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34.訓練開始前に……


読んでいただき

有難うございます。




 休憩もそこそこに、風花は完成したジムにアルフレッドを連れて行く事になった。


「っつ……仕事さえ無ければ私も……いやいや、力仕事はもう勘弁……可愛い助手の手助けはしたいですが、私に力仕事は向いていませんからね」


ランドルフが開けたドアから出て行く風花の耳に、コストナーのぼやく声が聞こえていた。


予定外に力仕事をさせられ、今日の分の仕事が終わっていないコストナー補佐官(ボス)の機嫌は良くなかった。

風花はあとで甘い物でも贈ろうと心のメモに記していた。


いつもの事なのか、アルフレッドは何も聞こえなかったように知らぬ顔で、風花の後に続いて執務室を後にした。



 ランドルフを先頭に風花とアルフレッド、アイシャがジムに着くと、扉の前には既に、カーディナルがマリーと一緒に風花を待っていた。



「フーカ、アビィは連れて来ていないのだけど……私だけでいいかな?」


「カーディナルさん、お呼びだてしてすいません。トレーニングルーム…ジムが出来たのでそれで……アビゲイル様に来ていただくのは、マクシミリアン君の訓練が始まってからで大丈夫です。カーディナルさんには訓練用具の使い方とか、ストレッチについての説明をしたいと思います」


「ジム…?が出来たら呼ぶように頼んでいたのは私ですよ、フーカ……それよりも、すとれっち……とは?」


「う~ん、言葉で説明するよりも、一緒にやってみたいと思います……」



 風花はカーディナルにアルフレッド、マリーとアイシャ、そしてランドルフと共に、完成したトレーニングルーム(ジム)の中に入った。



 部屋(ジム)の中に入ったアルフレッドは感嘆の声をあげていた。

剥きだしだった石の床は毛の短い絨毯で覆われ、壁には丸い的の様な物が掛けられていた。片隅には梯子の付いた収納棚があり、中には布団の様な物が置いてあり、見たことの無い、木で出来た()()()が置いてあった。


 風花は部屋に入るとすぐに、アイシャを連れて奥にある小部屋に入って行った。


 アルフレッドは部屋に置いてあるアレコレについて、風花に説明を求めようと、その姿を目で追っていた。


 カーディナルは部屋の中に設置してある見慣れない物を、興味深げに見ていた。好奇心に駆られ、なんちゃって、ステッパーに足を乗せ、体重移動(よろける)する度に勝手に足が動き、抜け出せなくなっていた。


カーディナルはステッパーから飛びのいた勢いで近くにあった椅子に座ると、前にあった板に足を乗せ、仕込んであったバネで脚が上下に動いていた。


 


 奥の小部屋に風花と共に入っていたアイシャが、カーディナルを呼びに来た。


アイシャに連れられて奥の小部屋に入ったカーディナルは、トレーニングウェアを着ている風花を見て驚いて声をあげてしまった。


「うあ゛…フーカ、なんて格好を……」


「え?Tシャツにトレパンだけど……何か?」


「何か?じゃないよ。アイシャ、フーカの()()を止めなかったのかい?」


「お止めしたのですが…はぁ……」


 羊毛と布類で作ったスウェット風ジャージ?ジャージ風スウェット?を風花はパジャマ用に二着だけ残して、後は学校指定の体操服の様なトレーニングウェア上下組とTシャツに作り変えていた。


 風花はカーディナルにTシャツとトレーニングウェアの上下を渡すと、ロッカーの使い方を説明した。


「脱いだ上着はコレ(ハンガー)にかけて、カギはベルトを手首に巻いて、カギを内側に挟んでね」


「この部屋も、フーカが改装を?」


 カーディナルの視線の先には、何という事でしょう……壁面には更衣室にある様な特大のロッカー、個別の着替えスペース、大容量の収納棚が設置されていた。


ドヤ顔できめた風花の頭の中では、某リフォーム番組の曲が流れていた。


 風花はカーディナルに渡したトレーニングウェアとTシャツについて説明していた。


「Tシャツは、ワンポイントのマークが付いている方が前です。此処から頭を出して、両側が腕を出す部分…着替えたらジムに来て下さいね」


そう言うと風花はアイシャと共に小部屋を出て、アルフレッド、マリーとランドルフのいる部屋(ジム)に戻った。


 アルフレッドは小部屋から出てきた風花の格好を見て、驚くと共に両手で目を覆うのだった。



 えぇ~?何でそんな反応?

風花はアルフレッドが何故目を覆うのか、わからなかった。


「フーカ……なんて格好を……何故下着姿で…」


「えぇ?下着?!……って、下着じゃないよ?」


「馬鹿な……体に密着して下着にしか見えない……上に羽織る物は?……何か無いのか?」


 アルフレッドは風花が着ている、ジャストサイズの白Tシャツを下着だと思い、目を覆って見ないようにしていたのだった。


「下着じゃないって言ってるのに……白Tなのが、ダメだったかな?ぅ~しょうがないなぁ……」


 風花は不満に思いながらも、トレーニングウェアの上をアイシャから受け取り、学校指定の体操服風の長袖ジャージをTシャツの上から被るのだった。


襟付きのVネックから頭を出し、視線を感じた風花が横目でアルフレッドを見ると、いつの間にか腕を組み憮然とした顔で此方を見ていた。


「……これで、いいですか?」


「……」


アルフレッドは風花の問い掛けに、ノーリアクションだった。


 口を開けて風花を見ていたランドルフは、マリーに睨まれ、黙ってジムの外に出て行った。




 ******




 風花とアルフレッドが無言で睨み合っていると、着替えを終えたカーディナルが、小部屋から出てきた。


着慣れない運動着に若干恥かしそうな様子が初々しい(かわいい)……本人が知ったら嫌がりそうな感想を風花は抱くのだった。



「私も着替えた方がいいのか?」


風花と同じ様な格好で出てきたカーディナルを見たアルフレッドがとんでもない事を言い出した。


「あ~アルフレッド様は着替えなくていいです……」


「な!どうしてだ?義兄上は風花と同じ物を着ているのに……?」


「アルフレッド様には別なお願いがありますから、そのままで、休憩コーナーで待機していて下さい」


「…別なお願い……わかった」


 アルフレッドは渋々ながらもテーブルが置いてある場所に移動し、大きなクッションに腰掛けた。


 風花はストレッチにも使えそうな大きなクッションを五個ほど作っていた。休憩するのに使ってもいいし、見学者が座るのにも良さそうだったからだ。


「カーディナルさんは、此方に来て下さい。んで、コレ(マット)を、此処に敷いてっと……」


 風花は棚の上からカントリードールを取ると、女の子をアイシャに渡し、自分は男の子の人形を手に取った。


「カーディナルさん、マットの上に座って下さい。体育座り…はわかんないよね…う~ん……あ、私と同じように、お願いします」


風花は先に敷いたマットの隣に、もう一枚マットを敷くと、ペタンとお尻をマットにつけて座っていた。


「カーディナルさんには、これから人形を使って説明する足の動きを、運動……えっと、訓練をする前にマックスにして欲しいんです」


 風花は人形をマットに寝かせると、自分は対面に跪いた。そして人形の足を使って、説明を始めた。


「マックスに、自分で足を動かしている事を意識させながら、声を掛けて下さいね」


風花は人形の足首を、掛け声を出しながら、前後に倒したり、回したりした。


「イッチニーサンシ、ゴーロック、シィチ、ハッチ、イッチニーィ、サーンシ、ゴーッロック、ヒッチハッチ……」


 風花には何でも無い、掛け声なのだがカーディナルにとっては聞いたことの無い呪文の様に聞こえていた。


「えーっと、カーディナルさんは人形と同じ動きをやってみて下さい」


人形を動かしている風花を見ているだけのカーディナルに風花が人形の動きを真似て動く様にと声を掛けた。


風花に言われたカーディナルはマットに寝そべり、人形の動きをなぞるように、足首を前後に動かしたり、回したりしていた。


 隣のマットで足首を動かしているカーディナルを見た風花は、なんか違う……と思っていた。


 う〜ん……あっ!そうだ、いい事、考えた!

風花は立ち上がると、自分とカーディナルを見ているアルフレッドを振り返り、ニンマリと悪い笑顔を浮かべた。


 アルフレッドは風花に笑いかけられ、訝しんだ。



「アイシャ、アルフレッド様にも着替えをしてもらって……紺色の上下ならサイズも合うと思うから、お願いね」


「は、はい、フーカ様」


「アルフレッド様、先程は必要ないと言いましたが、私が間違ってました。必要になったので、奥で運動着(トレーニングウェア)に着替えて来て下さい。お願いします」


「あ、ああ……」


着替えなくていいと言われていたアルフレッドだったが、必要になったので着替える様に風花に言われ、面食らっていた。


 アイシャに連れられてアルフレッドが奥の小部屋に行っている間、風花はマットに仰向けになり、自ら脚を使って、股関節を柔らかくする運動をしたり肩のストレッチをしたりしていた。


 カーディナルは隣のマットに寝転んだと思えば、脚を開いて回したりお尻を突き出したりする風花の様子に、顔を覆って溜息を吐いた。


 私が子持ちの既婚者とはいえ、十四歳の娘が男の前でなんて動きを……ハァ

「フーカ、その動きは……誘っているのではないでしょう?」


「え?誘っては無いですけど、今の脚の運動をカーディナルさんもやってみて下さい」


 風花はまだカーディナルに『一緒に身体を動かして』とは誘っていない、どの動きがマックスの脚に良いか、やっていただけだった。


「どの動きが、マックスの脚に良さそうですか?五年間動かしていないから、股関節を柔らかくする必要もありますよね?」


風花はカーディナルに、医者としての意見を求めていた。

スポーツジムをビジターでしか利用した事が無かった風花にとって、エアロビの動きはうろ覚えだし、ストレッチも普段やってる誰でもできるなんちゃってストレッチだけだった。


医者のカーディナルだったら、今のマックスの状態に合わせて、必要な運動やストレッチを考えてくれると思っていた。


「フーカ、そんなにもマックスの事を……」


 カーディナルは、風花がはしたない服を着たのも、淫らな動きをしていたのも、マックスの為にしていたという事がわかり、邪推した自分を後悔していた。


 風花がカーディナルと、マックスの足の機能回復に効果的な運動について相談していると、着替えを終えたアルフレッドが、奥の小部屋から出てきた。


「どうだろう?おかしいところは無いかな……?」


例え学校指定の様な運動着(トレーニングウェア)を着ていても、美形はきまっている……ただ一つ不満な点といえば、パンツの丈が寸足らずでツンツルテンなところだろうか……


「アルフレッド様って、足が長いのですね……」


風花は遠い眼をして呟いていた……


「何を言って……?」


「別に……それよりも、アルフレッド様……今からアルフレッド様にはマックスになってもらいますね」


「は?私がマックスに?」


「アルフレッド様は、マットの上に仰向けになって寝て下さい。カーディナルさんは、私が人形にするのと同じように、アルフレッド様にして下さい」


「わかった…アルフレッド、よろしく頼む」


「アルフレッド様は、カーディナルさんが動かすのに、抵抗せずに、軽く動かして下さいね。では、始めます」


風花は人形に向かって声を掛けながら、動かし始めた。


最初(はじめ)に足首の運動をします。つま先を自分に近付けて、次に遠くへイッチニィで前へ、サンシィで、後ろへ~、これを八回しますよ~」


 カーディナルは風花が人形にするように、アルフレッドの足首を持ち、足先を前後に動かしていた。


アルフレッドはカーディナルにされるがまま、ゆっくりと足を前後に動かされていた。


「はい、次は膝を曲げて~伸ばして~イッチニィで曲げて~サンシィで伸ばして~八回繰り返すよ~」


 カーディナルはアルフレッドの両足を持って、膝の曲げ伸ばしを始めた。マックスの脚ならば簡単に出来る事も、大人のアルフレッド相手では、アルフレッドの身体をカーディナルが覆う様な態勢にならないと難しかった。


 うはぁ~……コレは一部の人種には堪らない態勢……

風花はイケナイ妄想をしそうで、出来るだけ二人の事を見ないように注意するのだった。


マットの上で、準備運動をすませたら、次はレッグストレッチだ。風花はアルフレッド様に椅子に座ってもらうと、前にある板の上にそっと足を乗せるようにと、説明した。


アルフレッドが板の上に足を置くと、板が上下して膝から下の部分が自分の意思には関係なく動く事に、アルフレッドは驚いていた。


「これはレッグストレッチと言って、膝から下の筋肉を鍛えるのに効果的です。マックスが椅子に座って板の上に足を置けば、自動的に膝から下が動いて筋力をつける事が出来ると思います」


アルフレッドは次に、ステッパーに足を乗せていた。左右にある手摺に手を置き、慎重に足を交互に動かし始めた。


「このステッパーに足を乗せて、手摺で体を支えながら左右に体重移動をすると、交互に足を踏み込む事が出来て、歩く事の感覚を思い出せるといいかなぁって……どうでしょうか?」


 風花は知恵を絞って、脚のリハビリに使えそうな物を作成していた。スポーツジムで精巧に出来ていた製品を見て知っている風花は、作った物がちゃんと使えるか不安だった。


最期に風花は、アルフレッドとカーディナルを歩行練習用の平行棒に案内した。


「平行棒は、自分で脚を動かすことが出来るようになったら、こうやって歩行訓練をします」


アルフレッドだけでなく、カーディナルも平行棒を試していた。風花が着替えているとき、他の二つを試していたカーディナルだったが平行棒は、何だかわからなくて試用できなかったからだ。


「アルフレッド様、マックスの部屋からジムに来るまでの壁と階段に、手摺を設置する事は可能でしょうか?」


 風花に聞かれて、アルフレッドはカーディナルと顔を見合わせ、無言で首を縦に動かすと、返事をした。


「風花の思う様にやってくれて構わない。マックスが一人で部屋から此処まで来る様になれるのだろう?」


「はい……マックスが立ち上がって歩き始めたら、歩行の補助と安全にも役立つでしょう。それで、お願いがあるのですが……」




 風花の言葉にアルフレッドは目をむき、そして黙り込むのだった……



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