
「あ゛~~っすまない……奥方には……」
「言いませんよ……私の奥方にはね」
「「「!」」」
黒いオーラを纏ったようなコストナーの微笑みに、カーディナルは勿論、アルフレッドと風花まで……ビクッとして姿勢を正すのだった。